2025年7月 8日 (火)

ピアノは早すぎず、遅すぎることもない 。 レッスンを始めるのに適した年齢は楽器によって違うのです

例えばバイオリンの場合は、16分の18分の14分の12分の14分の3、フルサイズと、幼児から大人なるまでの間、体格に応じて7サイズの楽器が用意されており、3歳くらいからレッスンを始めることが可能。ところが、フルートやトランペットなどの管楽器には、体格に合わせた分数サイズがなく、小学校高学年位から始めるケースが多い。

このように、楽器を抱えられるか、音を出すために充分な肺活量があるか、弦を押さえるために必要な手の大きさや握力があるかなど、演奏に適した身体になるまで成長を待たなければならないこれらの楽器に対して、ピアノは大人と同じサイズの楽器を子どもに、しかも幼児にも弾かせてしまうということが普通に行われている。

西洋人に比べ、日本人は華奢で小柄。そのため、特に日本の女性ピアニストの中には「もう少しピアノの鍵盤の幅が狭ければ、オクターブが楽に届いて、レパートリーも増えるんだけど……」と思っている人が、実はたくさんいるという。電子ピアノのそれよりも、本物のピアノの鍵盤は重く、コントロールするのにもかなりの筋力が要求される。

外国での初心者事情は不明ながら、日本では「もう少し手が育つのを待って始めれば、悪い癖がつかずに済んだのに……」という話が、そこここで見受けられる。よくあるのは、もみじのように小さな手を、反り返るくらいまでピーンと力を入れて指を広げ、ペタペタと鍵盤を叩く姿。でもそれは、かなり危険な状態。

ピアノには子どもサイズがなく、小さな手で無理をさせてはいけない。同年齢の子どもでも、手の大きさはもちろんのこと、手の骨が確りしている骨太の子、手に厚みのある子もいれば、華奢で反りやすい筋力のない子など、個人差がある。3歳だから、5歳、7歳だからと一概には言えない。何でも早ければよいということではないと。

1人で100回弾くより、上手な人と1回合わせる!

『ピアノを教えるってこと、習うってこと(音楽之友社刊)』の著者は、ある時気づいたことがあった。たとえ生徒が1本か2本の指でシンプルなメロディを弾いていたとしても、それに先生がリズムやハーモニーをプラスしてあげれば、ちゃんと〝音楽〟の形になり、それは、生徒にとってどれほど気持のよい経験になるかということを。

40年ぶり、50歳からのピアノが止められない止まらない

朝日新聞社の論説委員、編集委員を務め、50歳で退職し、以来、夫なし、子なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしの「楽しく閉じていく生活」を模索中と、自著『老後とピアノ』の巻末著者紹介に書いている稲垣えみ子さんは、作品の表紙カバー裏に「はじめに」からの抜粋「私にとってピアノとは、老い方のレッスンなのかもしれない」を記している。

どれだけ衰えてもダメになっても、今この瞬間を楽しみながら努力することができるかどうかが試されているのだ。登っていけるかどうかなんて関係なく、ただ目の前のことを精一杯やることを幸せと思うことができるのか? もしそれができたなら、これから先、長い人生の下り坂がどれほど続こうと、何を恐れることがあるだろう。

参考文献::『ピアノを教えるってこと、習うってこと』(樹原涼子/音楽之友社刊)

『老後とピアノ』(稲垣えみ子著/ポプラ社刊)

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2025年7月 4日 (金)

乃木坂周辺美術館と設計者の他作品紹介 黒川紀章氏の新国立美術館(乃木坂駅に直結)と若き日の代表作

波打つようなガラス張りの外観が印象的なこの美術館は2007年に世界的建築家の黒川紀章氏の設計で竣工した(奇しくも同年に氏が逝去され遺作となる)。展示スペースで展覧会を開催し、講演会やシンポジウムなどの場を提供する新しい文化の創造に寄与する、新しいタイプの施設といえる。なお、レストランやカフェは株式会社ひらまつが展開する。

なお、設計者・黒川紀章氏の代表作には、1972(昭和47)年竣工の中銀(なかぎん)カプセルタワービル(中央区銀座)がある。2本の主柱に合わせて140個のカプセル型居住空間が取り付けられ、単身者向けセカンドハウスとしてデザインされたもので、世界で初めて実用化されたカプセル建築はメタボリズムの象徴的建築とされた。

安藤忠雄氏の『21_21 DESIGN SIGHT』と表参道ヒルズ

新国立美術館を出てミッドタウンに向かうと、北西の緑豊かな敷地につくられた、デザインをテーマとする3つのギャラリーをもつ施設があります。国際的に活躍するデザイナー、三宅一生氏を創立者として始まったデザイン活動の発信基地といえるもの。建築制限から、ほとんどのヴォリュームを地下に埋めているため、足を踏み入れると意外性が…。

同潤会青山アパートの跡につくられたのが、東京都渋谷区の表参道ヒルズ。建物の過半を地中に沈め、高さを表参道のけやき並木と同程度になるように低く抑え、中心にはかつてのアパートの中庭のような広場があり、その周りを表参道と同じ勾配のスロープが周回する。またアパートの一部はそのままのかたちで残されている。安藤氏の会心作か。

隈研吾氏のサントリー美術館(東京ミッドタウン ガレリア3階)と根津美術館

絵画・陶磁・漆工・ガラス・染織など国宝・重要文化財を含む約3000件を収蔵し、「美を結ぶ。美をひらく」をミュージアムメッセージに様々な企画展を開催する(常設展はなし)。建物は隈研吾氏設計の「和のモダン」を基調にした空間。ミュージアムショップとカフェが一体となった「shop×cafe」のほか、茶室「玄鳥庵」もある。

根津美術館(最寄駅・表参道)は、東武鉄道の社長などを務めた実業家・初代根津嘉一郎が蒐集した日本・東洋の古美術品コレクションを保存し、展示するために開館。収蔵品約7600件には、国宝7件、重要文化財92件、重要美術品95件が含まれる。隈研吾設計の和風家屋を思わせる大屋根が印象的。茶室が点在する約17000平方mの庭園も。

乃木坂周辺のその他美術館「TOTOギャラリー」と「森美術館」

TOTOギャラリーは、国内外の建築家の個展にこだわり、出展者自らが展示空間をデザインすることで、その思想や価値観が凝縮された「作品」としての展覧会を創出している。施設内には、建築・デザイン・生活文化をテーマとした書籍を発行するTOTO出版の直営書店があり、国内外の建築、デザイン、インテリアに関する書籍や雑誌のコーナーも。

森美術館は六本木ヒルズ森タワー53階にある。国際的な現代アートの美術館。アートや建築、デザイン等、独自の視点で多彩な展覧会を企画している。さまざまなかたちでアートを楽しめるラーニングプログラムも数多く開催している。美術館としては珍しく22時まで開館(火曜は~17)しているので、仕事帰りや食事の後にも楽しめる。

参考資料:今回はそれぞれの関連サイトを参考にさせていただきました。

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2025年6月25日 (水)

ブルガリアヨーグルトの劇的な世界普及

2人の功労者

ロシア生まれの生物学者イリヤ・メチニコフは微生物が免疫に及ぼす影響を研究し、1908年にノーベル賞を受賞した。パストゥール研究所の主任研究員を務めたメチニコフは「老化は腸内の有害な細菌が原因」だとする説を唱え、ヨーグルトに含まれる数十種類の健康な細菌を体内に取り入れることで善玉菌が悪玉菌を抑えて胃腸を整えると主張した。

パストゥール研究所から数十キロ離れた場所でも、同じ考えのもと研究を進めている研究者がいた。ブリガリア出身の微生物学者スタメン・グリゴフだ。彼は質素な暮らしにもかかわらず、ブルガリア人が世界の平均寿命よりはるかに長生きであることに注目し、ブルガリアのヨーグルトには何か特別な特徴があるに違いないとの仮説を立て、研究を続けた。

スイスの研究所で働いていたグリコフは故郷から自家製のブルガリアヨーグルトがたっぷり入った伝統的な土鍋「ルカトカ」を持参していた。彼はこのヨーグルトを研究するうち、ブルガリアヨーグルトに含まれる細長い棒状の細菌を発見する。グリゴルフの研究成果はメチニコフのもとに届き、彼はヨーグルトが長寿に関係するという自説に確信を持つ。

ブルガリアヨーグルトに関する自説に自信を得たメチニコフは、やがて、画期的なある講演を行うことになる。この講演がヨーグルト史の転機になったとの評価がある。たったひとつの出来事から世界的な食の流行が生まれることはめったにないが、ヨーグルト産業は、190468日にパリで開催されたフランス農業学会の会場で生まれたと言えるだろう。

「老年期」と題したこの講演は、乳酸に含まれる善玉菌の重要性をメチニコフが繰り返し強調するものだった。この微生物は、長寿の国として知られるブルガリアで多く消費される酸乳に含まれています。このことから、ブルガリアの酸乳を食生活に取り入れれば腸内フローラが受ける悪影響を軽減できると考えてよいでしょうと。

このメチニコフの理論は一夜にしてセンセーションを巻き起こした。翌朝、フランスの『ル・タン』紙は、「老けたくない、長生きしたいと願う女性や聡明な殿方にぴったりの処方箋を紹介しよう。それは、ヨーグルトを食べること!」と報じた。海の向こうのアメリカでも1905年『シカゴ・ジャーナル』紙は、ヨーグルトを次のように紹介している。

ブルガリアのレシピを忠実に再現して作られた凝乳は、今では不老の薬とも言われている。このヨーグルトと呼ばれる物質は、腸内のすべての有害な細菌を死滅させると同時に、善玉菌と最高に相性が良い。見かけは普通のクリームチーズが腐ったような感じで、味も似ている。100歳まで生きたい願う人々は、朝食にヨーグルトだけをたっぷり食べていると。

日本にブルガリアヨーグルトが上陸

それは、1970(昭和45)年に大阪で開催された万国博覧会で、ブルガリア館はブルガリアヨーグルトを展示した。これが、本場ヨーロッパの無添加の酸っぱいヨーグルトの味を日本人が知るきっかけとなった。そして、デザートばかりでなく、サラダや料理の素材としても幅広く使われているといった情報もあわせて伝えられた。

これを受け、日本の食品会社が、乳酸菌のひとつであるブルガリア菌を使用したプレーンタイプのヨーグルトをブルガリアヨーグルトとして1971(陽把46)年に発売した。ただ、本場ブルガリアの味と食感は、当初、日本人にとって受け入れにくいものだったが、徐々に「健康」という切り口でその効用が取り上げられ、現在のように広く普及した。

参考文献』:『ヨーグルトの歴史』(ジューン・ハーシュ著/原書房/2021年刊)

『漬物を食べないと腸が病気になります』(松生恒夫著/廣済堂出版/2016年刊)

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2025年6月13日 (金)

ミシンも20世紀の名曲も「夢」の中から

ミシンの発明は恐ろしい夢から

夢の中でひらめくアイデアは、視覚的なメタファーの形をとることも多い。たとえば、イライアス・ハウがミシンの発明に取り組んでいたときのこと。機械に固定した針が簡単に布地を通るようにするにはどうしたらいいか途方に暮れていた。それというもの、ハウは手縫いで使う針のように糸穴は頭にあるものと決めてかかっていたからだ。

ある晩、ハルは、体に彩色を施した未開の部族に取り囲まれ、処刑される夢を見た。部族の戦士たちは槍を手にしていたが、見るとその槍は尖った先端に穴があいていた。ハウは夢から目覚めたとき、針の糸通しの穴の位置は、頭でも真ん中でもなく、針の先端に穴を開けることに気がついた。このちょっとした修正によって、ミシンが現実のものとなった。

ポール・マッカートニーが目覚めるとイエスタデイができていた

1965年5月のある朝、ポール・マッカートニーが目を覚ますと、頭の中に音楽が流れていた。それはとても心にしみるメロディーだった。マッカートニーは起き上がって、ベッドのそばにあるスタンドピアノでその曲を弾いてみた。いい曲だなあ。どこで聞いたんだろう…。当時、ビートルズは映画「ヘルプ!」の撮影中で、彼はロンドンにある母親の家にいた。

マッカートニーはその曲のタイトルを調べてみたが思い当たらない。人に聞かせると、誰もが聞いたことがないという。それどころか、メロディーの感じでは、君が作った曲のようだと言われる。それでも、マッカートニーは夢の中で曲想を得たなどとはどうしても信じられなかった。だから、そのメロディーに遊び心でナンセンスな歌詞をつけてみた――

自分のオリジナルだとようやく確信が持てると、マッカートニーは作曲に着手し、できあがったのが「イエスタデイ」だった。それから40年経った今日でも、「イエスタデイ」は「世界で最も多くカバーされた曲」としてギネス・ワールド・レコーズに認定され、1999年のBBCラジオ2の世論調査において「20世紀最高のベストソング」にランクイン。

ひらめきは休息の後に

難しい問題を前に、徹夜して考えに考え、ついに素晴らしい解決に到達した……そんな経験をしたことはない! 考えすぎると、大抵はつまらない結論に飛びついてしまう。特に、夜更かしして考え続けた場合がそうだ。良いアイデアは、あまり頭を使っていないときに、ふと思いつく。こうした傾向は、脳の仕組みによって説明できる。

脳には繊維状の神経細胞が数多く存在し、シナプスを介し相互に接続し信号を伝達する。特定のシナプス接続が強化されると、同パターンの神経興奮が起きやすくなり、記憶の形成に繋がる。シナプス接続の強化が生じるメカニズムにはいくつかの種類があるが、簡単に言えば、同じことをずっと考えていると、決まった思考パターンにとらわれてしまう。

最も効果的な休息は、おそらく睡眠である。参考文献の著者・吉田伸夫氏は、毎日10時間くらい寝るようにしていると。眠っているのはその半分ちょっとだが、それでも、存分に睡眠をとった方が、脳はよく働いてくれる。面白いアイデアは、覚醒してから23時間の間に思いつくことが多い。夜中にふと目覚めた際の閃き用に、枕元にメモ帳を用意と。

参考文献:『脳は眠らない 夢を生み出す脳のしくみ』(アンドレア・ロック著/      ランダムハウス講談社刊)

『アイデアのおもちゃ箱』(マイケル・マハルコ著/ダイヤモンド社刊)

『この世界を科学で眺めたら』(吉田伸夫著/技術評論社刊)

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2025年6月 3日 (火)

3人の写真家の眼差し「折々のことば」

3人の写真家が取り上げられた「折々のことば」は、20154月から始まった朝日新聞朝刊1面のコラム。執筆者は大阪大学名誉教授ほか複数の文化施設の責任者にも名を連ね、単独著作だけでも80冊以上ある高名な哲学者・鷲田清一さん。古来の金言からツイッターのつぶやきまで、さまざまな「ことば」を紹介し、思索をめぐらせます。

2024・9・26・27(3216 ・3217) 土門拳『風貌』から

いい写真というものは、写したのではなくて、写ったのである。

続くことばも味わい深い。「計算を踏みはずした時にだけ、そういういい写真が出来る」。作為をはぐらかすのだ。そういう写真を「鬼が手伝った写真」だと、写真家は言う。教育だってそう。子どもは「育てる」よりも「育つ」物と考えたほうがいい。大人がなすべきは、そこにいれば子どもが勝手に育つような空間を用意しておくことだろう。

気力は眼に出る/生活は顔色に出る/教養は声に出る     

さらに秘められた感情は口のまわりに、年齢や悲しみは後ろ姿に出ると、写真家は言う。なるほど伏せておきたいものにかぎって自分には見えないまま他人の目に晒されている。なんと無防備なこと。ただ「本人が欠点と思っているところが、実は案外、唯一の魅力だったりする」と、写真家は私どもを慰めてくれる。

2025・4・22・23(3385・3386) 島尾信三『魚は泳ぐ』から

人間はねぇ……スイッチを押すところを間違えると、間違って、ちゃあんと間違った人生になるんですよ。

人生が逸れても崩れだしても、「間違い」として否定できる能力とエネルギーがあるうちは修復も可能だ。が、まずはその原因となった状況から「逃げる方法」を知らないと、本当に壊れてしまうと写真家は言う。矛盾した自分も実は自分が演じ分けているという感覚がなくなり、死に抗うことなく吸い込まれてゆくと。

狡(ずる)さを訓練できていない人は、すがるものを必要としていますね。(島尾伸三)

対立や軋轢(あつれき)が生まれたり、犠牲が出たり、「悲しい物語」が発生したりしないように、「ズルく、まぁ上手に」やることが、人として独立して生きてゆくには必要だと、写真家は語る。未知の事態にも柔らかく対処できる能力を欠くと、過去の特定の経験に囚われたり、建前にばかりこだわってそれが少なからず犠牲者を生むことに無関心になったりすると。

2025・5・21・22(3405 ・3406) 星野道夫『ゴンべの森へ アフリカ旅日記』から

旅のスリルとは、思わぬ出来事が起こることではなく、何でもない一瞬一瞬の中にあるのかもしれない。

アラスカで暮らす写真家が初めて赤道近くのタンザニアを訪れた。ある日湖畔を散歩中に、網を繕う青年と出会い、おもわず笑みを交わした。些細(ささい)な光景であるが、世界のどこにあっても生存に欠くことができない共通の営みに異郷で触れると、たんなる移動や観光ではないときめきが生まれる。

原野に浮かぶ光にも、大都会を埋め尽くす夜景にも、ぼくは同じような愛(いと)しさを感じていた。

アラスカに生活の拠点を置く写真家は、飛行機でニューヨークに移動中、初めに荒涼たる原野にポツンと灯(とも)る光を見、次に大都会の煌々(こうこう)たる夜景を眼にする。自然を変えなかった暮らしと自然を改造しつくした暮らし。そのいずれにも地上における人々の生存の健気さ、儚さを見てしまうという。

出典:『朝日新聞・朝刊』「折々のことば」より

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2025年5月30日 (金)

入浴死を防ぐ「風呂カラオケ」のイロハ

ひとつでも思い当ったら、風呂カラオケの始めどき

「入浴中にウトウトしてしまう」

「最近つまずきやすい」

「食事中によくムセる」。

今は問題ないかたも「転ばぬ先の杖」として、ぜひ習慣にしてください。

「浴槽で溺れる」悲劇を防ぐ、ワタナベ式「風呂カラオケ」の方法

お風呂に浸かって、好みの昭和歌謡や童謡・唱歌を3曲歌う。

持ち時間は10分以内、お湯の温度は41℃まで。

1曲目はいつも同じ定番曲でのどの調子を確かめる。

あとの2曲は自由に、唄い終えたら、ゆっくり立ち上がって浴槽から出る。

「風呂カラオケ」に適した曲

歌詞を思い出してメロディーに乗せて歌うと脳はほどよく活性化してウトウトしない。

10分以内ルールを守れば熱中症にならず、浴槽からゆっくり出るので、立ちくらみを起こして失神し溺れることもほぼ防げる。なぜ昭和歌謡や童謡・唱歌(後述)かというと、歌詞やメロディーが頭に入っているので、のどの調子に集中して、気持ちよく歌えるから。

レコード大賞受賞曲や懐メロ人気曲は、繰り返し放送されることもあり、よく覚えている。さらに、昭和のヒット歌謡曲は全般に音域広く、喜怒哀楽、愛情などの感情を豊かに歌い上げる。それにより、口まわりの筋肉やのどの筋肉、舌が活発に動き、のど筋トレーニング曲として優秀。童謡や唱歌も音域広く、楽しさや嬉しさに溢れた曲が多く、気が晴れる。

認知症の予防・リハビリのための「回想法」というトレーニング

過去のできごとを思い出して語ることで、脳の血流量が増えることが確認されている。

お風呂は個室で,だれも見ていないので、思いきり歌える。なお、うろ覚えの部分はハミングや、歌詞を「ねいねい(歌詞をつけずに「ね」と「い」だけで歌う)」に置換えて歌う。どちらも、のどに無理な力がかからない。優れたのどの筋トレです。

風呂カラオケ おすすめ曲ベスト20

【歌謡曲】

「北国の春」:出だしが高めの音で始まるので、その日ののどの調子がわかりやすい。

「涙そうそう」:メロディーがゆったり穏やかで、落ち着いて歌いやすい。

「北の国から」:歌詞に縛られないので、記憶の引き出しが次々に開き、脳が活性化する。

「襟裳岬」:歌手のしわがれ声は味わい深いが、それだけにコンプレックス感じずに歌える。

「結婚しようよ」:なんとなく歌えそうだが実は難しい。でも、一気に青春時代の気分に。

【その他 歌謡曲】

「ダンシング・オールナイト」「異邦人」「ワインレッドの心」「川の流れのように」「木綿のハンカチーフ」「昴」「天城越え」「およげ! たいやきくん」「いい湯だな」「青い山脈」「翼をください」

【童謡・唱歌】:「花」「シャボン玉」「紅葉(もみじ)」「故郷(ふるさと)」

風呂カラオケ9つのメリット

①しゃべらなかった日も、ちゃんと「発声」できる。 ②のどの調子で、「今日の健康状態」がわかる。 ➂記憶と感情が活性化し、認知症が遠ざかる。 ④ストレスがやわらぐ。 ⑤胃腸のマッサージになり、便秘解消。 ⑥よく眠れる。 ⑦声も顔も老けない。 ⑧ムセたりよろけたりしにくくなる。 ⑨入浴中に溺れない!

参考文献』:『毎日10分 長生き風呂カラオケ』(渡邊雄介(声とのどの専門医)著/中央公論新社/2024210日発行)

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2025年5月20日 (火)

「博物館浴」にはリラックス効果がある

博物館浴(2025120日『日経・夕刊』博物館浴「令和なコトバ」より)

「博物館浴」の名付け親は緒方泉(九州産業大学特任教授)氏で、「博物館の見学を通じ、博物館の持つ癒し効果を人々の健康増進・疾病予防に活用する活動を意味する」と。

各地に充実した博物館があるのに、日本人が博物館を訪れる平均回数は年12回。これを増やすヒントをくれたのは、英国の博物館協会のHPのコピーだった。

「博物館は私たちのQOLQuality Of Lifeの頭文字。生活の質・生命の質)を高め、心と体を増進させる)」と書いてあった。博物館に人を呼び込むのに、こういうアプローチがあったのかと感心し、20年から、博物館に通う人の体調の変化を調べる実証実験を開始。」

その際この活動に付けたのが博物館浴(Museum Bathing)という名。

全国84カ所の協力を得て、1200人以上のデータを蓄積。すると、博物館で過ごすことにすごい健康効果(10分程度いただけでもリラックスする)があることがわかった。

美術館で古美術を見た人は抑うつ・落ち込み、疲労・無気力の数値が下がり、抽象画を見た人は活気・活力の数値が上がるなど、見た内容で効果の差があることも分かった。

英ロンドン大の研究チームも50歳以上の約6000人を対象に、文化芸術を鑑賞する機会が多い人と機会の少ない人の2グループに分けて健康調査を実施したという。

その結果、「鑑賞の機会の多い人は機会のない人に比べ、死亡率が有意に低いという結果が出た」。なんと博物館は長寿も促進するらしい。

日本国内には4,484館の博物館園が(令和3年度実績)

博物館文化の振興・推進強化を図ることを目的として、昭和3年に設立された日本博物館協会の機関誌『博物館研究』 (2023年4月号)によると、令和3年度実績で日本国内には4,484館の博物館園が存在。 内訳は、博物館法に基づく登録博物館943館、博物館相当施設430館、合計1373館で、残り3,111館(約 69%)がいわゆる博物館類似施設。

2025年55日に49施設が登録(純新規登録は12施設、37施設は再登録)

【新登録博物館】

日本大学生物資源科学部博物館/日本獣医生命科学大学付属博物館/長崎バイオパーク/大野城心のふるさと館/鹿児島県歴史・美術センター黎明館/三菱一号館美術館/狭山市立博物館/京都市動物園/ふじのくに地球環境史ミュージアム/お茶の文化創造博物館

【新指定施設】

香川大学博物館/アスムイハイクス(沖縄石の文化博物館)

【新登録博物館(再)】

和歌山県立自然博物館/流山市立博物館/名古屋市科学館/氷見市立博物館/磐田市香りの博物館/土浦市立博物館/大分県立歴史博物館/泉屋博古館東京/川越市立博物館/静岡県立美術館/世田谷区立郷土資料館/水戸市立博物館/上高津貝塚ふるさと歴史の広場/松阪市文化財センター/松戸市立博物館/秋田県立美術館/秋田県立博物館/

秋田県立近代美術館/指宿市考古博物館時遊館COCCOはしむれ/山種美術館/斎宮歴史博物館/公益財団法人佐野美術館/公益財団法人宮坂考古館/古川美術館/宜野湾市立博物館/掛川市二の丸美術館/我孫子市鳥の博物館/永青文庫/茨城県立歴史館/一般財団法人/北方文化博物館/ベルナール・ビュフェ美術館/しもだて美術館/MOA美術館

【新指定施設(再)】

秋田県立農業科学館/京都大学総合博物館/喜多方市美術館

参考文献:日本博物館協会の機関誌『博物館研究(2023年4月号)』

参考資料:2025120日『日経・夕刊(令和なコトバ)』

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2025年5月15日 (木)

犬の嫉妬⁉ と知っておきたい愛犬家心得

『作家と犬』(平凡社編集部編著) 

犬の嫉妬

セツタア種の子持ちの牝犬が、新しく買われて来たセパアド種の仔犬への嫉妬の余り、鉄道路線へ自分の子共を銜(くわ)へて行って、母子心中を企てたという騒ぎが、さきごろ私の知人の家にあった。やはりほかの犬への嫉妬から、家出をしたという犬の話も稀には聞く。

愛犬家心得(本文掲載順)

・血統書ばかりでなく、親犬の習性を良く調べた上で、仔犬を買う。

・決して放し飼いしない。

・犬を訓練所に入学させ、また、犬猫病院へ入院させるにも、預け先の犬の扱いをよく知っておく。

・一時の気まぐれやたわむれ心から、犬を買ったり、貰ったりしない。

・数を少なく、質をよく、そして一人一犬を原則とする。  

・犬も家族の一員のつもりで、犬の心の微妙な鋭敏さに親しむこと。

・犬に人間の模型を強いて求めず、大自然の命の現れとして愛すること。

・純血種を買うこと。

・病気の治療法を学ぶよりも、犬の病気を予知することを覚える。

・まず牝犬を飼って、その子供を育ててみる。

・犬を飼うというよりも、犬を育てるという心得をどこまでも失わない。

アングラ演劇の祖・唐十郎『盲導犬』という演目冒頭部分より

新宿のコインロッカーの前を5匹の盲導犬を伴った五人の愛犬教師が歩いている。ゆっくりとそして厳粛に。時おり立ち止まると、犬の胴輪でその犬を厳しく打つ。すると稚い質問がまるで子供か大人か分らぬ時の息吹で、天井から聞こえてくる。犬と共に歩きながら五人の男はそれに誠実に答える。まるで、子供の時間の無着成恭のように……

天井からの声 盲導犬とはどんな犬ですか?

五人の愛犬教師 生まれながらの盲導犬というものはありません。盲導犬となるための訓練を正しく受けた犬を、正規の歩行指導を受けた盲人が使用した時、初めて盲導犬と言います。

天井からの声 盲導犬とはどんな働きをするのですか?

五人の愛犬教師 まず、盲人の「第二の目」として、盲人の歩行を助けます。特殊な胴輪をはめて、主人の左側につき、主人の安全を確かめながら誘導します。命令に従っては危険だと犬が判断した時は、命令に従いません。これは利巧な〝不服従〟といえます。さらに主人の歩行の自由を助けることによって精神的独立と勇気を蘇らせ、社会復帰の可能性を最大にすることが盲導犬の使命です。

天井からの声 盲導犬は主人の行先を知っていて誘導するのですか?

五人の愛犬教師 そうではありません。犬は「目」の役割を果たすだけで、どこへ行くかという意思は盲人自身にあるわけです。犬は道の分かれ目でからずとまり、主人の〝ライト〟〝レフト〟〝ストレート〟の命令に従って動くのです。知らない場所へ行くときには、晴眼者と同じで、あらかじめ地図を調べたり、または聞きながら行きます。

天井からの声 どうして命令は英語なのですか?

五人の愛犬教師 日本語には男言葉と女言葉があります。男女どちらが使ってもよく、他の人が聞いてもあまりきつい感じがしない短い言葉というので英語を使用しています。

天井からの声 盲導犬はどのように訓練されるのですか?

五人の愛犬教師 まず服従することを教えます。

参考文献』:『作家と犬』(平凡社編集部編/平凡社刊)

『唐十郎 全作品集 第三巻』(唐十郎著/冬樹社刊)

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2025年5月 7日 (水)

文学作品から知る日・欧の自転車事情

夏目漱石の『自転車日記』

「近頃は人から勧められて自転車を始めたものですから、朝から晩までそればかりやっています」「自転車は面白うござんすね、宅ではみんな乗りますよ」——こんなやりとりが、漱石の短編『自転車日記』にある。1902年秋、留学中の漱石は初めて自転車に乗り、操縦の習得に悪戦苦闘しながらも、やがてしばしば郊外へのサイクリングに出かけた。

イギリスでは1885年に現代の一般的な自転車の元祖といえる「セーフティ型」が登場、空気入れタイヤの普及も手伝って、1890年代半ばには欧米諸国で爆発的な自転車ブームが起きた。一種のバブルでもあったこのブーム後のロンドンで、漱石は自転車を初体験し、「宅ではみな乗りますよ」といった女性の言葉にうろたえたのだった。

ただ、イギリスと聞いて自転車を思い浮かべる人は現代では稀だろう。自転車はビクトリア朝末期の女性の自由を拡大し、19201930年代には労働者の通勤や余暇の足として社会に広く浸透した。輸出先のオランダに根づいたママチャリ型車体(現地では「オマフィーツ=おばあちゃん自転車」:ダッチ・バイクとも呼ばれる)もイギリスではほぼ姿を消した。

テムズ川沿いの幹線自転車道路などは素晴らしく、シェアサイクルも充実しているものの、地下鉄やバスも便利なことから、自転車の存在感は強いとはいえない。市のデータでも、自転車が移動の主な手段となった割合(交通分担率)は20162019年で約2.5%(20年前比では2倍に)と低水準で、28%のオランダやデンマークとは一桁違う。

北杜夫『どくとるマンボウ航海記』

「この国ではネコもネズミも自転車に乗る」。船医として世界を巡った北がロッテルダムで見た光景は、彼にとって驚くべきものだった。「雪の中を、脛をだした若い娘が自転車でゆく、スラックスの娘もゆく。お婆ちゃんまで勇ましくベダルをこいでゆく」。『航海記』は1960年作だが、オランダは今も自転車の国、それも世界一の自転車利用大国である。

1750万人が暮らす同国の自転車保有台数は2018年の推計で約2290万台(うち210万台が電動アシスト)、人の移動の主な手段(代表交通手段)は、2019年のデータで約28%を自転車が占める。オランダ自転車利用度(交通分担率)の高さは、2015年の推計値で他国と比較すると人口およそ3分の1のデンマークと同等、ドイツやイタリアの約2倍、イギリスやフランスの6倍強、アメリカの約12.5倍と突出している。

日本ではしばしば「欧米」が一括りに自転車先進国と呼ばれるが、大半の国は日本より自転車利用が遅れていて、オランダやデンマークを仰ぎ見る立場にある。オランダの人々にとっては「自転車に乗ることは息をするようなもの」で、「特に考えたりせず当たり前にそうしているだけ」だ。世界の都市では今、日常的自転車文化の形成が共通目標になっている。

生活に溶け込んだオランダの自転車文化は、自転車のタイプからも窺える。とりわけ象徴的なのは、歩行に似た姿勢で乗れ、跨ぎ易いフレームを持った「オマフィーツ」(おばあちゃんの自転車)で、性別・年齢を問わずに多くの人に使われている。なお、オランダでは自転車利用の抑制材料になりがちなヘルメットの義務化はなされていない。

※参考文献:『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた』(宮田浩介編著/小畑和香子&南村多津恵/早川洋平共著/学芸出版社刊)

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2025年4月30日 (水)

龍安寺・石庭と寝殿造風の日本の小学校

作家の志賀直哉と画家の川端龍子による龍安寺再発見!

雑誌『女性』(19248月)に掲載された志賀直哉の随筆「龍安寺 相阿弥の庭」より

「一樹一草も使わぬという事は勿論其庭に一樹一草もない意味ではない。吾々は広々として海に点在する島々を観、島々には鬱蒼たる森林の茂るのを観る。僅か五十余坪の地面に此の大自然を煮つめる為にはこれは実に、相阿弥にとって唯一の方法だったに違いない。」この志賀の随筆は龍安寺石庭を有名にする効果があったようである。

たとえば、物理学者で古寺調査でも有名な中村清二博士が書いたように、「近く川端龍子氏がこの庭園を題材として彩筆を揮い、また志賀直哉氏が其の大著『座右宝』の中にこれを収めたので急に世人の注目を喚起して、訪問者が頓に増した」という。

時系列では、19248月にまず志賀の随筆『龍安寺の庭』が『女性』誌に。9229日の第11回日本美術院展覧会に川端龍子の屏風絵「大蛇龍安泉石」が出品され、2632630日、志賀は京都と奈良の絵画と絵巻、仏像彫刻、庭園建築の写真を丸善で展示。同時に『座右宝』を出版し、龍安寺石庭の写真を「建築及び庭園の部」に掲載している。

寝殿造の伝統を継承した公立小学校(昭和後期頃の小学校の敷地の解説文より)

平行して建つ校舎の両端を渡り廊下(渡廊)でつなぎ、中間には中庭(坪:寝殿と対屋つなぐ廊下の中間にできた方角の区画)があります。それらの正面には運動場(大庭)が配されています。校舎の外周には駐輪場や自動車の駐車場(屋戸)があり、運動場の端には、季節を感じさせる桜や、目隠しのための樫などが植えられています。

近年新しくつくられる校舎では該当しない場合もありますが、小学校の敷地の構成は、典型的とされる寝殿造り住宅(主に平安時代における貴族の邸宅として使われていた:代表的建造物は京都御所・紫宸殿や東三条殿)に似通っています。これも多数の人が一つの行事をするための土地利用は、傾向が似ていることをそれとなく示しています。

「庭」とは

古くは祭紀や儀式を行うための神聖な場所をさしたと言われています。日本の政治は主に天皇を中心とする朝廷によって行われてきましたが、まさに朝廷の「廷」は庭に由来するのです。早朝、白砂を敷いて浄化された庭に皇族が集まり、儀式を行ったことがその語源とされています。『日本庭園のひみつ』(宮元健次著/メイツ出版刊)より

地球の規模から日本を眺めると、列島全体が日本庭園のようである

周辺に大洋が、内海が、湖が、山河がある。日本庭園はその縮図である。桂離宮には天橋立が、小石川後楽園には白糸の滝や寝覚の床が、水前寺成趣園には富士山が、金閣寺には淡路島がある。池は海を模してあることが多く、よく見れば池畔には岬がある。水面に突き出た石は島。湧き水から流れ出る小さな水路は川を、また砂地もしばしば川であり、海である。

『和の美が心を洗う 日本庭園』(TAC出版編集部編/TAC出版刊)より

 

※参考文献:『志賀直哉で「世界文学」を読み解く』(郭南燕著/作品社刊)

『京都発・庭の歴史』(今江秀史著/世界思想社刊 序章より)

『日本庭園のひみつ』(宮元健次著/メイツ出版刊)

『和の美が心を洗う 日本庭園』(TAC出版編集部編/TAC出版刊)

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2025年4月22日 (火)

「雑談・会話・対話」と3つの「きく」

コミュニケーションの3段階

「雑談」は、ただのおしゃべりや井戸端会議など、その場だけの話ですむ場合です。特に結論を出す必要もなければ、少しぐらい話がずれても支障がないことが多いのです。この場合は「聞く」でいいのです。いちいち詳しく聴かれ(聴かれ)たり、気持ちにまで入ってこられては、相手も自分も困ることがあります。

「会話」は、情報の交換や社交の話し合いなど、「雑談」よりは少し関りが深くなります。「聞く」と「聴く」を適当に取り混ぜて成り立っていると言えるかも。もちろん訊く(質問する)ことも大事です。責任や主体性が「雑談」より少し要求されるかもしれません。時々「聴く」姿勢を入れていくと関係がより深まったり、盛り上がったりするでしょう。

「対話」は、互いの意見や考え、感情をやり取りする深い話し合いになります。信頼関係に基づき、お互いを理解しようとする、意味深い話し合いです。この「対話」のレベルで話し合うには、お互いに「聴く」ことが必要になります。なお、日常生活では、軽いやり取りで、楽しく過ごしたいだけの「雑談」のレベルで十分なことも多いのです。

カウンセリング初心者の陥りやすい対応

「聴く」ことに目覚め、いついかなる時も聴こうとします。しかし、相手がそれを望んでいるとは限ません。時に、相手は軽いおしゃべりの積りでいるのに、気持ちまで分かろうとされることは、侵入されてしまうと感じることもあるでしょう。準備ができていないのに探られるようで、不快な感じになることもあります。関係を深めるには段階が必要なのです。

いつまでたっても深い関係が持てないときは

「雑談」や「会話」から「対話」へ深めたい時には、「聴く」は有効です。聴くことで、信頼関係は形成されます。しかしあくまでも対等な関係ですので、自己開示も重要になります。また、相手が何をどう言えばいいか困っている時は、「聴く」姿勢に切り替えると、それが相手の助け舟となり、言いたかったことがはっきりすることがあります。

3つのキク

・聞く(hear):音が耳に入ってくるといった受動的な聞き方です。漢字のごとく、門を閉じて中を隠す、中がよくわからない意を含むのだそうです。平原に門があってその門が開いたり閉じたり、入ってきたり入らなかったり、聞き捨てたり聞き流したり……。半聞きができるのが「聞く」です。

・聴く(listen):「聞く」に対して「聴く」は、真っ直ぐに耳を向けてきき取ること。「聞く」が受動的なのに対して、「聴く」は積極的なきき方になります。カウンセリングの基本に積極的傾聴というものがありますが、まさにそのことです。そして、一生懸命に「聴く」ということは、実はものすごくエネルギーを使うので疲れます。

・訊く(askあるいはquestion):自分のききたいことを相手に訊く、こちらの知りたいことが決まっていて、そのことを訊くという質問になります。会話を深めるために質問という意味の「訊く」ことが必要です。しかし「訊く」場合でも「聴く」を組み合わせないと、「探られた」という感じになり、訊問(interrogate)と錯覚されかねないので要注意です。

参考文献:『アサーション・トレーニング 深く聴くための本』(森川早苗著/日本・精神技術研究所刊)

『こころの声を「聴く力」』(山根基世著/潮出版社刊)

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2025年4月13日 (日)

「駅弁」と「駅弁大会」と名品誕生秘話

日本人の心を掴んだ「駅弁大会」の草創期 

鉄道駅を中心に、細々と営業をスタートした各地の駅弁が、今日のように全国区商品としての「駅弁」となったのには、1966(昭和41)年にスタートし、今日まで連続して開催されてきた、京王百貨店新宿店の「駅弁大会」の貢献が大きい。だが、百貨店の「駅弁」大会の嚆矢は、1953(昭和28)年に高島屋大阪店開催の「有名駅弁即売会」といわれる。

百貨店の「駅弁大会」は、秀逸な企画が連発されたこともあり、1990年代後半には話題性の高さからマスコミの注目度も格段にアップしたという。そして京王百貨店の駅弁大会は、ふるさと代表味を競い、日本人の郷愁や郷土愛を喚起する「駅弁の甲子園」ともいうべき一大イベントへと発展していった(全都道府県を網羅するのには37年を要した)。

念願の「駅弁甲子園」が実現

『ニッポンの課長』(重松清著/日経BP)によると、2003年に沖縄にモノレールが開通し、沖縄県初の駅弁『海人がつくる壺川駅前弁当』が誕生した。加えて、各駅の業者さんの廃業や撤退で空白地帯となっていた徳島県が、その年のお盆から「阿波地鶏弁当」の販売を始めたことで、念願の全都道府県参加の「駅弁甲子園」が実現できることになったという。

50回連続1位の「いかめし」が殿堂入り

京王百貨店新宿店「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」で、2020年まで、なんと50回連続で売り上げ1位を記録したのが、北海道・森町にある、函館本線森駅の駅弁「いかめし」。まさに駅弁の王者といえる。その圧倒的な実績により殿堂入りを果たした「いかめし」は、2021年の第56回大会以降はランキングから除外されることとなった。

小さな町の、小さな駅から伝説が

製造元は、1903(明治36)年森駅で創業した株式会社いかめし阿部商店。昭和初期に水産業の方で失敗し、多額の借金を抱えていた頃に「いかめし」のアイデアが生まれた。素材が豊富なイカの胴体にわずかなお米(現在はうるち米ともち米をブレンド)を入れて煮ると結構パンパンに膨らみ食感が良くなり、旭川駐屯地に向かう兵隊さんに喜ばれたという。

活気ある実演販売が人気を呼ぶ

阿部商店は、催事にあらかじめ作ったものを運ぶということを絶対にしない。全国どこの会場へ行っても、職人が生のイカに米を詰めるところから始める。それがこだわりとのこと。最高記録で1日に1万個を売ったことも。「いかめし」は鍋でいったん煮えてしまうと、箱に詰めるのは早いので、スピーディーに販売でき5個、6個のまとめ買い客が多い。

製造元の阿部商店は、周辺で最大の駅であった函館駅に駅弁販売の願い出をしたものの、すでに他の駅弁業者が販売していたため却下され、やむなく森駅で販売することになった。だがその森駅では、現在「いかめし」は売られていない。ローカル線の宿命ともいえるが、2018年にキヨスクの閉店に合わせ販売を終了した(駅前の自社店舗では継続取扱い)。

廃線によって駅弁が販売できなくなった例など

北海道・興部(おこっべ)駅の駅弁「帆立しめじ弁当」は、1989(平成元)年に名寄本線の廃止と共に駅弁としての役目を終えている。また、群馬県・横川駅の「峠の釜めし」は、各地の駅弁大会で常に上位人気の有名駅弁だが、沿線でも利用者が最小の横川駅で売れる数はほんのわずかで、駅近の直営のロードサイド店の売上がはるかに多いという。

※参考文献:『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(長浜淳之介著/交通新聞社刊)

『ニッポンの課長』(重松清著/日経BP刊)

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2025年4月 8日 (火)

世界的デザイナーにとっての百の「白」

【白湯】

茶事とは、お茶を喫する、あるいはものを食するという人の営みの一端。茶室に入る前の待合で、白湯が出される。煎茶でも酒でもない、無味ながら温まった湯を丁寧に供されると、日々の暮らしで汚れてしまった心身が清められたような気分になり、これまで味わってきた食の記憶までもが一度初期化され、零度の境地へと連れ戻された感覚になる。

【さくら】

白湯を入れた白磁の茶碗に塩漬けの桜の花弁をひとひら落す。湯に薄まりつつ立ち上ってくる桜の香り。湯をかすかに染めるさくらの色。京都のしだれ桜は美しい。そして幻想的でもある。しかし日本人の心にあるさくらはソメイヨシノでもしだれ桜でも山桜でもない。ようするに「さくら」という幻想ではないかと最近では思うようになった。

【醤油差し】

磁器で忘れてならないのは、飯茶碗や皿、醤油差しといった、工業製品として量産される日用品。陶磁器というと手作りの一品ものや芸術的評価の定まったものに目が行きがちであるが、生活の美を作り出しているのは、量と安定性である。手ぶれや歪みを称揚してきた日本文化であるが、暮らしの小さな幸福を支えているのは、工業製品としての陶器である。

【紙】

紙の本質は、汚れやすく、傷みやすいという点である。いかにもはかなげなものがすれすれの命脈を保ちながら眼前にあるという、繊細な感覚を揺り起こす緊張感が、紙というものの根源である。人類はこのような「無垢」を突きつけられ続けることで、知恵と集中力、そして細やかな感受性に辿りついたのである。

【白衣】

医師や研究者は白衣を着ている。襟付きの長袖で丈は膝下あたり。制服ではなさそうだがなぜこれを纏うのか、診察や化学実験には、厳粛さが求められる。派手な柄物の衣服など身につけていてはきまりが悪い。白衣なら袖を通すだけでその場の空気が変わる。診察をする方も受ける方も、落ち着くのであろう。

【概念】

人間は概念を持ち、そういう目をしている。ライオンは概念を持たず野生の目をしている。もしも言葉を持たないで、純粋に本能だけで生きているとすると、僕はライオンのような目をして「うー」と終始唸っているかもしれない。「白」もまた言葉であり概念である。だから詩人(下記)はこのような表現を生み出し、僕らは白について考えたりするのである。

「どんなに白い白も、本当の白であったためしはない。一点の翳もない白の中に、目に見えぬ微小の黒がかくれていて、それは常に白の構造そのものである。白は黒を敵視せぬところか、むしろ白は白ゆえに黒を生み、黒をはぐくむと理解される。存在のその瞬間から白はすでに黒へと生き始めているのだ」。(谷川俊太郎「灰についての私見」部分)

 上記は原研哉著『白百』(中央公論社)の百の「白」から、冒頭部分の4行で著者の意図がある程度読み取れ、ブログ投稿者がその文意に共感できるものを、100節中の6節取り上げさせていただきました。

最後は、原研哉著『白百』の「中央公論社 あとがき」です。

白があるのではない。白いと感じる感受性があるのだ。だから白を探してはいけない。白いと感じる感じ方を探るのだ――日本文化の繊細さと簡潔さを生み出し支える美意識の原点を、デザインの現場で活躍する著者が多角的に考察した「白の美学」。なお、著者は「まえがき」で、白に一を加えて百。この漢字のイマジネーションにも勇気をもらったと。

【真珠】

真珠は生まれ方が神秘的である。貝には、貝殻を形成する器官が備わっている。「外套膜」と呼ばれる部分がその機能を担うが、この外套膜の一部が、小さな異物とともに、何らかの拍子で貝の内側に侵入した結果、貝殻と同様の光沢がある物質でその異物を包み込んでしまう。これが真珠である。

※参考文献:『白百』(原研哉著/中央公論社刊)

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2025年4月 2日 (水)

初心者用オーケストラにまつわる面白雑学~カラオケの語源~

”空オーケストラ”からきており、その略語で”カラオケ”と呼ばれるようになったとされています。主に放送業界で使われていた言葉と言われており、歌手を呼んで歌を披露する際にバックの演奏家を集めなくてもいいように、「歌なし(カラ)の演奏(オーケストラ)」をテープなどに録音しておいたそうです。その後、カラオケビジネスが台頭しました。

イタリアの指揮者(アルトゥーロ・トスカニーニ)とシルクのハンカチーフ

ドビッシー『海』のリハーサル中、彼はある一節で、自分が求める感覚がうまく伝わってないことに気づいた。少し考え、彼はポケットのハンカチを頭上高く投げ上げた。団員はうっとりと、優雅に落ちてくるハンカチを見つめていた。それが床に落ちたとき、トスカニーニは満足げに微笑んだ。「これだよ」と彼は言った。「こういうふうに演奏してほしい」と。

世界最古のオーケストラは日本の雅楽

世界の文化を吸収してオリジナルな”日本流”をつくってしまうのは、この国のお家芸。大陸の音楽と日本独自の音楽が融合してできたのが、「雅楽」。701年に日本で初めて制定された本格的な法律「大宝令(たいほうりょう)」には、宮廷で行われるさまざまな音楽や舞を学び、演奏し、伝えていく公的な機関として「雅楽寮」を設置することが記されています。

雅楽寮(うたまいのつかさ)には、歌人・舞人・楽師など数百人が配属され、当時の官庁のなかでも、最も大きな規模を備えていました。伝来当初の雅楽は、混沌としたものだったようですが、歴代天皇の庇護のもと、この雅楽寮を中心に300年近くかけて形式が整えられていき、平安時代には芸術文化としてほぼ完成したとされています。

管楽器(三管)    ・笙 (和音)・篳篥(主旋律)・龍笛(旋律)

絃楽器(両絃)    ・琵琶(拍節)・筝 (拍節)

打楽器(三鼓)    ・鞨鼓(拍節)・太鼓(拍節)・鉦鼓(拍節)

管楽器、絃楽器、打楽器の編成は西洋音楽のオーケストラと同じ。

リーダー不在のオーケストラ

そのオーケストラは「オルフェス管弦楽団」という。米国の小編成楽団で、グラミー賞を二度も受賞した世界的なオーケストラだ。弦楽器16名、管楽器10名の組織編成で、リハーサル、演奏、レーディングにいたるまで、一貫して「指揮者なし」で行う唯一のメジャー楽団であり、自律型演奏の先駆け的存在である。

この楽団の最大の特徴は、固定的なリーダーがいないこと。作品ごとに最適なリーダーが選ばれて「作品解釈の素案」をつくる。その案をもとに、メンバー全員で緊密に対話しながら演奏を構想し、完璧なハーモニーを共創する。メンバーは対等な発言権を持っており、対立があった場合はリーダーが仲裁する役割を持っている。

彼らには「オルフェウス・プロセス」と呼ばれる8つのルールが存在する。

1.その仕事をしている人が権限を持つ 2.演奏に自己責任を持つ 3.役割を明確にする 4.リーダーシップを固定しない 5.平等なチームワークを育てる 6.話の聞き方を学び、話し方を学ぶ 7.コンセンサスを形成する 8.職務にひたむきに献身する

※参考サイト:『 https://dhits.docomo.ne.jp/feed/10003082』

https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/88611/ #:~:text

※参考文献:『アイデア・バイブル』(マイケル・マハルコ著/ダイヤモンド社刊)

『だから僕たちは組織を変えていける』(斉藤徹著/クロスメディア・パブリッシング刊)

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2025年3月25日 (火)

「ホスピタリティ」と「サービス」の違い

「サービス」serviceの語源

ラテン語のservus(奴隷)という言葉から生まれ、英語のsalve(奴隷)、servant(召し使い)、servitude(苦役)という言葉に発展している。サービスにおいては、顧客が主人であって、サービスの提供者は従者というわけである。ここでは上下関係がはっきりしているから、従者は主人に服従し、主人のみが充足感を享受することになる。

「ホスピタティ」Hospitalityの語源

ラテン語のHospes(客人の保護者)に由来する。本来の意味は、巡礼や旅人を寺院に泊めて手厚くもてなすという意味である。この語源から派生して、長い年月をかけて英語のHospital(病院)、Hospice(ホスピス)、ホスト(Host)といった言葉が次々に生まれていった。ゲストとホストは常に相互信頼、共存共栄という同じ目線の中に存在理由がある。  

サービスとホスピタリティの対比

「協同・協創・協働」(co-operation)の「協」に対し、「共同・共創・共働」(collaboration, interrelation)の「共」が同じように使われる場合が多い。しかし、「協」と「共」とは本質的に異なる。「共」は共に同じ土俵で、同じ目線で行動する対等性に重心がある。しかし、「協」は三位一体性を強調しているが、必然的に「3つの力」には上下の格差が存在する。

「協」の3つの力のうち、協働には主体間にタテ組織による主従関係が含まれている。主従関係が見られるサービスの語源の場合は「協」が有効となる。これに対し、上下関係となる「力」が介在することのないホスピタリティでは、ヨコ組織となる「共」が適切となる。ホスピタリティとは双方が共通の土俵に立ち、対等にキャッチボールし合うこと。

信用と信頼はサービスとホスピタリティの違いに置き換えることができる

サービスで大事なのは、言われたことをきちんとやり続けることです。サービスとは「約束」だからです。提供すべきものを提供し続ける。これは会社やホテルの信用につながります。

これに対して「ホスピタリティ」とは、一人ひとりのお客様に自分の気持ちを寄り添えたときに、自然と導き出される「おもてなし」を意味しています。

たとえば、「ふだんはテーブルに花を置くけれど、このお客様はテーブルでお仕事されるようだから、違う場所にお花を置こう」

「ふだんはソファをテーブルの方に向けるけれど、このお客様は夜景を楽しみながらソファに座るようだから、少し外側に向けておこう」

ホスピタリティの3つの要素

「セイフティ(Sefety/安全であること)」とは、安全を確保することです。命にかかわることであり、サービスの上で最も基本的なことです。客室のドアを二重ロックにするとか、バスルームに手すりをつけるとか、人々にとって、きめ細かい安全が配慮された状況をさしています。

「コーテシーCourtesy/心くばりのあること)」とは、客の立場で役に立つことを考えることです。これは客に対して心をこめて接することを表しています。

「アメニティ」(Amenity /快適であること)とは、「快適さ」を指しています。これは「気が楽になり快適に生活できる」ことです。ホスピタリティは、「厚くもてなす」という心をこめた言葉と理解できます。

参考文献:『「真実の15秒」で個客をつかむ』(浦郷義郎著/光文社刊)

『ホスピタリティ・ビジネスの人材育成』(山上徹著/ 白桃書房刊)

『たった一言からはじまる「信頼」の物語』(高野登著/日本実業出版社刊)

『もてなしの習慣 みんなで観光まちづくり』(福留強著/悠雲社刊)

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