青年の心の悩みを、診察前の一言で解決してしまった名医の物語
今回紹介するお話は、9月15日公開の映画『天地明察』の原作者・冲方丁氏の近刊『もらい泣き』からです。大学受験のため長野県から上京した青年は、突然原因不明の頭痛に襲われます。心配した両親が、すぐ帰省して自分達の主治医の診察を受けるように勧めました。気乗りしないものの、夜遅く駅に着いた彼が病院を訪ねると・・・。
受付で「先生お待ち兼ねですよ!」と、遅い来院を咎められ診察室へ
「遅れてすいません」
すると医者はきょとんとしてこう訊いた。「なんで謝るの?」
「え?」 「いや、こんなに遅くなりましたから。受付の人にも怒られたし。本当、すいません」
「誰が君を怒ったの?」 医者は繰り返した「誰?」
彼が受付の看護師のことを話すと、医師はいきなりそばにいた別の看護師に、「ちょっと呼んできて」と言った。
1分と経たずに看護師が現れた。
「何か?」と訊く彼女を遮って、医師が叱り飛ばした。「私の患者に何をするんだ」。
その看護師も彼もびっくりした。医師は続けて言った。
「私は、何時まででも待つと言ったはずだ。医者が必要だと言っている人を、君がそんなふうに扱ってどうする」
医師の恐ろしく真剣な態度に、今度は看護師の方が、平謝りになる番となった。
頭痛のことすら吹っ飛び、彼は目が覚める思いで医師を見つめていた。
「ああ、こういう大人にならなきゃいけないんだ」と言う強烈な確信が湧いた。のみならず、とっさに心の中で逆転が起こった。
「将来のことなんかいちいち考えなくてもいいじゃないか。そんなの、なんだっていいんだよ。こういうふうに自分を必要としている相手に命を懸けられる大人にならなきゃダメだ。そのために頑張んなきゃダメなんだ」
それは何年経っても鮮明に思い出す、青年に「スイッチが入った瞬間」でした。
●「医は仁術」との諺があります。「仁」とは広辞苑によれば「自己抑制と他者への思いやり」だそうです。このお話のお医者さまがまさしく仁術を施してくださる方なのでしょう。それを知っているからこそ、両親は進路に悩む息子を、信頼する主治医に診てもらいたかったのだと思います。そして、その読みはズバリと当たりました。
『もらい泣き』(冲方 丁(うぶかた・とう)著/集英社)「主治医とスイッチ」より
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