方言に代表される言語表現の東西比較②
今回は予告通り「バカ」と「アホ」についてです。だいぶ古いお話で恐縮ですが、1991年度のテレビ界の名だたるタイトル(日本民間放送連盟賞・テレビ娯楽番組最優秀賞、ギャラクシー賞選奨、全日本テレビ制作者連盟賞グランプリ等々)を総ナメにした番組があります。それは、いまも続く長寿番組『探偵! ナイトスクープ』でした。
放送直後から高視聴率を獲得した〝深夜のお化け番組〟が果たした役割
視聴者からの依頼にもとづき「この世のあらゆる謎や疑問を徹底的に究明する」ことをモットーとした娯楽番組は、1988年3月放送開始時は上岡龍太郎探偵局長と、秘書役(松原千明→岡部まり)により軽妙に進行されました。第1回メニューには、阪神優勝時に話題となった「道頓堀に沈んだカーネルサンダースを救え!」がありました。
1990年に東京出身の新郎から「アホ・バカ調査」依頼が寄せられて…(※1)
朝日放送がエリアとする関西地方だけのローカル番組(金曜日の夜、11時25分から55分間)としてスタートしましたが、人気とともにネット局も増え、北海道から九州・鹿児島にいたる全国26のテレビ局で放送されたこの番組に、新婚サラリーマンからの「アホ・バカ調査」依頼が舞い込みました。
「私は大阪生まれ、妻は東京出身です。二人で言い争うとき、私は『アホ』といい、妻は『バカ』と言います。耳慣れない言葉で、お互いに大変傷つきます。ふと東京と大阪の間に『アホ』と『バカ』の境界線があるのではないか? と気づきました。東京からどこまでが『バカ』で、どこからが『アホ』なのか、調べてください」と。
「バカ」のほうが古く、「アホ」はこの類の言葉ではいちばん新しい
これまで一般的には、「アホ」と「バカ」は、日本の東と西に対立している言葉と考えられることが少なくなくありませんでした。また一方で、文献だけを根拠に、「アホ」の方が古い時代に広まり(鴨長明『方丈記』に登場)、「バカ」がずっとのちなって広まったとも考えられてきました。しかし、この調査の結果新たな解釈が…。
全国的に使われる「バカ」は、何と、京(京都)言葉の古語だった!?
「バカ」は、京都から半径およそ二百キロ以遠にのみ、濃厚に分布しているそうです。京(京都)発の「バカ」が全国に行き渡ったかなり後に、京都で新しく「アホ(ウ)」という同義語が生まれ、二百キロ圏まで広がっていった(馴染みやすい新しい言葉が伝わると、古い言葉は上書きされ消えてしまう)のだとか。
京都から遠く離れた地域ほど、古い時代の京(京都)の言葉を使っている
著者によると東京語・標準語(1993年出版で共通語にはなっていない:山本注)にしても、おそらくは京(京都)の古語の宝庫であるに違いとのことです。そうなると、もし現在の京都人が「バカだね!」と東京弁をしゃべったとしたら、それは京(京都)の古語が数百年の歳月を経て、故郷に里帰りしたことになるんですね。
千年前の京都は世界的に見て最高レベルの文化を持ち最大規模の都市だった
平安から室町にかけて、最高50万人前後の人口を擁した京都は、世界的に見ても最高水準の都市だったそうです(当時ロンドンやパリの人口は数万から十数万)。江戸中期に、江戸が上方に対抗する文化の新たな発信基地として台頭するまで、京都が輝ける花の都であったことを「全国アホ・バカ分布図」が改めて教えてくれるとか。
マクドナルドに関する略称「マック」「マクド」の追加情報(※2)
読売新聞が各都道府県の県庁所在地などで、身近な食べ物やファストフード店の呼称を調べた(調査日記載なし、出典の出版は2005年)ことがあるそうです。これによると東日本、中国、四国、九州のほとんどで「マック」。近畿の6府県と徳島県では「マクド」。新潟、兵庫、広島、宮崎の4県が「マック」「マクド」の混在だったとのこと。
専修大学教授(社会言語学)永瀬治郎氏の継続的「マック」「マクド」調査から
専修大学の調査では、93年に「マクド」は大阪など近畿4府県と石川、鳥取、島根の他、香川を除く四国3県。これが97年には関東地方などでもマクド派が現れました(関西出身の学生が持ち込んだらしい)。「マクド」のアクセントは93、97年調査では、「ク」強調派が多数でしたが、2005年になると強調は「マ」と半々になったそうです。
「同じマクドでも、先頭の『マ』を強めるのは関東系の言い方」と永瀬さん。例えば「雨」でも、京阪地域では「め」を強めるが、東京では「あ」が強い。「当初は近畿圏の省略法だった『マクド』が関西系のアクセントで広まり、その後、関東進出に伴って関東式のアクセントが取り入れられたのではないでしょうか」との分析です。
●上記専修大学調査では、近年「マクド」派が減って「マック」派が勢いづいているとのこと。なお、マクドナルドによると、創業当時から「ビックマック」「マックフライポテト」などの商品を扱ってはいても、社名のキャンペーンなどで「マック」の呼称を使ったことはなく、また社員や店の従業員は略称を使わないそうです。
※1:『全国アホ・バカ分布考 はるかなる言葉の旅路』(松本修著/太田出版)
※2:『新聞社も知りたい日本語の謎』(橋本五郎監修/KKベストセラーズ)
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