「察し用法」のひとつ「あのう」の便利な多様性 「察しの文化」(4)
「察しの文化」シリーズを書くに際して、参考になる文献を探しましたが、不思議?なことに容易に見つかりません。ようやくたどり着いたのが『世界のなかの日本型システム(※1)』で、その19章に「日本語表現を通して見た『察しの文化』/佐々木瑞枝著」がありました。その中から、なるほどと頷けたものを2回で紹介いたします。
「相手の気持ちを察する」には、その背後に構築された人間関係が必要
その人間関係を著者は、世代の違い、「長幼関係」と「恩恵関係」(下段で紹介)、「親疎関係」と「内外関係」に分け、親疎と内外について次のように解説しています。実家の別棟に10年住む長男の嫁は、ある日嫁いだ夫の妹が実家に遊びに来たとき、姑の言葉遣いから、自分はいまだに「疎」であり「外」なのだと感ずることがあるのだと。
「長幼関係」を優先し「恩恵関係」を無視するとギャップが生ずる
日本人が名刺好きなのは、名刺が言葉の「待遇」を決めるため。ですが、待遇概念を勘違いすると人間関係のギャップが生じます。これを筆者は、若い教師を社会的地位のある生徒の父親が長幼関係から「君」と呼び、生徒を教える恩恵関係にある教師の反発を買うシーンで解説し、父親の言葉遣いの誤りを指摘しています。
「君」の代わりに「あのう」と呼びかけたらどうなるだろうか
呼びかけに際してよく使われる「あのう」には、人間関係をよくする布石としての役割があり、「察し用法」の1つとされます。前出の父親が、「あのう、学校の授業の進み具合ですが…」と語りかければ、「言いにくいことだが思い切って言っておこう」といった遠慮の気持ちが「あのう」に込められていると理解されるとの解釈です。
「あのう」には、呼びかけのほかにもいくつかの機能がある
気持ちを察しつつ話を進めると、いくつものバリエーションに変化する「あのう」。
「あのう、明日は都合が悪くて・・・」(断る場合に使う)
「あのう、○○大学の先生でいらっしゃいますか」(たずねる)
「この論文はですね。あのう、まだ完成論文ではありませんので」(つなぎ)
話しかける場合に何と声をかけるかは日本語には非常に重要
これらの「あのう」はどれも話し相手が「内外関係」で言えば「外」の人、「親疎関係」で言えば「疎」の人、「先後関係」における「先」の人、利害関係のある人、恩恵を感じている人に向けられるものであり、家族に向かって使われることはまずない。また、独り語で「あのう」が使われることは決してありません。
参考文献:『世界のなかの日本型システム』(濱口惠俊編著/新曜社)
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