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2010年6月

2010年6月26日 (土)

病院のホスピタリティ①

6月23日『日本経済新聞』朝刊の最終面「交遊抄」に、日野原重明先生〔現在98歳で聖路加(ルカ)国際病院理事長・同名誉院長〕の薫陶を受けた茨城キリスト教大学学長・小松美穂子氏の【看護はアート】が掲載されました。今回のテ―マである「病院のホスピタリティ」に関連する内容でもあり、このご紹介から本稿をスタートすることにいたします。

『日本経済新聞』朝刊「交遊抄」 小松美穂子氏【看護はアート】より
「日野原先生は常に『看護は科学に支えられたアートである』とおっしゃる。対話を通じて患者との相互理解が可能になることで、患者の心や体の痛みに加え、自分が未経験のことまでも察知できる医療従事者を目指す。その相互理解に至るコミュニケーションこそが、看護における基本理念としての『アート』だという。」

●小松美穂子氏の【看護はアート】とまったく同じお考えを、地方医療で目覚ましい成果をあげ、〝奇跡の病院〟とマスコミ等でよく取り上げられる諏訪中央病院の前院長(現在は名誉院長)でNHKラジオ第1放送の祝日特別番組「鎌田實のいのちの対話」でも有名な鎌田實先生が著書『超ホスピタリティ おもてなしのこころがあなたの人生を変える』(PHP刊)で披瀝されていますので、参考までに転載いたします。

超ホスピタリティはアートなのです。それを実践するあなたはアーティスト
「看護の正解が一つでないように、ホスピタリティの正解も決して一つではありません。明確な根拠に基づいている技術であれば、正解は一つでしょう。でも、ホスピタリティはある面で技術なのですが、ある面では、〝芸術(アート)〟であるところが非常に多いのです。それゆえ、相手に応じて、状況に応じて、正解は変わります。正解は一つではないのです。とても難しい仕事ですが、そこからやりがいも生まれるのです。」

●鎌田先生は、本来アートというのは、〝技術〟と〝芸術〟という二つの側面を持っており、現在はそれが分かれて〝芸術〟は感情的な世界を重んじるようになり、〝技術〟は逆に、感情を否定して科学的根拠を重んじるいわゆる科学技術という形で発展を遂げてきたと解説されています。そして〝芸術〟を「人間に対する働きかけ」、〝技術〟は「物に対する働きかけ」と区分けしておられます。第14回で「サービス」と「ホスピタリティ」の違いに触れましたが、この説を拝聴すると【サービス=技術】、【ホスピタリティ=芸術(アート)】にきちんと置き換えられるような気がいたします。
さて、「病院のホスピタリティ」シリーズ第1回の締めくくりは、前出書籍から諏訪中央病院の看護師さんの、患者の立場を慮った独創的な発想についてです。そして次回は、今やホスピタリティ医療の代名詞ともなった諏訪中央病院の、血のにじむようなこれまでの歩みを、ほんの一部ですが紹介いたします。

鎌田先生にとって〝忘れられないホスピタリティ〟
「私にとって忘れられないホスピタリティがありました。30年ほど前の話です。大腸スコープの検査を済ませた男性患者さんが、直後、院長である私を呼びました。何か不都合でもあったのかと出向くと、患者さんは開口一番『先生、この病院はいい病院だなあ』とおっしゃったのです。彼はこれまでいくつもの病院で、大腸がんの検査を受けてきたそうですが、どこの病院でも検査中は30分位下半身丸出しのままにされて、非常に恥ずかしい思いを続けてきた。」

内視鏡検査時にはく穴あきパンツは『諏訪中央病院」の看護師さんの創作
「ところが今回は、一人の看護師が患者さんの気持ちを考えて、紙パンツを用意し、後ろにはハサミで穴を開けて患者さんにはいてもらって検査をしたそうです。『パンツをはかせてくれたのはこの病院が初めてだ』と病院の評価につながりました。いまでは商品化(カネボウサイエンスから内視鏡・注腸検査用穴あきトランクスとして発売された:山本注)されている穴あき紙パンツですが、一人の看護師のホスピタリティが患者さんの気持ちを救ったのです。」

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2010年6月19日 (土)

サービスとホスピタリティ③ホテルのホスピタリティ

ホテルのホスピタリティといえば、〝ゲストのリクエストに決して「ノー」といわずに希望を実現する〟ことを教育方針としているリッツ・カールトンが代表格でしょう。「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女である」と書かれている「クレド=マニュアル※」も印象的です。ホテルのホスピタリティを語る上で、このリッツ・カールトンの話題を欠かすことはできませんが、その前に、日本人が感じた真のホスピタリティを、他のホテル事例で紹介させていただきます。
※質の高い独自の「クレド」を作成し、ゲスト(利用者)から高く評価されたことから、今日ではリッツ・カールトンの専売特許のように語られる風潮がありますが、クレドはラテン語で信条、志(こころざし)を表す言葉です。

ホスピタリティのプロ(力石寛夫氏)を感動させたサプライズとは
力石氏は75回に取り上げた『勝てるホスピタリティ』の著者ですが、氏の体験談が『ホスピタリティ・マインド』(石川英夫著/研究社刊)にありました。サンフランシスコにキャンプトンプレイスというホテルに泊まり、気に入った力石氏は3月後に予約をして空港からタクシーで到着すると、

ドアマンがMr.CHIKARAISI,Welcome back to CAMPTON PLACE HOTEL.と3月前に1回しか泊っていない氏の顔を覚えていて声を掛けてきたそうです。そして、その日はたまたま氏の誕生日だったのですが、ベルマンに案内されて部屋に入ると、テーブルの上にきれいな花とシャンパンがあって、「私どもはこのお部屋を力石さまのお誕生日のために予約しておきました」というメッセージがありました。

部屋番号は氏の誕生日と同じ612号(6月12日)。その時の感動を氏は一生忘れないだろうと述懐しています。氏の想定では、フロントの人が3月前の宿泊表に書かれた誕生日を見て思いついたのだろう……とのことです。ベルマンに「しびれた」と言うと、「サービス業が私の天職です」と言わんばかりの,ほんとうにうれしそうな顔をして、happy birthday!と祝ってくれたそうです。

ホテルでの「サービス」と「ホスピタリティ」の違い
●似たようなお話が超売れっ子の神田昌典氏にもありました。氏の著書『口コミ伝染病』によれば、NY郊外のマリオットホテルにチェックインした氏は、「おめでとう、本日のゲスト大賞です!」と受付の女性から語りかけられ、5分後に果物やコーラ、10ドル相当の朝食券他数点が届けられたそうです。値段はたいしたことはないが「正直、嬉しかった」とのことでした。

遠い旅先でのことですから、このようなハプニングへの好感度は高いでしょうが、当日宿泊客の誰かに当たるものがたまたま当たったのは「サービス」の範疇を出ないでしょう。これに対し、前出の力石氏が受けた、〝氏の当日だけの特別な事情〟に配慮されたものは、まさに「ホスピタリティ」のそのものといえるのではないでしょうか。

ザ・リッツ・カールトン大阪に届いたお客様からの感謝状
あるお客様からザ・リッツ・カールトン大阪での滞在の感想を記した手紙が届きました。そこには、「何よりも感動したのは、デザートのときでした」と書かれていたそうです。そのお客様は数人の友達とホテル内の日本料理店で食事をし、デザートになったとき、連れの1人が「メロン、苦手なんだ・・・」と仲間内に漏らしたところ、それを耳にしたサービススタッフは、何も言わずにメロンの皿を持ってその場を離れ、再びそのお客様のもとに現れたとき、皿にはみずみずしい桃が用意されていたそうです。『お客様からの感謝状』(佐藤寛著/実務教育出版刊)より。

●上記のような例はリッツ・カールトンでは、日常風景の一つなのでしょうが、このようなもてなしを受けた側には、深い感動として心に刻まれるのでしょうね。高級ホテルだからできる対応との見方も否定しきれませんが、第14回の冒頭に記した「町のレストランでのお誕生日サプライズ」にも同様の事例が見られました。
ホスピタリィ精神は企業(店舗)のランクではなく、お客さまと対応する個々人の心の持ちようによって実現可能と皆が前向きに取り組めば、その裾野はもっと広がり、豊かな社会の実現に寄与することになるのではないでしょうか。

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2010年6月12日 (土)

サービスとホスピタリティ②ホスピタリティの歴史と語源

さて今回は、少し硬いテーマですので、タイトルを見ただけで敬遠されそうですが、11日に開幕したサッカーのワールドカップ解説で、久し振りにお顔を拝見できる前日本代表監督のオシムさんも登場しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
なお、歴史と語源については『ビジネスクリエーターとホスピタリティ』(亀川雅人編著/創成社刊)を参考にさせていただいております。

【歴史】ホスピタリティの原点は古代オリンピック
紀元前776年から紀元393年まで、4年に一度、オリンピアで行われた競技大会(古代オリンピック)には各地から多くの人々が参加して競技を楽しみ、それを観覧する人々が集まったとされている。これらの旅行者のために、ギリシャの都市国家では、街道沿いに「タベルナ」と称される簡易食堂が建てられ、パンとワインがふるまわれた。

また、旅行者は街道沿いの民家に泊めてもらうことが習慣となっていた。この時代には、外来者はギリシャ神話の最高神ゼウスの保護を受ける「聖なる人」として、厚くもてなされる習慣があった。このような歓待の精神は「ホスピタリス(hospitalis,歓待する、手厚い、客を厚遇する)」と呼ばれ、最高の美徳とされた。
(宿泊費がタダなら、この時代に生まれたかった! でも、食事を「タベルナ」と言われたら困っちゃいますね)

【語源】ホスペス → ホスピタリス ⇒ ホスピタリティ・ホテル・病院
ホスピタリティはラテン語のホスペス(hospes)が語源と前回紹介しましたが、実はホスペスに由来する上段に記したホスピタリス(hospitalis)が、古フランス語、英語に借入され派生した言葉のようです。なお、ホテル(hotel)、病院(hospital)、ホスピス(hospice)などの言葉もルーツは同じです。このように見てくると、語源のホスペスは現代社会にとても大きな影響を与えたことがわかります。

東京オリンピックで オシム氏が感動した 日本のホスピタリティ
『オシムの言葉』(木村元彦著/集英社刊)によると、Jリーグのジェフ市原の監督から日本代表監督に転じたオシム氏と日本との最初の出会いは東京オリンピックでした。ユーゴ代表としてFWで出場した若き日のオシム選手は、日本を相手に2ゴールを上げているのだそうです(当時は憎いヤツ!だった?)。

「この時に、生まれて初めてカラーテレビを観賞して感激し、また農村をサイクリング(代々木の選手村に4000台の自転車が用意されていた:山本注)の最中には、見ず知らずの外国人にいきなり梨を振る舞ってもてなしてくれるという日本人のホスピタリティに触れて感激し、親日家になったと言われている。」

●上の「」内は原文のままです。ホスピタリティの原点であるオリンピックの場で、外国人が日本人のホスピタリティ精神を語っているだけで興味がそそられるのに、その当事者が、あのオシム氏なのです。
「ライオンに追われたウサギが逃げ出す時に、肉離れをしますか? 準備が足らないのです」の名言(それとも迷言?)で選手に猛練習を課した名監督の言葉だけに、日本人としてちょっと鼻が高くなった思いがするのは、私だけでしょうか。

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2010年6月 5日 (土)

サービスとホスピタリティ①サービスとホスピタリティの違い

ある「CS研修」の最後に「サービスとホスピタリティはどのように違うのでしょうか?」との質問を受けました。「サービス」と「ホスピタリティ」は微妙に重なり合う部分があり、難しいテーマですので、「ある飲食店に届いたお客様からのお礼メール(『勝てるホスピタリティ』力石寛夫著/玉川大学出版部刊より)」をもとに以下の解説をしました。

お礼メールから「サービス」と「ホスピタリティ」の違いを考える
お礼メール:「先日○○店を利用させていただいた者です。7人での利用でしたが速やかに7人一緒に座れる席を用意して頂いたうえに、会話に耳を傾けていてくれたらしく、あす誕生日を迎える友人へのサプライズも用意していただいたりと、とても高度な接客に驚きと感動を覚えました。祝ってもらった友人もとても喜んでいました。本当にありがとうございました!」

解説:この事例は分かりやすいと思います。ご来店時に〝7人一緒の席をご用意した〟のは、気の利いた店ならどこでもする「サービス」ですね。しかしその後の、“お客さまのお一人が明日お誕生日”という会話内容は、常に傾聴姿勢を持っていないと吸い上げらません。お客さまにとって特別な状況に対する適切な対応(この場合は〝お誕生日のサプライズ〟)が、お客さまに“驚きと感動”を呼び起こしました。広くアンテナを張り、得られた個別情報をもとに感動を呼ぶ「おもてなし」をすることが、「ホスピタリティ」なのではないでしょうか。

20世紀は「サービスの時代」であった/21世紀は「ホスピタリティの時代」
これは、『ホスピタリティ原論』(山本哲士著/文化科学高等研究院出版局刊)に出てくる表現ですが、私の実感に丸々フィットするものですから、お気に入りのフレーズとして(出典を明確にし)よく使わせていただいております。同様の認識は『ホスピタリティ精神の深化』(山上徹著/法律文化社刊)にも、世紀をまたいで「サービス社会からホスピタリティ社会へ」と書かれておりました。なお、山本流の解釈だけでは不十分と思い、以下にプロ中のプロの見解をお示しいたします。

国際的なホテル東京支配人が語る「サービス」と「ホスピタリティ」の違い
『日本が教えてくれる ホスピタリティの神髄』(マルコム・トンプソン著 /詳伝社刊)という、ザ・ペニンシュラ東京総支配人が書かれた本の中に、「サービス」と「ホスピタリティ」の違いが明瞭に記されていますので、紹介いたします(ホスピタリティの語源については次回詳しく触れます)。外国人の超一流ホテルマンが、日本体験を踏まえての解説ですので、わかりやすいと思います。

「サービス」は従属関係で、「ホスピタリティ」は対等関係
一般的に、「サービスは従属関係で、ホスピタリティは対等関係」などと解説されます。それは両社の語源であるラテン語をたどることによって導かれたものです。簡単に記せば、次のようになります。
■サービス (語源)「奴隷」を意味する「Servus]  (類語)「召使い」(Servant) (概念)従者が主人に仕えること
■ホスピタリティ (語源)「客人の保護」を意味する「Hospes」  (類語)「病院」(Hospital)「宿泊所」(Hostel) (概念)対等を前提とした主人と客人の関係

「サービス」と「ホスピタリティ」は一体化したもの
辞典的な解説では、こうなっています。しかし、私の考えは異なります。結論から述べましょう。
「サービス」と「ホスピタリティ」は一体化したものです。「サービス」は「ホスピタリティ」という歯車を回す潤滑油のようなものであり、それがあることで全体が円滑に運営されるのです。

また、「ホスピタリティ」は感覚的なもの、形のないもので、触れることはできません。しかし「サービス」は実際に見ることができ、有形に近いものです。そのためにはスキルやテクニックが要求されます。
お客様の視点から言えば、「ホスピタリティ」はお客様の経験全体を指し、そこで感じられる感覚、印象です。その経験をよどみなく回し続けるために必要なのが、「サービス」という潤滑油なのです。

●今回のテーマは、冒頭に記した駆け足「解説」時から、自身の宿題のように感じていたものです。過去の「ホスピタリティ研修」と、ある病院での「講演」資料をベースに、10回くらいのシリーズ(間に旬のテーマを挟むかもしれませんが…)で、「ホスピタリティ」の〈語源と歴史〉から業種別に〈ホテル〉〈病院〉〈ディズニーランド〉〈航空会社〉〈レストラン〉〈その他業種〉を、目線を変えて〈言葉のホスピタリティ〉と〈チームで支えるホスピタリティ〉を、具体例を織り込みながら、取り上げるつもりです。

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