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2011年2月

2011年2月26日 (土)

メラビアンの法則⑭ 採用(就職)面接(1)

今回から4回にわたり「採用(就職)面接」です。『メラビアンの法則』が書かれたのは、マレービアン著『非言語コミュニケーション』(聖文社)でした。研修シリーズ第36回で示した「好意の総計=(言葉)7%+(声)38%+(顔の表情)55%」の等式(文中は公式ではなくこの表現が使われている:山本注)は96ページに登場しますが、その次のページに書かれているのが、以下の採用(就職)面接に関する記述です。この前後の解説文が、その後の過剰(誤)解釈の引き金になった可能性もありますので、出来るだけ詳しくご紹介いたします。
※今回、あえて「採用(就職)面接」としたのは、心理学の分野で「面接」というとカウンセリングを想起する方が多いので、その混同を避けるためです。

採用(就職)面接中の応募者観察について、ダイレクトな記述あり!
(本文97頁より)「就職面接の時、求職者は申し分のない返答をしたとしても、行動がそれと矛盾している場合は、採用はおぼつかないであろう。言葉では、その仕事に興味があり、一生懸命働くつもりで、それに、その会社の行っていることが意義あることだと信じている、と述べるかもしれない。つまり、言葉による好意の表明である。しかし、言葉で表された熱意にもかかわらず、顔が無表情で、声に生気が乏しい場合は、面接者は、直感的にその求職者が言っていることは本心ではないと判断してしまうかもしれない。」

●動きの乏しい採用(就職)面接中の応募者観察には『メラビアンの法則』が有効であることに異議をさしはさむ余地は少ないでしょう。問題は第一印象を決定づけるもう一つの要素、入室退出時の動作及び面接中の応募者の限られた所作に適用が及ぶかです。この点について、面接に特定した記述ではありませんが、本文(100頁)に、
「二番目(感情の総計)の、更に一般的な等式は、言葉と表現を組み合わせるためにのみ作成されたものである。この結果から、推定すれば、次のような、安全度のかなり高い一般化を行うことが可能である。」と但し書きをつけ、さらに矛盾したメッセージを受け止めた時と限定して、以下の記述があります。

「言葉以外の行動が、言葉と矛盾する時、メッセージ全体のインパクトを決定するのは前者である場合が多い。言い換えれば、表情と音声表現、および接触、位置(距離、前かがみ、または視線)、姿勢、身振りなどは、すべての言葉より重要であり、メッセージが全体として与える感じを決定してしまうのである。」
※ここで見落とせないのは、太字にした「言葉以外の行動が、言葉と矛盾する時」とシーンが特定されていることです。この文章を見落とすか、意図的に無視することで、過剰(誤)解釈につながったことが容易に推測されます。

●今回『メラビアンの法則』の出典に戻ったところで、これまで紹介できていなかった、法則に至る研究の根幹をなすマレービアン博士の「感情的反応の3つの次元」について触れることにします。以下に原点からの抜粋を一部記しますが、専門的で一般人には理解しづらいところがあるかもしれませんので、この「感情的反応の3つの次元」をSD(意味微分)法との比較でわかりやすく解説したものが、以前にも紹介した福井康之著『感情の心理学』(川島書店)にありましたので、それを今回の参考資料としいたします。比較の上、理解を深めていただければ幸いです。

マレービアン著『非言語コミュニケーション』(聖文社)より「感情の3つの次元」
「インプリッション(ほのめかし:山本注)のコミュニケーションの対象は気持ちや態度や好き嫌いや好みであるといっただけでは、役立つ理論を作ったことにはならない。なぜならば、人間が経験することのできるのはほんの一部だけ取り上げてみても、その数は何百にもなるし、加えて、態度や好みにはいろいろな形や変化がある。しかし、幸いなことに、心理学のさまざまな領域の研究成果は、人間の感情や態度や好き嫌いや好みという現象を概念化させるだけの証拠を提供している。」

「感情の3つの次元」とは「快-不快」「覚醒-無覚醒」「支配-服従」
「人間の感情や態度は、簡単に言えば3つの次元で言い表すことができる。その3つの次元とは、快-不快、覚醒-無覚醒、支配-服従という、それぞれに独立した次元である。いかなる感情や態度の説明にも充分な、この3つの次元はそれぞれ独立していて、相互関係がない。さらにこの3つの次元に、態度や好き嫌いや好みという複合した尺度を組み合わせることができる。

快-不快という次元は、幸福な-不幸な、喜んだ-悩んだ、満足した-不満な、などの対の形容詞で定義することができる。
覚醒-無覚醒という次元は、活動と注意の状態の複合と定義する。覚醒が高いという場合は、活動的かつ注意の状態にあるというわけで、たとえば、コートの中を活発に動いていて、同時に、相手の動きを予測しながら、次の戦術を考えているテニス・プレーヤーである。適度の覚醒というのは、注意の状態ではあるが、ほとんど活動していない場合である。

例えば、複雑な数学の問題を解いている人は、この状態である。逆に、活動が活発で、注意のレベルが低い場合でも適度の覚醒である。例えば空想にふけりながらジョギングをしている人である。低い覚醒の状態とは、注意のレベルも低く、活動のレベルも低い状態である。例えば、いい気持ちで眠っている人はこの状態にあるといえる。

感情や態度の、第三番目の次元は、支配-服従であり、支配する-支配される、影響する-影響されるなどの対の形容詞で定義することができる。権力を持っている、支配している、と感じたり、影響力を持っている、コントロールしている、と感じる度合いを意味する。」

【参考資料】 福井康之著『感情の心理学』(川島書店)より
マレービアンの感情反応をSD(意味微分)法で測定してみた。彼は次の3つの次元で、すべての感情を定義することができると考えている。
マレービアンによる感情の快-不快、覚醒-無覚醒、支配-服従の3次元の分類は、シュロスバーグの示した、快-不快、緊張―眠り、注目-拒否の3次元分類とよく似た構造を持っていることがわかる。

(1) 快-不快 幸福な-不幸な、愉快な-不愉快な、満足な-不満な、などの形容詞の6対で定義される。
(2) 覚醒-無覚醒 刺激的-くつろいだ、興奮した-平静な、目覚めている―眠そうな、などの形容詞の6対で定義される。
(3) 支配-服従 支配する-支配される、影響する-影響される、莫大な-畏怖した、などの形容詞の6対で定義される。

快-不快は、肯定的あるいは否定的な評価に対する感情的な反応で、肯定的に評価されるものは、快をもたらし、否定的に評価されたものは不快を与える。
覚醒-無覚醒は、能動的かあるいは受動的な評価に対する感情的反応で、能動的なものは覚醒をもたらし、受動的なものは覚醒の水準が低いことになる。
支配-服従は、影響を与えるあるいは影響を与えないという評価に対する感情的反応で、影響のあるものは服従感を与え、影響のないものは支配感を与える。

※シュロスバーグ:基本感情を(1)愛・楽しみ・幸福、(2)驚き、(3)恐れ・苦しみ、(4)怒り・決意、(5)嫌悪、の6つに分け、この6つの感情を円環構造(上に「愛・楽しみ・幸福」=「快」、下に「怒り・決意」=「不快」、右に「驚き/恐れ・苦しみ」=「注意」、左に「軽蔑/嫌悪」=「拒否」として、二次元平面内に収めた)山本注。
※SD(意味分析法):言葉・図形などの刺激をいくつか与え、それらが含む意味の相違を、対をなす形容詞を両極とする評定尺度を用いて測定する心理学的測定法。オズグッドにより考案された。意味差判別法。意味微分法。(大辞林)

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2011年2月19日 (土)

メラビアンの法則⑬ 〝ひと目ぼれ〟の研究

毎回硬い話ばかりで恐縮ですので、今回は、どなたにも関心をもっていただけるであろうアール・ノーマン著『「ひと目ぼれ」の秘密』(東京書籍)から、「顔」と「表情」のインパクトがどの程度あるのかの調査から始めます。その後に、リカルド・ベリーノ著『3分間で成功を勝ち取る方法』(ゴマブックス)より、アメリカの結婚紹介業で実際に行われている、3分間での相性診断について触れることにいたします。

〝ひと目ぼれ〟に関する大規模調査の結果わかったことは意外にも・・・
さまざまな州や地域に住む21歳以上の約1500人を対象に、無作為電話インタビュー調査を実施(最後の質問まで回答した人数は1495人、うち984人が女性、547人が男性)。
第1問は、〝ひと目ぼれ〟を信じるかどうか。「信じる」の回答者には、体験の確認後、体験者には〝ひと目ぼれ〟について詳しく話してもらえるかどうかを打診。そして、彼らの語ったエピソードを記録した。
※なお、この調査での〝ひと目ぼれ〟の定義は、「初対面の相手に60分以内で恋に落ちる」こととした。ただし、回答者の多くは、相手が〝その人だ〟と思うのに10分もかからなかったと答えたそうです。

衝動愛は長続きしないというのが定説ですがアメリカではどうも様子が違う・・・
〝ひと目ぼれ〟体験者の55%(男性43・9%、女性62・1%)はその相手と結婚している。うち20・7%は長期間付き合い、16・2%は短期間付き合った。たった8%(男性11・7%、女性5・6%)だけが交際に発展しなかったことになる。この高い数値は〝ひと目ぼれ〟したとき、80%の男女に交際相手がいなかったことも関係がありそう。その一方で、〝ひと目ぼれ〟結婚が継続している率は75・9%と高く、離婚したのは15・9%(男性21・3%、女性6・9%=米国の離婚率35%前後の半分以下にはちょっとビックリ:山本注)、8・2%は配偶者と死別した。

〝ひと目ぼれ〟しやすいお年頃は16~20歳。だから交際に発展しやすい?
〝ひと目ぼれ〟が起こるにイエスが64・1%(男性65・2%、女性63・6%)
〝ひと目ぼれ〟が起こるにイエスの958人中58・2%が体験者。
〝ひと目ぼれ〟の体験回数は回答者の75・0%が1回のみ(男性69・6%、女性78・5%)。2回は17・2%、3回は4・7%。
〝ひと目ぼれ〟体験年齢は
15歳以下で男性12・2%、女性12・6%/16~20歳で男性42・1%、女性40・4%/21~25歳で男性19・6%、女性21・9%/26~30歳男性12・6%、女性12・3%

引かれ合う外見的特徴は、やはり〝顔〟そして〝笑顔〟女性は男性の〝目〟を
同調査によると、男女が引かれ合う外見的特徴(複数回答)のベスト3は以下の通りだが、80%を超えるものはこの3例のみ。他項目は参考資料として最後に付記。
         男性      女性
顔        93・9%   89・4%
笑顔      86・8%   88・8% 
目        77・2%   84・6% 

意外?それともやっぱり!女性の方が〝ひと目ぼれ〟時は積極的!?
●リサーチによれば65%から70%の最初の接触は、女性からなされるとのこと。ただこれは非常にさりげなく行われるため、男性は自分がイニシアチブを取ったような気になるのだそうです(世の殿方たちはご用心あそばせ・・・)。
女性が主導権を取るときは、男性よりさりげないシグナルを使うようです。パーティーで女性がどんなふうに勧誘シグナルを使うかというモニカ・ムーアのリサーチでは、ほとんどのシグナルに、相手と目を合わせることが含まれていたとのこと。下記の上位6までで、直接目を合わせていないのは 3の音楽に合わせて…だけですね。
1.彼を見てにっこり微笑む
2.彼をちらっと見る
3.音楽に合わせて、体を揺らす
4.彼をまっすぐに見て、髪を跳ね上げる
5.彼を見つめる
6.彼を見て、頭をそらし、振り向く

〝ひと目ぼれ〟では男性の経済力や男女の年齢差は無視されがちのようです
●斎藤勇著『恋愛心理学』(ナツメ社)によると、「アメリカの心理学者バスは、アジアやアメリカ、ヨーロッパ、アフリカなどの37にわたる文化で、1万人を超える人たちに調査を行い、男女間でパートナー選択の基準が異なることを示している。それによると、やはり男性は女性よりも外見的魅力を重視しやすく、そのような傾向は37文化中34の文化で見られた。いっぽう女性は、男性よりも相手の経済力を重視する傾向にあり37文化中36の文化で共通していた。また、男性は年下の女性を、女性は年上の男性を好みやすい傾向もあった。」とのことです。

●参考資料にもありますが、〝ひと目ぼれ〟では外見上では男性の経済力のシンボルともいえる「服装」のポイン(54・6%)は低く、また、年上年下へのこだわりもそれほど障害にはなっていないことをうかがわせます。それでいて、恋愛関係にたどり着く確率が高いというのは、格差社会で圧倒的多数を占めるであろう、経済的非強者に属する男性群には朗報かもしれませんね。

たった3分間のコミュニケーションで、男女の相性は本当にわかる!?
●ここからは、冒頭予告のアメリカの結婚紹介業の3分間相性診断について『3分間で成功を勝ち取る方法』の抜粋。なぜ3分かは、ピンとくるものがあるかどうか、相手に引かれるものがあるかどうかを判断するにはそれで十分だからだそうで、「この方法なら、普通の合コンにありがちな気まずい感情をもたずに済む」のだそうです。

「最初の印象の良し悪しは仕事だけでなく、恋愛関係にも大きく影響する。そんな前提から作られたのが、恋愛パートナーや新しい友人を求める人たちを結びつけることを目的にニューヨークで創業されたハリーデイト社。同社が企画するイベントでは、参加者が相手と話すのはきっかり3分と決められている。
時間が来るとホイッスルが鳴り、参加者はそこで話を打ち切って別の相手と会話を始める。そして話し終わるたびに、相手のことを気に入ったかどうかを秘密のカードに書き込んでいく。後はハリーデイト社がカードの情報を突き合わせて、お互いの評価がぴったりの参加者同士を結び付けるというわけだ。」

【参考資料】 『〈ひと目ぼれ〉の秘密』より2つの調査結果を紹介
■男女が引かれ合う外見的特徴(複数回答)
       男性     女性               男性     女性
顔      93・9%  89・4%   体型      79・8%  76・6%
髪      70・2%  62・2%   目        77・2%  84・6% 
笑顔    86・8%  88・8%   服装      64・0%  56・4%
身長    53・5%  54・8%   香り/体臭 43・9%  43・6%
年上    12・4%  34・0%   年下    32・5%  11・2%
スポーツマンタイプ 36・0%   50・5%   セックスアピール 79・8%   77・1%
その他   12・4%  12・8%                    

■男女が引かれ合う性格的特徴(複数回答、いずれか70%以上抽出)
            男性     女性           男性     女性
楽しい       89・3%  88・8%  知的     81・3%  90・8%
やさしい     77・0%  91・2%  社交的   84・1%  79・8%
あたたかい   75・2%  83・7%  自信     71・7%  82・3%
ユーモアがある80・5%  91・2%  気前がよい71・4%  82・4%
コミュニケーション上手                   83・2%  80・7%

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2011年2月12日 (土)

メラビアンの法則⑫ 「表情」から感情を読み取る研究(4)国際(民族)比較②

今回は、(財)地域社会研究所の理事で、モーゼスおばあさん(※)の紹介者として知られる加藤恭子氏の著書『言葉でたたかう技術 日本的美質と雄弁力』(文芸春秋社)より、「顔の表情について」を取り上げます。これまでとは趣が異なりますが、内容にかんがみ、研修シリーズ第42回に続く「国際(民族)比較②」といたします。
※アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス:1961年(昭和36年)に101歳で死去。75歳で油絵を描き始め、80歳の個展「農婦の描いたもの」が評判となる。ルーブル近代美術館が米国人画家の作品として最初に買い上げたのは、彼女の作品だった。

〝パーセッション・ギャップ〟を招きやすいものの1つに、日本人の表情がある
「〝表情〟にもいろいろあるが、悲しみや怒りの表情は、誤解を招かずにちゃんと通じる。だが多くの日本人は、他人に対し、ことに外国人に対し、そうした感情表現は押し殺す傾向がある。
誤解を招きやすいのは、日本人の〝笑い〟か、それに近い表情である。
英語では主に2つの単語があるが、“laugh”は声を出して笑い、“smile”は音を出さずにほほえむことである。この2つを〝笑い〟とするが、これが実に複雑なのだ。
日本人自身は、自分が複雑な行動をとっているなどという意識は全くない。ごく自然に、または他への配慮からしているのだが。」※パーセプション・ギャップ:認識のずれ。日本と外国との間の問題認識の差などをいう=デジタル大辞泉より。

実例①「著者のアメリカの友人が亡くなった教え子の母親のスマイルを誤解した」
「日本へ来たついでに、かつて彼女の教え子だったが後に病死した日本人留学生の母親にお悔やみを言いたいというので、その母親に、私の研究室まで来てもらったことがあった。友人のお悔やみの言葉を訳して伝えると、彼女は、
『いえいえ、息子がお世話様になって、本当にありがとうございました。若いのに手おくれの癌になるなんて、これも寿命だったんですね。主人ともそう話し合っています』とにこやかに答えた。
彼女が帰ってから、友人は言った。
『あの母親、息子の死を悲しんでいないのね。うれしそうなスマイルで語っているのよ!』
『違う。悲しみを抑えているのよ。自分の悲しみで、あなたに負担をかけてはいけないと思って、気を使っているのよ』
『え? どこからそういう解釈が出るの?』と、友人は驚いていた。」

●国際人の加藤恭子氏が解説を加えても、なかなかこうした心配りを理解してもらうのは大変でしょうね。ところで、この事例とまったく同様のお話が、芥川龍之介の『手巾(はんかち)』に書かれていることを、岩田誠&川村満編『ノンバーバル・コミュニケーションと脳――自己と他者をつなぐもの』(医学書院)の中の「こぼれ話『顔で笑って・・・』」で知りましたので、そちらもご覧いただきたいと思います。

芥川龍之介『手巾(はんかち)』より、息子を亡くした母親が恩師宅を訪ねて…
「日本人の『こころ』のありようについて語るとき、私はしばしば芥川龍之介の『手巾(はんかち)』を引き合いに出す。
ある夏の日、西欧的合理主義者の帝国大学教授の家に、1人の婦人が訪ねてくる。彼女は、最近病で亡くなった大学生の息子が世話になっていた恩師に、お礼を言いに来たのだ。その婦人の言葉を黙って聞いていた教授は、1人息子の死を語るその母の顔に悲しみや苦しみの表情はなく、口元にはかすかな笑みをたたえていることに気づいて不思議に思う。

そして、昔ドイツ留学中にドイツ皇帝が亡くなったときに、下宿のこどもが涙を流していたことを思い出した。そのときは、その素直な感情表現に驚いたからだった。それを思うと、今なぜこの婦人は最愛の息子の死を嘆かないのか。教授には理解ができなかったのである。そのとき、教授は手に持っていた団扇をうっかり床に落としてしまった。それを拾おうと身をかがめた教授は、テーブルの下に隠されていた相手の婦人の手を垣間見る。

膝の上に置かれたその母の手は、手巾(はんかち)をきつく握り締めて、わなわなと震えていた。彼女は、顔には笑みをたたえながら、全身で泣いていたのだということに、教授は気がつく。そして、西洋じたての合理主義だけでは理解しきれない、日本人の『こころ』のありようを知るのである。」

●加藤氏の著書の出版は2010年12月ですから、取り上げられたエピソードがそれほど昔のこととは思えません。一方、芥川龍之介が『手巾(はんかち)』を発表したのは1916年(大正5年)で、この間100年近い歳月が流れています。
しかし、描かれていることはタイムスリップしたかのようにまったく同じで、とても驚かされました。そして、外国の方には誤解されやすい側面があるものの、〝顔で笑って心で泣いて〟という、古き良き日本人が美徳としてきた感情表出が残されていることに感激もした次第です。加藤恭子氏の同書からもう1例を紹介いたします。

実例②「繁華街で転んだ英国人男性。笑い声を含んだ「キャーッ」に腹を立てた」
「日本人は、英国人を憎んでいるのでしょうか? 英国のPOW(戦時中の捕虜たち)が日本を憎んでいるように?」
「あなたが英国人か、アメリカ人か、ドイツ人か、見分けはつきません。ただ、〝外国人〟です」
「では、外国人一般に対する侮蔑なのですか?」
「日本人に対しても同じですし、これは〝侮蔑〟や〝嘲笑〟ではないのです。もしあなたが駅の階段から転げ落ちたなら、誰も笑いません。大怪我かもしれないでしょ? 周囲の人たちは心配して、救急車を呼んだりするでしょう。でも、あなたの場合は、歩道で足を滑らせて転んだだけ。周囲の女性たちの中には、びっくりして声を上げた人もいるでしょう。『キャーッ』とか」
「では、あの笑い声は? 私はあんな侮辱を受けたことがありません」
「それは、侮辱ではない。むしろ、応援なのです」
「応援? いったい、どうして人の災難に対しての笑い声が〝応援〟になり得るのですか?」
「あなたはころんだことによって、少々きまりの悪い思い(embarrassed)をなさったでしょ?」
「不可抗力の出来事ですから、embarrassedにはなりません」
「そうかもしれないけど、普通とはちょっと違った感情の動きがあったでしょ? 人通りの多い道で、一人だけころんだのですから。あまり格好のよくない姿勢になってしまったとか・・・・・」
「それはそうですけれど」
「その感情に共感するというか、吹き飛ばすために、周囲が笑ったのです。だから、〝応援〟になり得るのです」
英国紳士は奇妙な顔で黙り込んでしまった。私も、沈黙。しばらくして、彼は訊ねた。
「そういう笑いに対して、私のとるべき態度は?」
「あなたも、一緒に笑えばよいのです。『しまった、しまった』と。みんなで笑って、何事もなくてよかったと、この件はおしまいになる」 
「・・・・・・」
と、以上3つの例をあげただけでも、日本人の何気ない笑いや、他への配慮からくるほほえみが、どれだけ複雑なものか、説明を要するものかが、みえてくるのではないだろうか。」

●著者はビジネスシーンにも言及し、「有利不利を競う場面では、細心の注意を払わなくてはならない。思わぬ〝パーセプション・キャップ〟へと発展するからである。」と指摘し、あるアメリカ人の発言、「いつも日本人はにこにこしているから、とても交渉がし難い。何を考えているのか、表情から伝わってこないからです」を紹介して、日本人特有の「顔の表情」に対する日本人の認識不足に警鐘を鳴らされています。

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2011年2月 5日 (土)

メラビアンの法則⑪ 裏付けとなる「表情」の研究(2)日本人の研究②

さて、今回は日本人による表情の研究の第2回目ですが、その前にリンカーンの「顔」に関する有名な逸話の紹介です。側近からある人を推薦したいという申し出を受けたリンカーンは、「あの男は顔が悪いから駄目だ」と答えた。驚いた側近が「あなたは顔で人を判断するんですか?」と問うと、「人は40歳になったら自分の顔に責任を持たなければならない」と答えたとのことでした。

日本でも、人相学で高名な水野南北氏が「顔の相を善相にするも悪相にするのもみんな自分が蒔いた種。いつも不平不満をこぼし、人に反発して片意地を張っていると、口の両端が『への字』になってしまう。そんな表情を繰り返していると、ついにはそれが『相』になる。吉相だ、凶相だ、といっても、元をただせばみな自分の癖が長い歳月の間に積み上げていったもの。」と解説されていたと、小沢康甫(やすとし)著『暮らしの中の左右学』(東京堂出版)に書かれていました。この本の中に紹介されていたのが、下記の香原志勢(こうはら ゆきなり)氏の研究です。

美人顔は左右対称という説がありますが、この研究はそれを証明するかも・・・
香原志勢著『顔の本』(講談社)の「左右非対称な表情」より
「本来、顔と目鼻立ちは左右対称的である。ところが、私たち人間の表情には左右対称的なものと、非対称的なものとがある。いろいろ調べてみると、顔を左右対称的に動かす時と、非対称的に動かす時とて、心的状態に質的な差があるように思われる。一方、特定な表情を保っているときには、それに応じた心の流れがある。」

「すなおな心がつくり出す顔には左右の歪みが生じない」のだそうです。
「左右対称的な表情をしている時は、まさに情緒にひたっている時といってよい。
喜び、歓喜、満足、没入、陶酔、安堵、肯定、心服、尊敬、得意、希望、恐く、恐怖、驚愕、慨嘆、悲嘆、困惑、号泣、虚脱、失望、倦怠、疲労などといった心情時には、おのずから表情は左右対称的な形で表れる。作為的でない顔、つまり、すなおな心がつくり出す顔には左右の歪みが生じないといえよう。」

「非対称的な表情」は、なにかものをしてやろうという心の表れだそうです。
「これに対して、非対称的な表情を保っている時には、心の流れは、たぶんに意識的であり、意図的、作為的になる。それはなにかものをしてやろうという心であり、顔である。意外、皮肉、嘲笑、苦笑、無念、否定、批判、部分的賛意、不納得、不審、疑惑、意地悪、侮蔑、玩弄、阿諛、ごまかしなどの思いが心中を流れる時には、左右非対称的な表情が顔に浮かぶ。」

「白痴美」といわれる美人顔は、赤ちゃんの顔に戻っている顔なのかも・・・
「世の中で一番すなおな人間といったら、それは赤ちゃんだといってよいであろう。(中略)赤ちゃんのつくる最初の表情は寝顔であり、泣き顔である。その泣き顔には、怒りも、驚きも含まれる。そして、笑い顔が登場し、あくびや甘えた泣き声が加わることによって、人間らしさが加速的にましてくる。これらの表情すべて左右対称的である。顔をゆがめることは、まずない。赤ちゃんの心はまさに情緒の世界にひたりこんでいる。嬉しかろうが、悲しかろうが、そこには知的なものの介入はない。難しいこと、絡んだことなど、いっさい無関係である。」

●今回は、さらに専門的な研究ですので、各節のタイトルに、私なりの思い(私も女ですから、ところどころ感情が出過ぎたかも・・・)を込めてみました。著者の香原先生始め、読者の皆さんにお叱りを受けることになるかもしれませんが、癇に障りましたら、ご寛恕のほどお願い申し上げます。さて、次は、研修シリーズ弟41回でも登場した福井康之氏の研究です。

イクマンの実験写真(米国人)から日本人の学生が感情を読み取れるかの研究
福井康之著『感情の心理学』(川島書店)の「表情の識別」に関する、著者の大学の学生に対する12の表情の観察実験から。 
「彼(イクマン)の作成した表情写真から、6種類の基本感情(イクマンは、基本感情が6種類あるとしている)を示す表情写真を各2枚宛て、約10秒間、OHP(オーバーヘッドプロジェクター:山本注)で教室前方のスクリーンに、ランダムに提示して、その感情を回答させた。被験者は、筆者の授業を受講している教育学部学生、男子35名、女子115名だ。」

写真で感情が読めた!  12枚中10枚以上の正解者55%、全数正解も10%
「写真は、イクマンの妻パトリシアと彼の大学院の学生だったジョンで、呈示の順序は、幸福、怒り、驚き、嫌悪、悲しみ、怒り、幸福、恐怖、驚き、悲しみ、恐怖、嫌悪。実験に先立ち、6つの基本感情について説明をしておく。パトリシアの無感情の表情写真を役30秒呈示し、続いて実験に入った。」

「2枚のうち、10枚以上の正解者は55・3%と半数以上で、10・0%のものが全数を正解している。基本感情に関しては、かなり的中しているといえる。しかし、正確にすべての表情が読みとれるものは少なく、必ずしも、正確に表情を識別できるとはいいがたい。」

分かりやすい感情は「幸福」「悲しみ」「驚き」。ここでも女性の観察力が勝った
「表情写真のうち、どのような種類の感情がわかりやすいかというと、〈幸福〉の表情は、的中率が最高だった。〈悲しみ〉と〈驚き〉はかなり的中している。〈恐怖〉は〈驚き〉や〈悲しみ〉ととり違えやすい。〈怒り〉は〈恐怖〉や〈嫌悪〉と混同されやすい。一般に、女性の方が男性より感情に敏感だとされている。表情の識別力も女性の方が優れているといえそうだ。」
※8枚以上の正答者は、男性68・6%に対し女性は91・2%だったそうです。

●日本人が米国人の「表情(写真)」から「感情」を米国人と同じレベルで読み取ることができる(研修シリーズ第42回のエクマンによる各国調査値よりは低い感じだが…)ということは、前々回の国際(民族)比較の検証材料といえるかもしれません。さて、今回の参考資料は、やはり日本人による研究です。「メラビアンの法則」に近い実験ですが、プレゼンテーションにおけるコミュニケーション力(著者はプレゼンテーション・インパクトと表現している)を論じる上での実験ですので、観察対象との距離感も異なります。そうした違いを認識したうえで、参考資料としていただくことをお願いいたします。

【参考資料】 児島建次郎編著『コミュニケーション力』(ミネルヴァ書房)
「パーソナリティ――ノン・バーバルコミュニケーションで表現力を高めよう」より。

「コミュニケーションを発信・受信する手段はことばだけではありません。ことばを活かし自分の考えを聴き手に受けいれてもらうための表現技術は多様です。
表現技術を分類すると、1つは、話の内容・素材を効果的に表現する技術です。
もう1つは、ことばを補い、ことば以上に思いや意味を伝えるしぐさや行動などの非言語、つまり、ノン・バーバル(Non Verbal)コミュニケーションです。

私が大学生を対象に行った調査では、言語と非言語コミュニケーションがもたらすプレゼンテーション・インパクトについて、言語36%、態度など43%、話し方21%の結果を得ました。言語とは話の内容であり、話し方とは話す調子や声の高低・強弱などを指し、態度とは外見や姿勢・表情・視線などをいいます。こうしてみると、非言語コミュニケーションによるインパクトが64%も占めており、非言語の影響が大きいのに気付きます。
ことばを補足するものとしては、体全体から発信するコミュニケーション、しぐさや行動、表情、目の動きなど、いわゆるボディ・ランゲージ(Body Language)があります。

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