色彩④「色彩の人間活動への影響(ⅰ)」
ある実験で同じ形状重さの青と濃茶の箱を同距離にある赤と青のテーブルまで運ばせたところ、例外なく青の方が軽そうと思い、赤の方が1歩分近そうと思い(武田の赤備えもやはり近く見えたのですね)ほぼ全員が赤のテーブルを選んだそうです。(※1)この錯覚を具体的に数値化した実験があります(さすがアメリカ!)。
白は100グラムのものは100グラム、と、正味の重さと心理的重さの倍率が1・00倍とすると、黄色は心理的重さが正味の重さの1・13倍、黄緑は1・32倍、水色は1・52倍、灰色は1・55倍、赤は1・76倍、紫は1・84倍、黒は1・87倍に感じるとのこと。(※2)
●人間は錯覚の生き物といわれるのが、上記2つの実験でよくわかります。色彩が人間の活動に影響を与えることがわかってきた1971年に、アメリカでは「職業安全衛生法(OSHA)」が可決され、その時に「色彩象徴」が法律の一部となりました。
具体的には「OSHAイエロー」は身体的な危険と要注意を示す色、「OSHAバイオレット」は放射能による危険(3・11以降の東北はこの状態ですね)、「OSHAオレンジ」は設備や機械の危険な箇所、「OSHAレッド」は防火設備、「OSHAブルー」は危険の予防・現象のための設備、「OSHAグリーン」は安全と救急設備を示す色、といった内容です。
●こうした指導が徐々に浸透したことも手伝ってか、生産性が低かったり、問題を抱えた工場で、壁、機械、材料などを対象にした色彩に関する取り組みがなされ始めました。そして、その結果は、想定以上の成果につながりました。一見すると製造ラインの能力によって生産量が決まるように思える工場ですが、それを動かしている人間への配慮の方が、よほど生産性に影響を与えていたというのは、分かりやすい話ですね。そうした実例を以下に見て参ります。
壁を灰色がかった鉄色から暖かみのあるベージュに変えたら何が変わったか?
女性従業員の高い欠勤率に直面したロンドンのある工場では、色彩の専門家に工場を調べてもらったところ、灰色がかった鉄色の壁と、青い照明のせいで、従業員が鏡に映った自分の姿を見る時には特に、まるで病人のように見えることがわかった。これだけが原因で、女性従業員が病気になったり、欠勤するという証拠はなかったのだが、壁の塗換えはやってみるだけの価値があるということになり、青い照明を和らげるために、壁を暖かみのあるベージュ色に塗り直した。すると、奇跡的ともいえるほどに、常習欠勤の問題は解消してしまった。(※1)
黒かった機械を明るい色にしたら、生産性UPの上、不良品が少なくなった
従来、生産工場ではほとんどすべての機械が黒だったが、最近のものは光の吸収のずっと少ない明色を取り入れている。これによって生産は伸び、不合格品が少なくなり、士気が向上している。デュポン社は色彩調節事業部を設けて、反射光を少なく見やすくしたり、暑い部屋を涼しく、寒い部屋を暖かくするための計画を科学的に立てている。(※3)
紡績工場では、赤い染料と黒い染料では作業スピードに違いがあった
ムンスターバークという組織研究者が、ある大きな紡績工場で行った調査を紹介しよう。この工場では、主に、黒い染料と赤い染料の2種類を用いて作業が行われていたが、従業員は、なぜか赤い染料を使っているときにスピードアップしていたという。
従業員たちには、まったくそんな自覚がなかった。黒い染料でも本気で仕事をしているつもりであった。それにもかかわらず、赤い染料の場合にだけ、作業量が著しく増大したのである。(※4)
●アメリカの東部沿岸地方のある工場では、食堂の色直しで従来のピンクがかった黄色の壁を、淡青色に塗り替えたところ、利用者から「寒い、寒い」と苦情が殺到したそうです。サーモスタットは従来通り適温にセットしてあるのに、わざわざ季節外れのセーターやコートを着込んでやってくる事態となってしまいました。そこで、せっかくのリニューアルを元の色に直したところ、苦情はぴたりとなくなったとのこと。
信じられないような話ですが、エコ社会を目指すためには、貴重な事例といえそうですね。次回はオフィスや施設が対象です。
※1:『非言語コミュニケーション』(マジョリー・F・ヴァーガス著/新潮社)
※2:『あなたは人にどう見られているか』(松本聡子著/文藝春秋社)
※3:『創造力を生かす』(アレックス・オズボーン著/創元社)
※4:『心理戦の勝者』(内藤詮人&伊東明著/講談社)
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