「クレーム」ほど、ありがたいものはない
前回から〈ノンバーバル(非言語)コミュニケーション〉の「非言語メディア」シリーズを開始したところですが、4月20日(水)にFP(ファイナンシャル・プランナー)さんの勉強会を主催されているSG大阪バラエティライブ様から、再度お声がかかり、「クレーム対応」についてお話してまいりました。以前、研修シリーズ第9回(2010年5月1日=「ビジネスマナー研修から」身だしなみについて)でもご紹介いたしましたが、まじめな取り組み姿勢に毎回感心させられております。
今回はスポットで、その前段(落語でいえば「まくら」)で語った「新卒採用面接」とも関係のある重大な「クレーム」について、物語風にご紹介させていただきます。
クレームから生まれた!?「マンホールの蓋はなぜ丸い?」などの想定外質問
以下は、以前読んだ怖そうなタイトル『面接の虎』(※1)の面接での質問例です。
Q.グー・チョキ・パーの中で好きなものは何ですか?(アミューズ)
Q.関東と関西でエスカレーターの乗り方が違うのはなぜですか?(小学館)
Q.10万円札を作るとしたらだれの顔を印刷しますか?(アクセンチュア)
ほんの一例ですが、面接会場で突然こんな質問されたら、ちょっと逡巡(しゅんじゅん)してしまいますよね。でも、私が「マンホールの蓋はなぜ丸いか?」を研修会場で女子学生に質問したら、結構正解を知っていて驚かされた経験があります。いまどきは、しっかり想定外質問にも対策ができていて、この対策も〝イタチごっこ〟かと思える節も・・・。
米国空軍から「優秀なパイロット採用」について相談された心理学者は(※2)
では、どうしてこのような質問をするようになったのでしょうか。そこには、今回のテーマでの、ある重大な「クレーム」が絡んでいるのです。
第二次大戦中のことですが、ドイツ空軍に対抗するためアメリカ空軍が、「優秀な戦闘機のパイロットを採用するにはどうしたらよいか」と高名な心理学者のギルフォードに相談しました。
ドイツ空軍の脅威から連合軍を守るために、そして祖国愛に燃えギルフォードは頑張って「自信のパイロット選考プログラム」を開発して選考に臨みました。この時空軍は、空軍関係者以外の人に全面的に空軍の将来を託すパイロット選抜を任すことに抵抗があったんでしょうね、もう1人空軍司令官経験者にも同じ依頼をしたそうです。
さあ大変! 片方の採用担当者が選んだパイロットがほぼ全員戦死した!
ギルフォードは開発したプログラムによほど自信があったんでしょう。空軍がもう一人選考者を選んだことに腹を立てたそうです。そして、採用されたパイロットが実戦に出てしばらく経った頃、ギルフォードは空軍から呼び出しを受け、ある驚くべき事実を告げられます。「二人の専門家にパイロットの選考をお願いしたが、一人が採用したパイロットはほとんど生き残り、もう1人が採用したパイロットはほぼ全員が撃墜(げきつい)されて戦死した」というのです。
ギルフォードは勝ち誇った気持ちで、「それは、痛ましいことです。あたら才能のある若いパイロットを失ったことはアメリカの損失でしたね」などと、のたまわったかもしれませんね。ところが、次に発せられた言葉は、ギルフォードが卒倒するぐらいに驚くべき内容でした。ギルフォードが採用したパイロットのほうが、ほとんど戦死していたのです。
ギルフォードに突き付けられた選考結果に対する重大な「クレーム」
要するに、「どうしてくれるんだ!」とクレームをつけられたわけです。多くのクレーム対応者がそうであるように、その現実にギルフォードはどん底に突き落とされた気がしたことでしょう。しかし、超一流の人は違うんですね。ギルフォードはプライドをかなぐり捨て、アメリカの空軍を守るためにもう一人の面接官に会いに行きました。そして、自分と元司令官の選考基準の違いを分析したのです。はたして、そこにはどんな違いがあったのでしょうか?
元司令官は「もし、敵機に遭遇したら、君はどう対応するかね?」と全員に聞きました。その回答が「その場になってみないと、わかりません」に代表されるような、普通に考えたら「ダメ」と判断されるような回答をした人だけを採用したのだそうです。
こんな採用基準で、どうして彼が選んだパイロットは強敵のドイツ機を相手に勇敢に戦い、そして生還できたのでしょうか。
学業優秀だけでは勝てない、ルールを無視する者を採用するわけにも・・・
実は、ドイツ軍は連合軍のマニュアル「敵に遭遇した場合は、急上昇して上空の雲の中に身を隠せ」と書いてあったものを手に入れていたんです。ですから、ドイツ空軍はライオンが集団でシマウマをハンティングするように、連合軍機を雲の中に追い込むグループと、その上空で、急上昇してきた戦闘機を待ち構えるグループとに分かれていました。これでは、敵うわけありませんよね。
ギルフォードが採用したパイロットは、いずれも学業優秀、模範的な人たちだったので、マニュアル通りの対応をして、ドイツ機の餌食になってしましました。
一方、元司令官が採用したパイロットは、ひと癖も、ふた癖もある人たちですから、マニュアルなんかハナから無視して、行き当たりばったりの対応をしましたので、ドイツ軍の思い通りにならなかったというわけです。
レンガが1つあります。この使い道を5分間で考えられるだけ書き出して下さい
こうした事実を確認したうえで、ギルフォードが苦心の末考え出したのが、ある程度の論理的思考ができ、なおかつ瞬時に生死にかかわる柔軟な対応が可能な人材を選ぶ方法でした。それが、受験(面接)対策不可能な「想定外の突飛な質問をする」ことだったのです。たとえば「ここにレンガが1つあります。この使い道を5分間で考えられるだけ書き出してください」といった具合に。そして、この手法が海を渡り、半世紀以上を経て、現在多くの日本の企業の面接で使われるようになったのです。
●「近年、自分の職場でクレームが増えていると思いますか」との質問に39.7%の方が増えていると答えています(※3)。モンスタークレーマーなどという言葉まで出てくるようになりました。クレームは大きくするも小さくするも対応次第ですので、大いに対応力の向上に努めていただきたいと思いますが、その一方で、クレームからビジネスチャンスの発見がある(当ブログ2010年10月9日「コールセンターのホスピタリティ④」で一端を書いております)こともあります。
あまり臆病にならずに、真正面から誠実に取り組んでいただく(それ以上の対処法はありません)ことをお勧めして、今回のスポット企画を終了いたします。
※1:『面接の虎』(就職総合研究所編/日本シナプス)
※2:『スウェーデン式アイデア・ブック1』(フレデリック・へレーン著/ダイヤモンド社)
※3:『日本苦情白書』(関根眞一監修/メデュケーション)
2017年8月25日(金) 超実践型 『クレーム電話対応力強化研修』~クレーム客6つの心理と現場対応10ヶ条~(株式会社アークブレイン様主催公開セミナー)
ホームページ https://www.leafwrapping.com/
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