公の席で批判する勇気(村上春樹氏) 新入社員フォローアップ研修⑨
この数年、ノーベル文学賞の最有力候補であり続ける村上春樹さんが今年も選から漏れました。残念に思っている多くのハルキストのためにエールを贈りたいと思い、古いスクラップ(たまたま出張先の長野のホテルで読んだもの)を取り出しました。それは、反対する人も多い中、村上氏が悩みながらも現地を訪れ、行った「エルサレム賞」受賞スピーチに関する記事です。
2009年2月17日『信濃毎日新聞』コラム「斜面」(朝日新聞「天声人語」に相当)より
自分のことをたたえる相手を、公の席で批判するのは勇気がいる。作家の村上春樹さんが、それをやった。イスラエルの最高の文学賞「エルサレム賞」を受け、授賞式でイスラエルのパレスチナ自治区ガザ攻撃を批判した。
高くて固い壁と、それにぶつかって壊れる卵――。村上さんは、小説を書くときに常に心に留めている例を持ち出し、講演している。高い壁は戦車やロケット弾、卵は犠牲になる民間の人々だとし、イスラエルとパレスチナ武装組織双方の戦闘も非難した。
さらに村上さんは言葉を継ぎ、卵は独自の心を持った私たち一人一人、壁は「制度」だと説明。この制度が、私たちを殺したり、他人を殺させたりする、と述べた。イスラエルにあてはめると、自らを守る正当な攻撃として、パレスチナ人を殺させる国家も制度なのだろう。
「違う文化の人間同士でも、心の中の大きい領域は共有しているので、どんな小説でも翻訳可能なのだと思う」。村上さんはカフカ賞に選ばれた三年前の記者会見で、こう応じていた。共同通信のインタビューには「物語は世界の共通言語」と語っている。
こんな思いがあるからこそ、イスラエル支持ともとられかねない式への出席を選んだのだろう。作品が世界の30以上の言葉に翻訳されているという村上さんだ。メッセージはイスラエルの人ばかりでなく、世界中に届いたことだろう。
●(紛争直後でもあり)賞を辞退せよとの声もありましたが、氏にはひとつの決意がありました。それは、事前に送ったスピーチ原稿に対して難色を示されるとか、一箇所でも表現を変えてほしいと言われたら、即座に受賞を断ることでした。そして、イスラエルにとっては耳の痛いこの話は、当事国の大統領が最前列に陣取る場でなされたのです。(※)
●当の村上氏は、「僕自身はとくに勇気があるとは思いません。それよりはゲストとして招かれ親切にしてもらいながら、批判的なメッセージを発しなくてはならなかったことに対して、つらい思いがありました」と。この思いを封印し、信念に従って発言することが“真の勇気なのだ”と山本は思います。来年こそはと期待したいですね。
※:『文藝春秋』(2009年4月号)「僕はなぜエルサレムに行ったのか」
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