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2011年10月

2011年10月29日 (土)

追悼! 世界一のプレゼンター『スティーブ・ジョブズ』②

宿命のライバルともいえるスティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの若き日の関係は、映画『バトル・オブ・シリコンバレー』に詳しいですが、プレゼンターとしての比較もたいへん興味深いものがあります。マイクロソフト社のソフトを主にPCメーカーに売る(BtoB)立場と、製品とソフトを消費者に売る(BtoC)アップル社の立場の違いもありますので、その辺も含んで、偉大な2人の創業者の対比をご覧ください。

スティーブ・ジョブズとビル・ゲイツの2007年プレゼン・トーク比較(※1) 
          スティーブ・ジョブズ    ビル・ゲイツ
        (マックワールド基調講演)   (CES*基調講演)
平均単語数       10.5          21.6
語彙密度        16.5%         21.0%
難解語          2.9%           5.1%
難読指数         5.5           10.7
*CES(Consumer Electronics Show):毎年開催される家電製品中心の展示会

聞きやすさ4項目すべてで スティーブ・ジョブズがビル・ゲイツを上回る
平均単語数:一文(句点「。」で終わるまで)を構成する単語の数。ビル・ゲイツ氏と比較し半分以上短いので、ジョブズ氏の方が歯切れも良く、聞きやすい。
語彙(ごい)密度:文章の読みやすさを示す指標。密度(%)が低いほど分かりやすい。
難解語:文に含まれる4音節以上の単語の数の平均値。%が低いほど理解しやすい。
難解指数:その文章を読んで理解するために必要と考えられる教育年数。ジョブズ氏の5.5は、小学六年生ならわかるレベルであり、一方のゲイツ氏は10.7で高校一年レベルに該当。なお、NYタイムズ紙は11~12(高校二~三年生にあたる)。

ジョブズ氏のプレゼンに欠かせない「3点ルール」ロードマップ
2007年1月9日、「今日アップルが電話を再開発する」のヘッドラインの前に、ジョブズ氏は「今日は革命的な製品を3つ、紹介する」と語り、劇的な効果を高めました。
最初は、タッチコントロールを持つワイドスクリーンのiPodを紹介(ぱらぱらと拍手)。続いて第二の製品は革命的な携帯電話だと紹介(会場から歓声が上がる)。
そして第三の製品は画期的なインターネット機器だと紹介(この後、詳しい説明と3種類の製品のデモか何かに移るのだろうと思い、聴衆はここで気を抜く)。

●しかし、この後に爆弾が用意されていました。ジョブズ氏は続けます。
「つまり、この3つだ。タッチコントロールにおるワイドスクリーンのiPod、革命的な携帯電話、画期的なインターネット機器。iPod、電話、インタネットコミュニケーター。iPod、電話――わからないかい? 3つに分かれているわけじゃないんだ。実はひとつ。iPhoneっていうんだ!」
その瞬間、会場は興奮状態になり、ジョブズ氏は、世界一革新的な会社というアップルの評判をさらに高める製品のプレゼンを成功させました。

ジョブズ氏がプレゼンの際に重視した7つの〝非言語コミュニケーション〟
①アイコンタクト
:ジョブズ氏がしっかりしたアイコンタクトを取れたのは、何週間もプレゼンテーションの練習をしたからでした。ですから、各スライドに何が描かれているのか、スライドごとに何を言ったらいいのかすべてを把握していたのです。
②開いた姿勢:ジョブズ氏は腕組みをめったにしませんでした。姿勢は常に聴衆に向かって開いており、聴衆との障害になりかねない演台は極力使わなかったそうです。
③手ぶり:ジョブズ氏は、両手は体の両脇にたらすべきだとされていたこれまでの慣習(にとらわれることなく、さまざまなしぐさでしゃべりを補強しました。

④抑揚:ジョブズ氏は、声の高さを上げたり下げたりして調子に変化をつけるようにしていました。「信じられない」「すごい」「クール」「大きい」など、ジョブズ氏が好んで使う言葉がありましたが、これらの言葉の調子が他と同じだったら、あれほどのインパクトは生まれなかったでしょう。
⑤間:2008年1月のマックワールドでジョブズ氏は、「今日は、3種類目のノートパソコンを紹介しよう」と言った後、ちょっと間を取ってから、「マックブック・エアだ」と続けました。さらに間を取ってから、「世界で最も薄いノートパソコンだ」とヘッドラインに聴衆の目を転じさせました。この「間」のタイミングが絶妙なのです。

⑥音量:ジョブズ氏がよく用いるパターンは、クライマックスに向けて盛り上げる段階で声を小さくし、最後に大きな声でドンと決めるというものでしたが、ときには、この逆をやることもあったそうです。
⑦スピード:しゃべるスピードも、ジョブズ氏は変化させました。デモのときは普通のスピードで、ヘッドラインやキーメッセージはゆっくりしゃべりました。

●アップル復帰後のジョブズ氏はどのプレゼンテーションにも黒のモックタートル(セントクロイ)、色あせたブルージーンズ(リーバイス501)、白いスニーカー(ニューバランス)で登場しました。今後、私が担当するプレゼン研修では、その雄姿を思い浮かべながら、世界一のプレゼンについて語り継いで行こうと思います。合掌。

※1:『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(詳細前号記載)

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2011年10月22日 (土)

追悼! 世界一のプレゼンター『スティーブ・ジョブズ』①

スティーブ・ジョブズが2011年10月5 日に、世界中から惜しまれつつ亡くなりました。たまたま偶然ですが、亡くなる前日に「会社説明会でのプレゼンテーションのあり方」をテーマにした研修に登壇していた山本は、スティーブ・ジョブズ氏が、〝世界一のプレゼンター〟であることを、事例を元に解説していました。このような偶然も重なり、いまだショックら立ち直れませんが、遅ればせながら今回と次回、ジョブズ氏のプレゼンの素晴らしさを紹介することで、追悼の意を表したいと思います。

『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力』が描いた、そのカリスマ性
ITがあまり得意でない私が、ジョブズ氏のプレゼンターとしてのすごさに最初に触れたのは、研修講師として独立した同時期の2008年6月に出版された『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力(※1)』でした。この中に、「スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションは、『3分間で100億円を生む』と評される」と書かれていたのです。

〝3分間で100億円を生む〟と評されるジョブズ氏のプレゼンテーション
ⅰPodの販売総計が2200万台を突破するまでに、彼は3回プレゼンを行ったそうです。売上総額をプレゼン時間で割ると、3分間100億円になることから、この表現が使われました。著者の竹内正一氏の言葉を借りれば、このようになります。
「世の中には多くの天才的なパフォーマーがいるが、ジョブズのように、業績や技術などに関する話に2時間も聴衆に身を乗り出させ、聴き惚れさせるエンターテイメントはいない。最後には、感動のあまりのスタンディング・オベレーション(総立ち拍手)が鳴りやまなくなるプレゼンは神技であり、魔法のショーである」

ジョブズ氏に原稿はなく、目線は常に聴衆に向かい、製品と技術を熱く語る
「ジョブズは、数千人の観衆を何時間でも惹きつけ、魅了する術を知っている。アメリカ大統領よりも巧みに、『ここにいてよかった』『今まで以上にすごいことがこれから始まるんだ』と期待させ、興奮させる。
アメリカ大統領といえども、スピーチのときは、専門家が作成した原稿にときどき目を走らせるものだ。しかし、ジョブズに原稿はない。目線は常に聴衆に行く。時には両手を広げ、胸の前で握り、製品と技術を熱く語る」

●ジョブズ氏のプレゼンに対する基本姿勢(単にわかりやすく伝えるだけではダメで、熱意や感動を込めることが大切だ)ということがよくわかりますね。なお、ジョブズ氏のプレゼンにおけるテクニカル部分については、『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(カーマイン・ガロ著/2010年6月/日経BPマーケティング刊:※2)』に詳しいので、こちらから紹介させていただきます。

ジョブズ氏の声が聞こえてきそうな、タイプの異なる3つのトークから
「メタファーとアナロジー」:「僕にとってコンピューターというのは、人類が考えた最高のツールだ。知性の自転車といったところかな」
「データのドレスアップ」:「今までに売れたiPhoneは400万台。400万台を200日で割ると、1日平均2万台のiPhoneが売れたことになる」
「悪役と正義の味方」:「マイクロソフトが抱えている問題はただひとつ、美的感覚がないことだ。足りないんじゃない。ないんだ。」

プレゼンに重要な表現3例「比喩的表現」「データで語る」「悪役と正義の味方
メタファーとは喩えの一種、アナロジーとは異なる二つを比較することで類似性を際立たせる手法。参加者が各層にまたがる場合、製品(サービス)のイメージが伝わりやすいように、プレゼンには欠かせない要素ですが、上記例は子どもから大人まで、聞く人すべてのハートに入り込む、メタファーでありアナロジーといえるでしょう。

損して得を取り、ライバルを叩くときには徹底的に、が、ジョブズ氏流
あるプレゼンのときの話だそうですが、その新製品は、従来品に比較して速度が2.8倍で価格が半値(キャンペーン)だったとき、ジョブズ氏はIT機器の生命線である速さの0.8倍を捨て、「速度は2倍、価格は半分」の、購買者によりわかりやすい表現の方を選択したそうです。このマーケッター感覚に驚かされます。

●プレゼンに欠かせないストーリー(物語)には、正義の味方が喝采を受けるための悪役の存在が欠かせません。そんな悪役を、ジョブズ氏はとても上手に作りました。敵役(使い勝手の悪い他社製品もしくは自社の既製品)を登場させ、次にヒーロー(日々の暮らしを楽しくしてくれる画期的なアップルの新製品)を登場させるのです。

●敵役(問題)を登場させると、聴衆は主人公(解決策)を応援したくなります。ジョブズ氏はこの古典的な物語の手法を使うことが多かったそうです。世界一のプレゼンターに敵役にされたマイクロソフト(それ以前はIBM)はたまったものではありませんね。次回は、ジョブズの格好の標的とされたマイクロソフトのビル・ゲイツ氏とジョブズ氏のプレゼンテーション比較から、世界一のプレゼンターに迫ります。

※1:『スティーブ・ジョブズ 神の交渉力』(竹内正一著/2008年6月/経済界刊)
※2:『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(カーマイン・ガロ著/2010年6月/日経BPマーケティング刊)

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2011年10月15日 (土)

「桃太郎に学ぶ、物語の紡ぎ方」③物語の登場人物と構成

あるとき、ソフトバンクの孫正義さんととても親しくしている社長に「孫さんって、どんな人ですか?」と尋ねたところ、「そうね、一緒にいて、まあ90%は彼が話しているかな。でも、その話がとにかく面白い。全部、ストーリーなんだよ」と(※3)。
このお話は、ビジネスシーンでの物語の可能性を端的に示す例ではないでしょうか。

物語のメカニズムの研究は1920年代、ロシアで始まったそうです。民族学者が100編のロシアの魔法民話を分析し、民話が31の「機能」から成り立っていることを発見しました。「機能」とは、場面(シーン)が示す「意味」のことです。(※4)

1950年代に英語に翻訳され、欧米にインパクトを与えました
この民族学者は同時に、登場人物は7人――①敵、②贈与者、③援助者、④王女とその父、⑤委任者、⑥主人公、⑦にせ主人公――に限定される、とも言っています。
この発見は50年代末に英語に翻訳され、一躍、欧米にインパクトをもたらしました。
その後、フランスの記号学者が登場人物の分類をもう少し洗練させ、6人の行為者からなる「行為者モデル」を唱えました。6人の行為者とは①主体、②対象、③敵対者、④援助者、⑤送り手、⑥受け手、です。

6人の行為者からなる「行為モデル」を「桃太郎」にあてはめると
日本の「桃太郎」を例にとれば、「主体」=桃太郎、「援助者」=イヌ、サル、キジ、「敵対者」=鬼、「対象」=宝、「送り手・受け手」=おじいさん・おばあさん、になります。行為者である「対象」が〝宝〟には違和感のある方もおられるでしょうが、専門家によると、「対象」は必ずしも人である必要はなく、「目的」とか「結末の状態」も含めたもう少し広義のもの(※5)だそうですから、問題はなさそうですね。また、一部の「桃太郎」絵本のように、お姫様を救い出し、凱旋後お嫁さんにしたとする結末の場合は、「受け手」は「主人公=桃太郎」ということにもなります。

『桃太郎』を「起承転結」に置き換えると、イヌ、サル、キジは「承・承・承」
童話作家・木村裕一によれば、(物語の)構成は、セオリーがある。簡単に言えば「起・承・承・承・転・結」だ。基本的に、今までやってきて、これが一番つくりやすい。もちろん必ずしもこれがすべてではないが、「起・承・承・承・転・結」の「承・承・承」というところが、おいしいところなのである。
まず、きっかけ(「起」は桃太郎の誕生から出発まで:山本注)がある。そしてイヌ、サル、キジ、の「繰り返し」がある。これが「承・承・承」の部分。そして、転(鬼が島に渡る:同)、結(戦闘と帰郷:同)となる。
繰り返しの中で、ちょっとずつどこかが変わるのがポイントである。(※6)
との分かりやすい解説をしておられます。

●さて、桃太郎シリーズのまとめは、ビジネスシーンでの「物語の可能性」を、そのものずばりのタイトル『事例でわかる物語マーケティング』(※7)から紹介いたします。
1.物語は興味関心を持ちやすくする:親しみやすく/自分のことのような気持ちに
2.物語は感情に訴える:感動を呼び起こす/楽しい時間を提供する
3.物語は理解のレベルを深くする:長期の記憶を/教訓発見/ゴールメージが
4.物語は潜在意識を具現化する:憧れに「形」を/イマジネーションを刺激する
5.物語は行動を誘発する:登場事物の真似を/口コミを促進/消費を活性化させる

●今年(2011年)7月に出た本に(※8)に、「物語が伝える1万2千年前の真実」という興味深いお話が載っていました。それは、オーストラリア南海岸沿いで先住民が語り継いできた物語で、そこにはタスマニア島とオーストラリア本土を隔てるバス海峡の海底地形が驚くほど正確に描写されているのだそうです(かつて陸地だったが、氷河期が終わった1万2千年前に海に沈んだ)。
物語は、このように人々の記憶を後世に伝える偉大な力も併せ持っているのですね。この稿の最後は、米国大統領よりも記憶に残った3人の少年の物語です。

片隅の記事が、同日の米大統領の予算に関する大々的記事よりも記憶された理由
ある日、予算の欠損が予想を70億ドル下回る見込みだとのトルーマン大統領の声明を大々的に報じた新聞の同じ頁の片隅に、犬の足の骨折に副え木をしてやった3人の少年の地方の記事が出ていた。一般の女性なら、トルーマンによりもずっとこの少年たちに身を置き換えるだろう。ある調査によれば、この犬の記事は44%の婦人が覚えていたのに、大統領の声明記事の方はたった8%しか覚えていなかった。(※9)

※1『桃太郎像の変容』(滑川道夫著/東京書籍)
※2『NHK歴史発見8』(NHK歴史発見取材班編/角川書店)
※3『人を動かすコーチの9つの習慣』(鈴木義幸著/講談社)
※4『「物語力」で人を動かせ』(平野日出木著/三笠書房)
※5『物語の体操』(木村英志著/朝日新聞社)
※6『きむら式 童話のつくり方』(木村裕一著/講談社)
※7『事例でわかる物語マーケティング』(山川悟著/能率協会マネジメントセンター)
※8『友達の数は何人?』ロビン・ダンバー著/インターシフト)
※9『創造力を生かす』(アレックス・オズボーン/創元社)
なお、『桃太郎』作品は著者名(敬称略)を都度記載しておりここは割愛します。

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2011年10月 8日 (土)

「桃太郎に学ぶ、物語の紡ぎ方」②著名作家によるさまざまな「桃太郎」

『桃太郎』が国定教科書に取り上げられたのが明治20年のこと。これが動機付けになったのでしょか、明治24年に『金色夜叉』の作者・尾崎紅葉による桃太郎を悪者にした『鬼桃太郎』が発表されました。続いて、明治27年に児童文学者・巌谷小波が『日本昔噺』に『桃太郎』を発表。その内容は、日清戦争下の国情に都合よくマッチしたものであり、その後の桃太郎物語のベースになったといわれています。前記2作品を含め、著名作家による明治以降の作品から6点紹介いたします。

その1.鬼が島の残党が桃太郎に戦いを挑む 尾崎紅葉作『鬼桃太郎』より
桃太郎に征服された鬼が島の首領が、桃太郎を倒して遺恨を晴らそうとし、桃太郎を倒した者には、首領の座を譲るといって勇者を募るが、恐れをなして誰も応じない。そこに、かつて鬼が島の門番で、桃太郎に門を破られたことから落ちぶれていた老夫婦鬼が、名誉回復はこのチャンスとばかりに名乗りを上げた。彼ら(老鬼夫婦)は夜叉神社に祈願して鬼の子「苦桃太郎」を授かる。

この子が長じて身長約4.5メートルの青鬼となる。桃太郎の黍(キビ)団子になぞらえた「人間のドクロの付焼き10個」を持って出陣する。途中、火炎を吹き空を飛ぶ金色の毒龍や、白毛朱面の大狒(ひひ)、牛かと見間違える狼に会い、それぞれ「ドクロの付焼き」を与えて家来としてあだ討ちに向かう。果たして、桃太郎の運命やいかに・・・(子分の選択を誤った青鬼は、毒龍の背中に跨って桃太郎を目指すが、毒龍が目測を誤り、はるか先の海に墜落してしまうという、お粗末な顛末)。

その2.これまでの桃太郎像を大きく変えた 巌谷小波『桃太郎』より
イヌに「斑(ブチ)」、サルに「ましら」の名を冠し、鬼が島への道中もそれまでの作品より波乱万丈ですが、他作との一番の違いは、鬼退治の後始末でしょうか。
降参した鬼の首領に対し「命ばかりはお助けとは、面に似合わぬ弱い奴だ。然しその方は永の間、多くの人間をあやめたる罪あれば、所詮は生け置くわけにはゆかぬ、これより日本へ連れて行き、法の通り首を刎ね、瓦となして屋根の上にさらすから、免れぬところと覚悟いたせ!」。むかし『桃太郎侍』というTV番組があったそうですが、これでは、まるで桃太郎越前守みたいですね。鬼瓦の由来にしてしまうあたりも、明治という時代の勢いのように思われます。

その3.厄介者の桃太郎が平和な島を侵略 芥川龍之介の『桃太郎』より
桃太郎は鬼が島の征伐を思い立った。思い立ったわけはなぜかというと、彼はおじいさんやおばあさんのように、山だの川だの畑だのに出るのがいやだったせいでもある。その話を聞いた老人夫婦は内心この腕白者に愛想を尽かしていた時だったから、一刻も早く追い出したさに、旗とか太刀とか陣羽織とか、出陣の仕度に入用なものは云うなり次第に持たせることにした。のみならず途中の兵糧には、これも桃太郎の註文通り、黍団子をこしらえてやったのである。

芥川『桃太郎』には、現代社会のモラル低下を予見したような表現が
「お前たちも悪戯すると、人間の島へやってしまうよ。人間の島へやられた鬼はあの昔の酒顛童子のように、きっと殺されてしまうのだからね。え、人間というものかい? 男でも女でも同じように、嘘はいうし、欲は深いし、焼餅は焼くし、己惚(うぬぼ)れは強いし、仲間同士殺し合うし、火はつけるし、泥棒はするし、手のつけようのない毛だものなんだよ…」。何だか、耳の痛いお話ですね。この作品は大正13年に『サンデー毎日』に発表されたそうです。

その4.民主的で鬼を殺さない優しい桃太郎 坪田譲治の『桃太郎』より
この作品は昭和32年に発表され、むかし噺により忠実といわれています。そのため、あらすじは子ども向け絵本に近い。最も異なる点は、鬼が島での戦闘シーンと終戦処理です。負けた鬼はすべて縛られ、殺されることはありません。
そして、鬼の首領が降参し、「桃太郎さん、お許しください。もう悪いことはいたしません。人間から取ってきた宝物はみんなお返しいたします。この島も立ち退き、遠いところへ参ります。遠いところで、いい鬼になって暮らします。」
そこで桃太郎は、雉、猿、犬に相談しました。 「どうじゃ。」 3人が言いました。「おゆるしくださいませ。」 
ここでの桃太郎は、鬼を殺さず、その処置に関しても独断せず、仲間(雉、猿、犬)に相談し同意を得て、鬼を許すという、民主的なリーダーとして描かれています。

●以上代表的な4作を見てまいりましたが、この他に昭和7~8年に少女倶楽部に連載された佐藤紅緑の長編『桃太郎遠征記』があります。その内容は、「外国の影響で礼節が乱れた(悪い病)ため、桃太郎が雉のけん子、猿の文三、犬の武八を引き連れて鬼の国(モダン国・食欲国・粗暴国・邪心国)征伐に向かう」というもので、当時の太平洋戦争に向かう好戦的な気分を反映している気がします。

●作品紹介の最後は手塚治虫が昭和46年『少年チャンピオン』に連載した『ザ・クレータ』の中の「紫のベム」です。「侵略してきた宇宙人にコントロールされている弟に、兄が〝桃太郎が退治したのは、実は宇宙人たちの先発隊だった〟とのウソの物語を覚えさせ、宇宙人を退散させしまう」というもの。手塚治虫らしい意外性のある展開ですね。さて次回は、桃太郎物語の構成と、物語の持つ説得力に関するお話です。

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2011年10月 1日 (土)

「桃太郎に学ぶ、物語の紡ぎ方」① 「桃太郎」物語の基礎知識

社歴は浅いのですが、急成長している企業様から、プレゼンで語る〝会社の物語〟の紡ぎ方の指導を兼ねた、「新卒採用担当者向けプレゼンテーション研修」のご依頼がありました。
物語の構成を理解していただくために、日本人なら誰もが知っている『桃太郎』で解説(山本が研修でよく使う素材)することにし、おさらいのつもりで『桃太郎の変容』(※1)という分厚い本を手にしたのでした。ところが、これを読み進むうちに、改めて『桃太郎』の奥深さを思い知らされることになりました。あわてて他の文献にも目を通し、今回から3回は『桃太郎』シリーズです。

「桃太郎」の冒頭は、話すスピードを測る上で、格好の教材でもあります
「むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがすんでいました。
おじいさんはやまにしばかりに、おばあさんはかわにせんたくにいきました」。
この文章は句読点を除いて仮名で64字(前半部が31字、後半部が33字)ですが、これを普通の早さで読むと丁度10秒で収まります。前後がほぼ5秒、5秒で分かりやすいこともあり、私は、研修のワークでこの出だし部分をよく使います。

子ども向けのニュースと一般ニュースでは1・3倍くらいスピートに違いが
10秒64字を1分(60秒)換算すると384字。この文字数(仮名)は、NHKのアナウンサーの方が話す一般的な速さといわれています。以前『週刊こどもニュース』の編集長兼お父さん役を担当されていた池上彰さんの語り口は、多分この辺りだったでしょう。しかし、彼が一般のニュースを読む場合はこの1.3倍くらいの速さ(約500字前後)で、使い分けをなさっていたと思われます。

「桃太郎」の伝承は全国に80種類以上もあるモンスター物語でした
さて、話を『桃太郎』に戻します。冒頭で紹介した『桃太郎の変容』という大部の書物をひも解きますと、この物語が全国で伝承され、その数が80を超えるということがわかりました。これはすごいことですね。
柳田国男が忠実に地元の伝承を集めたものはこの範疇に入るでしょうが、それとは別に明治・大正・昭和期に著名な作家によって書かれた作品もあります。いずれも、その時代背景を色濃く投影している感があります。

『桃太郎』のモデルは誰か? 成立はどの時代か? いずれも謎だらけ・・・
『桃太郎』の物語のルーツには諸説があるようです。古くは崇神(垂仁の記述も)天皇の御代、四道将軍の一人で海賊を退治した吉備津彦命(きびつひこのみこと)がモデルとの説があります。また、江戸時代『南総里見八犬伝』の著者・滝沢馬琴は、『保元物語』の「為朝鬼が島渡り」に擬したものと主張。しかし、室町期に編まれた『御伽草子』に一寸法師、酒呑童子、浦島太郎などが取り上げられているのに、桃太郎が入っていない(※2)ことから、これらの説には、どうも説得力が欠けるようです。

●『桃太郎像の変容』の著者は、「桃太郎噺」が、いわゆる口承の「むかし噺」(民話)として成立した時期はおよそ室町末期(1550―1630年)、いわゆる戦国時代から江戸初期にかけてと見るのが、ほぼ定説といっていいだろうと書いています。そして文字化されてあらわれたのは江戸初期からとのこと。

大別すると、2通り(子ども向けと大人向け)の『桃太郎』があるようです
時代とともに物語は少しずつ変容してまいります。桃太郎にも生まれ方が2通りあるのは興味深いですね。〝桃から産まれた(果生型)〟の設定には、物語を形作る上で欠かせない劇的効果があり、今日では一般化されています。しかし、物語の成立時は、桃の持つ回春作用(古来より桃には若返りの素が含まれるとの伝承があったとのこと)を拠り所に回春型(老夫婦が桃を食べ若返り桃太郎を身篭った)となっていたそうです。これがやがて、子どもが受け入れやすい果生型に変容したとのこと。

イヌ・サル・キジに桃太郎が与えた「キビ団子」は1個か、それとも半分か
大きな食い違いは、「キビ団子」に関してもあります。絵本では、その大半が「キビ団子」を1個与えたとなっています。昭和27年に刊行された童話作家の坪田譲治の『桃太郎』も1個になっています。どうやら、半分では子どもたちには桃太郎がケチに映り、その英雄ぶりにそぐわないということなのでしょう。

一方、明治27年に書かれ、近代の『桃太郎』の源流となったといわれる巌谷小波の作品と、大正13年に『サンデー毎日』に掲載された芥川龍之介の作品は、いずれも半分です。日本一のキビ団子をそのまま一個やるのは、遣り過ぎとの判断が働いてのことのようです。物語の発祥が岡山県だとすると、この辺りにもコストに厳しい関西的風土の萌芽が見て取れるのでしょうか。だとしたら、関西の雀は100まではなく、500年も踊り(コスト観念)を忘れていないことになりますね・・・。

●以上の内容を振り返ってみると、女性である私には、『桃太郎』は身近のようで、やはり遠い存在だったのかもしれません。しかし、桃太郎の奥深さは、この程度で留まるものではありません。次回は、明治以降の著名作家によって悪人にされたり、厄介者扱いされたりの、さまざまな桃太郎を紹介いたします。

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