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2011年10月 8日 (土)

「桃太郎に学ぶ、物語の紡ぎ方」②著名作家によるさまざまな「桃太郎」

『桃太郎』が国定教科書に取り上げられたのが明治20年のこと。これが動機付けになったのでしょか、明治24年に『金色夜叉』の作者・尾崎紅葉による桃太郎を悪者にした『鬼桃太郎』が発表されました。続いて、明治27年に児童文学者・巌谷小波が『日本昔噺』に『桃太郎』を発表。その内容は、日清戦争下の国情に都合よくマッチしたものであり、その後の桃太郎物語のベースになったといわれています。前記2作品を含め、著名作家による明治以降の作品から6点紹介いたします。

その1.鬼が島の残党が桃太郎に戦いを挑む 尾崎紅葉作『鬼桃太郎』より
桃太郎に征服された鬼が島の首領が、桃太郎を倒して遺恨を晴らそうとし、桃太郎を倒した者には、首領の座を譲るといって勇者を募るが、恐れをなして誰も応じない。そこに、かつて鬼が島の門番で、桃太郎に門を破られたことから落ちぶれていた老夫婦鬼が、名誉回復はこのチャンスとばかりに名乗りを上げた。彼ら(老鬼夫婦)は夜叉神社に祈願して鬼の子「苦桃太郎」を授かる。

この子が長じて身長約4.5メートルの青鬼となる。桃太郎の黍(キビ)団子になぞらえた「人間のドクロの付焼き10個」を持って出陣する。途中、火炎を吹き空を飛ぶ金色の毒龍や、白毛朱面の大狒(ひひ)、牛かと見間違える狼に会い、それぞれ「ドクロの付焼き」を与えて家来としてあだ討ちに向かう。果たして、桃太郎の運命やいかに・・・(子分の選択を誤った青鬼は、毒龍の背中に跨って桃太郎を目指すが、毒龍が目測を誤り、はるか先の海に墜落してしまうという、お粗末な顛末)。

その2.これまでの桃太郎像を大きく変えた 巌谷小波『桃太郎』より
イヌに「斑(ブチ)」、サルに「ましら」の名を冠し、鬼が島への道中もそれまでの作品より波乱万丈ですが、他作との一番の違いは、鬼退治の後始末でしょうか。
降参した鬼の首領に対し「命ばかりはお助けとは、面に似合わぬ弱い奴だ。然しその方は永の間、多くの人間をあやめたる罪あれば、所詮は生け置くわけにはゆかぬ、これより日本へ連れて行き、法の通り首を刎ね、瓦となして屋根の上にさらすから、免れぬところと覚悟いたせ!」。むかし『桃太郎侍』というTV番組があったそうですが、これでは、まるで桃太郎越前守みたいですね。鬼瓦の由来にしてしまうあたりも、明治という時代の勢いのように思われます。

その3.厄介者の桃太郎が平和な島を侵略 芥川龍之介の『桃太郎』より
桃太郎は鬼が島の征伐を思い立った。思い立ったわけはなぜかというと、彼はおじいさんやおばあさんのように、山だの川だの畑だのに出るのがいやだったせいでもある。その話を聞いた老人夫婦は内心この腕白者に愛想を尽かしていた時だったから、一刻も早く追い出したさに、旗とか太刀とか陣羽織とか、出陣の仕度に入用なものは云うなり次第に持たせることにした。のみならず途中の兵糧には、これも桃太郎の註文通り、黍団子をこしらえてやったのである。

芥川『桃太郎』には、現代社会のモラル低下を予見したような表現が
「お前たちも悪戯すると、人間の島へやってしまうよ。人間の島へやられた鬼はあの昔の酒顛童子のように、きっと殺されてしまうのだからね。え、人間というものかい? 男でも女でも同じように、嘘はいうし、欲は深いし、焼餅は焼くし、己惚(うぬぼ)れは強いし、仲間同士殺し合うし、火はつけるし、泥棒はするし、手のつけようのない毛だものなんだよ…」。何だか、耳の痛いお話ですね。この作品は大正13年に『サンデー毎日』に発表されたそうです。

その4.民主的で鬼を殺さない優しい桃太郎 坪田譲治の『桃太郎』より
この作品は昭和32年に発表され、むかし噺により忠実といわれています。そのため、あらすじは子ども向け絵本に近い。最も異なる点は、鬼が島での戦闘シーンと終戦処理です。負けた鬼はすべて縛られ、殺されることはありません。
そして、鬼の首領が降参し、「桃太郎さん、お許しください。もう悪いことはいたしません。人間から取ってきた宝物はみんなお返しいたします。この島も立ち退き、遠いところへ参ります。遠いところで、いい鬼になって暮らします。」
そこで桃太郎は、雉、猿、犬に相談しました。 「どうじゃ。」 3人が言いました。「おゆるしくださいませ。」 
ここでの桃太郎は、鬼を殺さず、その処置に関しても独断せず、仲間(雉、猿、犬)に相談し同意を得て、鬼を許すという、民主的なリーダーとして描かれています。

●以上代表的な4作を見てまいりましたが、この他に昭和7~8年に少女倶楽部に連載された佐藤紅緑の長編『桃太郎遠征記』があります。その内容は、「外国の影響で礼節が乱れた(悪い病)ため、桃太郎が雉のけん子、猿の文三、犬の武八を引き連れて鬼の国(モダン国・食欲国・粗暴国・邪心国)征伐に向かう」というもので、当時の太平洋戦争に向かう好戦的な気分を反映している気がします。

●作品紹介の最後は手塚治虫が昭和46年『少年チャンピオン』に連載した『ザ・クレータ』の中の「紫のベム」です。「侵略してきた宇宙人にコントロールされている弟に、兄が〝桃太郎が退治したのは、実は宇宙人たちの先発隊だった〟とのウソの物語を覚えさせ、宇宙人を退散させしまう」というもの。手塚治虫らしい意外性のある展開ですね。さて次回は、桃太郎物語の構成と、物語の持つ説得力に関するお話です。

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