無言のはげましは 人を感動させる 『ニューモラル』珠玉の言葉(3)
今回のお話には落語家がお二人(三遊亭円朝、桂文治)登場します。こちらの世界の知識がまったくない筆者ですので、ひょっとすると間違っているかもしれませんが、三遊亭円朝さんは、初代の三遊亭圓朝(1839-1900)のこと。そして桂文治さんは6代目桂文治(1843-1911)さんが該当すると思われます。
円朝の心に文治は泣いた
人情話と怪談を得意とし、名人と言われた三遊亭円朝は、落語会の復興に力を尽くした人としても知られています。
ある時、円朝がその才を認めた若手の桂文治が、円朝の出ている寄席(よせ)とはあまり遠くない寄席へ競って出たことがありました。当然ながら円朝のほうへ客足は繁く、文治のほうは閑古鳥が鳴く始末です。文治はすっかりくさってしまいました。
ところが三日ばかりたったころ、円朝が急病で休演ということになりました。客足が文治の方に流れ、流れた客は改めて文治の芸を認めました。
文治は内心で得意になりながら、円朝のもとへ見舞いに行きました。ところが円朝は病気どころか元気いっぱいです。割り切れない気持ちで文治は帰ってきましたが、後でその理由を聞いて感激のあまり泣きました。
円朝は、文治の芸を客に認めさせるために、仮病を使ったのでした。これはまさに無言のはげましと言ってよいでしょう。文治は一大奮起してますます芸にみがきをかけ、落語界復興の一翼を担うことになったのです。
はげまし――それは人を奮起させ、生きることの自覚をうながすものであるのです。愛と思いやりに満ちた励ましはいわば、人間の力を根源から湧きたたせるカンフル剤と言ってよいでしょう。
●初代の三遊亭圓朝は、幕末から明治への時代の移り変わりに翻弄されて、すっかりさびれてしまった落語界の復興に尽力した人として知られています。師事した師匠から想像を絶する冷たい仕打ちを受けながら、その遺族の面倒をきちんとみたそうです。修行時代の辛酸は、芸ばかりでなく人格までをも磨きあげてくれたのですね。
出典:モラロジー研究所刊『ニューモラル No.168(昭和58年8月号)』より
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