『「至極」のラーメンを科学する』より
著者の川口友万(ともかず)氏は、テレビ局から「雨の日にラーメンが美味しくなる」理由について聞かれたことがある。このとき、
資料として、有名ラーメン店の店主が「雨の日の方がラーメンはおいしくなる」と雑誌に答えた記事が添えられていた。
雨の日にラーメンが美味しくなる? 雨で客足が減ってスープを煮る時間が長くなる? ところが、そういうわけではないらしい。本当に味が変わるそうだ。
客足が無関係なら、天気だろう。すぐに思いついたのは気圧だった。普通、水は100度で沸騰するが、富士山では90度前後で沸騰する。なぜかといえば気圧が低いからだ。
雨の日は気圧が低いから、晴れの日よりも沸騰する温度が低い。沸騰する温度が低いということは、同じ火力なら沸騰するまでの時間が短いということだ。それとラーメンの味がどう関係するのか。そこで『ラーメン技術教本』(柴田書店)をひっくり返し、各名店のスープづくりの秘訣を調べると、どの店も90度前後で長時間スープを煮ていた。
秋葉原の名店『饗 くろ㐂』(もてなしくろき)は鶏ダシのスープを90度でキープしながら4時間炊く。90度を超えると「鶏の風味が飛んでしまう」からだ。合わせるかつおだしベースの魚介スープも「湯温を90度以下に保ち、ゆっくり加熱することで、えぐみを抑えて、濁りのないスープに仕上げる」。
目黒の『麺や維新』のスープの取り方は「着火から約2時間後でスープの温度は90度」、『つけめんTETSU』は動物系スープは煮立てるが、魚介スープは「食材から苦みが出ないように、90度をキープ」して煮出す。
上記3店の記述は、いずれも『ラーメン技術教本』(柴田書店)による。
低気圧で鈍る舌をラーメンが目覚めさせる
天気はスープの出来だけでなく、食べる側の味覚にも影響する。
機内食が美味しくないというのはよく聞く。多くは調理済みの料理を保温して出すのだから、作りたてに比べ美味しくないのは当たり前だと思うが、そうではない。味覚の変化により、地上で食べるよりも機内で食べたほうが美味しくないらしいのだ。
2010年、ドイツの航空会社ルフトハンザの依頼でフラウンボーファー建築物研究所が行った調査研究によると、空気が乾燥し、気圧が低い部屋(飛行機の機内は0.8気圧前後)では甘味と塩味感受性が30%も低下するそうだ。つまり人は晴れた日よりも雨の日の方がより塩味が強く甘みの強い味を美味しいと感じる。
季節によっても味覚は変化する。冬のラーメンが美味しいのは、温かいからだけではないのだ。『女子大生の季節における味覚感度の変動』(仙台白百合女子大学)によると同大の1年生(18~19歳)81人を対象に夏と冬の味覚感度を比較したところ、五味の識別検査の正答率は夏が69.1%に対して、冬季は30.9%とダブルスコアの差がついた。
低温下では味覚が鈍くなり、濃い味を欲するようになるらしい(基礎代謝が上昇することで高カロリーの食べ物を体が欲するため)。こってり濃厚なラーメンの味は鈍った味覚を満足させるだろう。そういうわけで雨の日は、出汁をしっかりとった清湯のラーメンがおいしくなるし、豚骨ギトギトの濃厚ラーメンは鈍った味覚をキックしておいしさを復活させる。
参考文献:『「至極」のラーメンを科学する』(川口友万著/株・カンゼン刊)
『ラーメン技術教本』(柴田書店刊)
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