病院のホスピタリティ③
ある公共サービスの利用者の満足度を調査によると、消防署、図書館、水道などに対する満足度は高かったのですが、病院は11番目だったそうです。さすがに、街の病院や医院ではここまでひどくないでしょうが、大学病院や大規模な総合病院は似たり寄ったりかもしれませんね。世論調査でも、半分近くの人たちが日本の医療に不満、不安、不信感を持っているそうですから・・・。
病院には〝診てあげる〟という思い上がりの姿勢が・・・
公共サービスの利用者満足度調査と世論調査は前2回登場の『超ホスピタリティ』から拝借しましたが、同書の中で著者の鎌田先生はこの辺の事情を
「顧客満足(CS)という視点は、一般企業ではいち早く取り入れられています。ホテルや旅館、一流レストランなどではすでにみごとに定着しています。しかし、ホスピタリティが最も必要な病院や介護施設などでは、診てあげる、入所させてあげるという思い上がりの姿勢から、顧客満足は長い間、根付きませんでした。」と述べられています。さて次は、「医療コンシェルジュ」という新しい試みに取り組む亀田メディカルセンターの紹介です。
答えはいつも「イエス!(Always Say YES !)」の亀田メディカルセンター
リッツ・カールトンのクレドと同じように、答えはいつも「イエス!」を心掛けている病院が千葉県鴨川市にある亀田メディカルセンターです。『事例でわかる ホスピタリティ・サービス』(ホスピタリティ・サービス研究会編/日本能率協会マネジメントセンター刊)によると、同センターでは「医療コンシェルジュ」という試みを取り入れているそうです。入院患者の買い物の代行や、施設の案内、また、遠方から来院される方のための交通手段の手配や、家族のための宿泊案内など、患者の生活面のサポートから医療に関する相談までを受けるそうですから、入院家族にとってはとてもありがたいですね。
●亀田メディカルセンターがモデルにしたのは、アメリカの製薬会社メルク・アンド・カンパニーだそうです。専門家によればホスピタリティはアメリカ型の大量生産、大量消費の思考に基づいたサービスの仕方に対抗するかたちで、1960年代以降に取り入れられてきた(角山榮氏)。また、1980年代から「ホスピタリティ産業(hospitality industry)という用語がアメリカで使われはじめ、1990年代になって、日本の産業界や教育界でホスピタリティに対する関心が高まってきた(古閑博美氏)。とのこと。
●上記を見ると、鎌田先生の『諏訪中央病院』のホスピタリティ医療への取り組みは、時代をだいぶ先行していたようですね。「日本では2002年に日韓共同で開催されたサッカー・ワールドカップを契機に観光業界や観光政策を語る場合に使われ始めるようになった外来語です(『日本とアメリカ』より)」との見解もありますので追記いたします。
諏訪中央病院も亀田メディカルセンターも患者さんの支持を得て、経営は順調のようですが、こうした取り組みが病院経営にどのくらい影響があるのかを具体的なデータで見てみることにいたしましょう。
ホスピタリティ医療は病院経営にどのくらいプラスをもたらすか
医療文化社2009年4月刊行の『医療サービスと顧客満足』によると、患者の総合満足度を5段階評価(5が一番評価が高い)してもらい再利用意向を質問したところ、入院患者・外来患者共に総合満足度が【4】では再利用意向は40%前後でしたが、総合満足度が【5】になると再利用意向はいずれも90%を超えました。
また、「サービス選択意思決定過程で重視する有形な証拠」の質問に対し、一番回答(5つまで複数回答可)が多かったのは「従業員の態度・行動」で、「設備・備品の清潔さ:2位」「立地の良さ:3位」を上回りました。
●患者さんの総合満足度が【4】から【5】で再利用意向が倍以上違うことに驚かされます。マーケティングをほんの少しかじった山本なりに分析をしてみますと、総合満足度【4】はサービスがよいと感じたレベル、【5】がホスピタリティに心を動かされたレベル、といえるのではないでしょうか。病院が、好んでくるところではなく、止むを得ず来なければならない場所であることが、この総合満足度の【1】の違いに大きく跳ね返っているような気がいたします。
さて、次回は、「サービス選択意思決定過程で重視する有形な証拠」で最重要視される「従業員の態度・行動」、その矢面に立つ看護師さんのご苦労と、感動的なシーンを書きます。
※本ブログ内容とは別に、お問い合わせ・ご質問等ございましたら、【プロフィール】(画面左顔写真下)の〈メール送信〉からお願いいたします。
| 固定リンク
「ホスピタリティ・CS研修」カテゴリの記事
- 出版(共著)のご紹介を兼ね、身近な素材(アメ)によるミニCS講座です(2016.07.03)
- 互恵的利他行動促進にはアメとムチのどちらが効くか? 利他学(5)(2015.02.26)
- 視線を感じると人は利他的行動を取る 利他学(4)(2015.02.22)
- 「評判」が人に互恵的利他行動を起こさせる? 利他学(3)(2015.02.19)
- 4つの「なぜ」 続・ティンバーゲンの問い(後篇) 利他学(2)(2015.02.15)
コメント