「冠婚葬祭マナー研修から」東西(主に東京と大阪)の違いを考える①
関東から関西にかけては、すでに桜の盛りも過ぎてしまいました。この春を彩る日本の風物詩ですが、大阪の桜は東京よりも早く咲くと思っている人の方が多いのではないでしょうか。桜前線は九州から北上しますので、そう考えるのが普通なのかもしれませんが、日本気象協会のデータを見ると、平年並みであれば東京都心部の開花の方が大阪市内より2日早いそうです。東西の誤解の一端が垣間見える事例の一つではないでしょうか。
昨年、“人とのかかわりを大切にする”という創業者の精神が受け継がれている大手企業の「冠婚葬祭マナー研修」を、東京と大阪で担当させていただきました。その折、関東でも関西でも隣り合わせた県(都・府)でも、〈供花の種類〉〈冠婚葬祭時の包みの表書き〉などが異なるので、手配については細心の注意を払うように指導したことがあります。桜の開花に関する勘違いなら笑い話ですみますが、地域性を読み違えると、おおごとになりかねません。この厄介な、地域(東西)による違いがどのようにして生まれたかについて、今回は著名人の言葉や解説から読み解いてみたいと思います。
言葉力の東西比較(司馬遼太郎氏と山口瞳氏の対談より)
出典は『大阪の常識東京の非常識』(近藤勝重著/2004年幻冬舎刊)
(司馬)東京には、江戸時代のころからたくさん人間が集まっていますね。元禄を過ぎたころに、百万人もいたそうです。で、幕府は二百数十年間、江戸に人口を流入させないように苦心して、いろいろお触れを出している。結局刀折れ矢尽きて、東京になってしまったわけです。
各県から人間が流入するので、共通言語が必要になってきますね。それが東京ことばになった。各県から来た連中に「これがほしい」とか、「それはダメだ」というような意味をはっきりわからせなければいけないので、東京ことばは、日本の言葉の中では、極めて例外的に意味が明晰なんですね。上方ことばは、その点では土語(どご)です。日本人の遅れたる生活感情と一緒の言葉ですから、グジャグジャいって、顔色を見て察してくれということになるんですね。
ところが、東京ことばは、さっき申したように論理的な言葉の伝統が三百年もありますから、どうにも理屈っぽくなる。ところが、理屈でいうと、間違うことがありますね。はじめはこう言おうと思っていても、論理というものは妙なもので、理屈自身が理屈を引きずっていってとうとう思わぬ結論に行くときがある。そういう言語の違いが、東西の行き違いになるんじゃないでしょうか。
いま、大阪に本社がある会社も、東京に進出していますが、東京と大阪で電話で業務上の連絡をしているとき、たいてい喧嘩になるというのも、言語の違い、いや言語以前のセンスの違いからくるでしょう。
(山口)関西出身の人で、ふつうは東京弁を使っているのに、物を断るとき急に関西弁になる人がいますね。あの感じはズルくて実にいやです。
(司馬)私もときにそれをやる(笑)。断るというのは、やはり失礼ですよ。失礼だが断らなきゃ仕方がない。八百屋のオヤジが、大根を下さいといわれて大根がなかったとする。すると大阪では「どうもすんまへん、すぐ取り寄せまっさ」というんです。翌日入荷するだけのことで、すぐ取り寄せるわけではなくて、これはウソなんですけどね・・・。
ほとんど、大阪市浪速区出身の司馬さんが語っていて、東京都大田区出身の山口さんはたじたじの感じですね。やはり司馬さんの〝浴びせ倒し〟でしょうか。若い方には山口瞳さんをご存じない方も多いかもしれませんが(私もそれほど知っているわけではありません。念のため・・・)、開高健さんと一時代を画したサントリー(旧寿屋)の広告を担当した方で、その後文筆家として活躍(『江分利満氏の優雅な生活』で直木賞受賞)しています。
今回は、言葉力による東西の比較でしたが、次回は文化面の比較を取り上げます。
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