ピアノは早すぎず、遅すぎることもない 。 レッスンを始めるのに適した年齢は楽器によって違うのです
例えばバイオリンの場合は、16分の1、8分の1、4分の1、2分の1、4分の3、フルサイズと、幼児から大人なるまでの間、体格に応じて7サイズの楽器が用意されており、3歳くらいからレッスンを始めることが可能。ところが、フルートやトランペットなどの管楽器には、体格に合わせた分数サイズがなく、小学校高学年位から始めるケースが多い。
このように、楽器を抱えられるか、音を出すために充分な肺活量があるか、弦を押さえるために必要な手の大きさや握力があるかなど、演奏に適した身体になるまで成長を待たなければならないこれらの楽器に対して、ピアノは大人と同じサイズの楽器を子どもに、しかも幼児にも弾かせてしまうということが普通に行われている。
西洋人に比べ、日本人は華奢で小柄。そのため、特に日本の女性ピアニストの中には「もう少しピアノの鍵盤の幅が狭ければ、オクターブが楽に届いて、レパートリーも増えるんだけど……」と思っている人が、実はたくさんいるという。電子ピアノのそれよりも、本物のピアノの鍵盤は重く、コントロールするのにもかなりの筋力が要求される。
外国での初心者事情は不明ながら、日本では「もう少し手が育つのを待って始めれば、悪い癖がつかずに済んだのに……」という話が、そこここで見受けられる。よくあるのは、もみじのように小さな手を、反り返るくらいまでピーンと力を入れて指を広げ、ペタペタと鍵盤を叩く姿。でもそれは、かなり危険な状態。
ピアノには子どもサイズがなく、小さな手で無理をさせてはいけない。同年齢の子どもでも、手の大きさはもちろんのこと、手の骨が確りしている骨太の子、手に厚みのある子もいれば、華奢で反りやすい筋力のない子など、個人差がある。3歳だから、5歳、7歳だからと一概には言えない。何でも早ければよいということではないと。
1人で100回弾くより、上手な人と1回合わせる!
『ピアノを教えるってこと、習うってこと(音楽之友社刊)』の著者は、ある時気づいたことがあった。たとえ生徒が1本か2本の指でシンプルなメロディを弾いていたとしても、それに先生がリズムやハーモニーをプラスしてあげれば、ちゃんと〝音楽〟の形になり、それは、生徒にとってどれほど気持のよい経験になるかということを。
40年ぶり、50歳からのピアノが止められない止まらない
朝日新聞社の論説委員、編集委員を務め、50歳で退職し、以来、夫なし、子なし、冷蔵庫なし、ガス契約なしの「楽しく閉じていく生活」を模索中と、自著『老後とピアノ』の巻末著者紹介に書いている稲垣えみ子さんは、作品の表紙カバー裏に「はじめに」からの抜粋「私にとってピアノとは、老い方のレッスンなのかもしれない」を記している。
どれだけ衰えてもダメになっても、今この瞬間を楽しみながら努力することができるかどうかが試されているのだ。登っていけるかどうかなんて関係なく、ただ目の前のことを精一杯やることを幸せと思うことができるのか? もしそれができたなら、これから先、長い人生の下り坂がどれほど続こうと、何を恐れることがあるだろう。
参考文献::『ピアノを教えるってこと、習うってこと』(樹原涼子/音楽之友社刊)
『老後とピアノ』(稲垣えみ子著/ポプラ社刊)