「桃太郎に学ぶ、物語の紡ぎ方」① 「桃太郎」物語の基礎知識
社歴は浅いのですが、急成長している企業様から、プレゼンで語る〝会社の物語〟の紡ぎ方の指導を兼ねた、「新卒採用担当者向けプレゼンテーション研修」のご依頼がありました。
物語の構成を理解していただくために、日本人なら誰もが知っている『桃太郎』で解説(山本が研修でよく使う素材)することにし、おさらいのつもりで『桃太郎の変容』(※1)という分厚い本を手にしたのでした。ところが、これを読み進むうちに、改めて『桃太郎』の奥深さを思い知らされることになりました。あわてて他の文献にも目を通し、今回から3回は『桃太郎』シリーズです。
「桃太郎」の冒頭は、話すスピードを測る上で、格好の教材でもあります
「むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがすんでいました。
おじいさんはやまにしばかりに、おばあさんはかわにせんたくにいきました」。
この文章は句読点を除いて仮名で64字(前半部が31字、後半部が33字)ですが、これを普通の早さで読むと丁度10秒で収まります。前後がほぼ5秒、5秒で分かりやすいこともあり、私は、研修のワークでこの出だし部分をよく使います。
子ども向けのニュースと一般ニュースでは1・3倍くらいスピートに違いが
10秒64字を1分(60秒)換算すると384字。この文字数(仮名)は、NHKのアナウンサーの方が話す一般的な速さといわれています。以前『週刊こどもニュース』の編集長兼お父さん役を担当されていた池上彰さんの語り口は、多分この辺りだったでしょう。しかし、彼が一般のニュースを読む場合はこの1.3倍くらいの速さ(約500字前後)で、使い分けをなさっていたと思われます。
「桃太郎」の伝承は全国に80種類以上もあるモンスター物語でした
さて、話を『桃太郎』に戻します。冒頭で紹介した『桃太郎の変容』という大部の書物をひも解きますと、この物語が全国で伝承され、その数が80を超えるということがわかりました。これはすごいことですね。
柳田国男が忠実に地元の伝承を集めたものはこの範疇に入るでしょうが、それとは別に明治・大正・昭和期に著名な作家によって書かれた作品もあります。いずれも、その時代背景を色濃く投影している感があります。
『桃太郎』のモデルは誰か? 成立はどの時代か? いずれも謎だらけ・・・
『桃太郎』の物語のルーツには諸説があるようです。古くは崇神(垂仁の記述も)天皇の御代、四道将軍の一人で海賊を退治した吉備津彦命(きびつひこのみこと)がモデルとの説があります。また、江戸時代『南総里見八犬伝』の著者・滝沢馬琴は、『保元物語』の「為朝鬼が島渡り」に擬したものと主張。しかし、室町期に編まれた『御伽草子』に一寸法師、酒呑童子、浦島太郎などが取り上げられているのに、桃太郎が入っていない(※2)ことから、これらの説には、どうも説得力が欠けるようです。
●『桃太郎像の変容』の著者は、「桃太郎噺」が、いわゆる口承の「むかし噺」(民話)として成立した時期はおよそ室町末期(1550―1630年)、いわゆる戦国時代から江戸初期にかけてと見るのが、ほぼ定説といっていいだろうと書いています。そして文字化されてあらわれたのは江戸初期からとのこと。
大別すると、2通り(子ども向けと大人向け)の『桃太郎』があるようです
時代とともに物語は少しずつ変容してまいります。桃太郎にも生まれ方が2通りあるのは興味深いですね。〝桃から産まれた(果生型)〟の設定には、物語を形作る上で欠かせない劇的効果があり、今日では一般化されています。しかし、物語の成立時は、桃の持つ回春作用(古来より桃には若返りの素が含まれるとの伝承があったとのこと)を拠り所に回春型(老夫婦が桃を食べ若返り桃太郎を身篭った)となっていたそうです。これがやがて、子どもが受け入れやすい果生型に変容したとのこと。
イヌ・サル・キジに桃太郎が与えた「キビ団子」は1個か、それとも半分か
大きな食い違いは、「キビ団子」に関してもあります。絵本では、その大半が「キビ団子」を1個与えたとなっています。昭和27年に刊行された童話作家の坪田譲治の『桃太郎』も1個になっています。どうやら、半分では子どもたちには桃太郎がケチに映り、その英雄ぶりにそぐわないということなのでしょう。
一方、明治27年に書かれ、近代の『桃太郎』の源流となったといわれる巌谷小波の作品と、大正13年に『サンデー毎日』に掲載された芥川龍之介の作品は、いずれも半分です。日本一のキビ団子をそのまま一個やるのは、遣り過ぎとの判断が働いてのことのようです。物語の発祥が岡山県だとすると、この辺りにもコストに厳しい関西的風土の萌芽が見て取れるのでしょうか。だとしたら、関西の雀は100まではなく、500年も踊り(コスト観念)を忘れていないことになりますね・・・。
●以上の内容を振り返ってみると、女性である私には、『桃太郎』は身近のようで、やはり遠い存在だったのかもしれません。しかし、桃太郎の奥深さは、この程度で留まるものではありません。次回は、明治以降の著名作家によって悪人にされたり、厄介者扱いされたりの、さまざまな桃太郎を紹介いたします。
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