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2011年8月21日 (日)

周辺言語② ミステリーから周辺言語を読む

前回はエンターテイメントの世界で周辺言語が有効に活用されてきた事例を紹介いたしましたが、その中の『バーナード・ショウ研究』に「その特性が言語体系の中で使われると語彙(ごい)的、文法的相違を示し、パラ言語体系の中で使われると感情的相違を示す」という解説がありましたので、今回は、さらに理解を深めるためにミステリー小説から周辺言語を学んでみたいと思います。

広く愛読される『ミステリー傑作選』を素材にした「言葉の音調」研究
ミステリーの好きな方なら、きっと一度は手にされたことがあると思われる『ミステリー傑作選』(日本推理作家協会編/講談社文庫:年度ごとのアンソロジー)の20巻(概算で約12,000ページ)から「話しぶりを描写する言語表現」だけを抽出し、分析した研究が『日本語 意味と文法の風景(※1)』に「パラ言語的意味の記述に向けて」として紹介されています。

話しぶりの描写は「声」「口調」「調子」「語調」などを修飾する形に集中
「声」の描写例:「や、や、や」/木村が、何時になく興奮した動物的な声を上げた。(佐野洋『贈られた女』)
「口調」の描写例:石渡は深呼吸しながら、/「しかし、バンドで絞め殺した、手じゃない」/と激しい口調でいった。(黒岩重吾『深夜の残照』)
「調子」の描写例:まもなく電話を終えた軍曹が、くだけた調子で私に声をかけた。/「なにか用かい?」(三好徹『風の弾痕』)
「語調」の描写例:「うん。実はね、お願いがあるんだ」/と、江藤はいくらか冷静な語調になった。(笹沢左保『餌』)

「パラ言語的意味の記述」3,858件中〝声〟がダントツで、次は〝口調〟
「声」(高い、低い、大きい、小さい など)3177件
「口調」(しみじみした、真剣な など)   401件
「調子」(軽い、重い、くだけた など)   115件
「響き」  34件  「言い方」28件  「語調」24件  「口ぶり」24件
「喋り方」14件  「口のきき方」6件 
以下4件「言葉遣い」「口吻」  3件 「言葉つき」  2件「語り口」「語気」
  1件「話しぶり」「話し方」「言い回し」「アクセント」「トーン」
これとは別に「~調」4件、「~口」11件

●この「声」への集中度をみると、やはり「声」が感情を伝えるのに一番分かりやすい表現なのでしょうね。次は、出現頻度の高い「声」または「口調」を描写フレームとするものを、(A)「声」のみ、(B)「口調」のみ、(C)「声」&「口調」の3タイプに分けて、それぞれに該当する形容語句のベスト10を紹介します。ただし、「口調」は2件が多いため、3件の7位までのリストアップとなります。

ミステリー作品なので「低い」「甲高い」「かすれた」声が多いのでしょうか?
(A)「声」     (B)「口調」      (C)「声」&「口調」
                           (声件数/口調件数)
「低い」  77件  「しみじみした」8件  「明るい」   (19/3)
「大きな」 52件  「真剣な」   7件  「はずんだ」  (17/1)
「甲高い」 41件  「冷静な」   4件  「興奮した」  (10/5)
「かすれた」31件  「そっけない」 3件  「静かな」  (7/7)
「小さな」 19件  「丁寧な」   3件  「穏やかな」  (5/8)
「高い」  15件  「ゆっくりした」3件  「落ち着いた」 (8/4)
「上ずった」14件  「冷淡な」   3件  「やさしい」  (9/2)
「乾いた」 13件               「怒ったような」  (7/4) 
「不機嫌な」10件              「鋭い」       (9/1)        
「細い」  10件               「激しい」        (3/7)

哀悼! 小松左京氏、著書『猫の首』から「上ずった声」の文例を2点紹介
上記の「声」&「口調」では、圧倒的に数の少ない「口調」が「声」を上回っている最右欄の上から5番目の「穏やかな」(5/8)が目を引きますが、これは「穏やかな」という形容語句が、どちらかというと感情より人柄を表すからなのでしょうか。さて、ここで「声」描写例を、先月(7月28日)亡くなった小松左京氏の作品から取り上げます。

(文例1)「智子!」/上ずった声で叫んで、腰を浮かす妻を、彼は手で制した。
(文例2)「来てくれ!」彼はズボンのまま、水の中に二、三歩ふみこみながら上ずった声でさけんだ。「まだ間に合う。早く・・・・・」

●今回参考資料の『日本語 意味と文法の風景』には、『ミステリー傑作選』の他に、アガサ・クリスティーのミステリー翻訳本(ハヤカワ文庫)とその原本、それぞれ計20冊ずつを対象にした分析の一部も記されています。彼女の本を原文で読まれる方には参考になるかもしれませんので、ご参考まで。なお、今回は遠方での研修からの戻りが日をまたいでしまい、日曜日アップになってしまいました。

※1:『日本語 意味と文法の風景』(山田進&菊池康人&籾山洋介編/ひつじ書房)

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