1人の人間が世界をどれほど変えられる(個人の大切さ) 美しいセオリー(4)
私は、自分が科学者だと思っており、私の思考の中心には進化理論がある。私は社会学者であり、経済学を含む多くの社会科学の分野からの洞察に教えられてきた。
それでも私は、人間行動のすべてを進化心理学で説明しようとする覇権主義的な試みにも、経済学の合理的な選択で説明しようとする試みにも、その両方の枠組みの折衷にも、ほとんど賛成しない。
ほとんど70億に近い住民によって占められているこの世界で、たった1人の人間が世界をどれほど変えられるか、私には驚くべきことに思える。モーツァルトやストラビンスキーのいない古典音楽を考えてみよう。カラバッジョ、ピカソ、ボロックのいない美術、シェークスピアもベケットもいない芝居の世界。
ミケランジェロやレオナルドがどれほど驚異的な貢献をしたか、最近では、スティーブ・ジョブズの死にあたって(それを言うなら、マイケル・ジャクソンやダイアナ妃の死も)深い感情が引き起こされた事を考えてみよう。モーゼもキリストもいなかったら、人間の価値はどうなっていたか、考えてみよう。(中略)
私は、過去100年で最も重要な人物は、マハトマ・ガンジーであると思う。彼がインドで成し遂げたことが、それを雄弁に物語っている。しかし、たとえガンジーが彼の祖国に活力とリーダーシップを与えなかったとしても、彼は、世界中の平和的抗議者たちに計り知れない影響を与えた。
南アフリカのネルソン・マンデラにも、アメリカ合衆国のマーチン・ルーサー・キング・ジュニアにも、1989年の天安門広場に立つ1人の人物にも、2011年のタハリール広場の人物にも。
人間の行動パターンをあぶり出そうとする科学者たちの努力はさておき、私はつねに、たった1人の人物や小集団が、ほとんど勝算がないにもかかわらず成し遂げることのできた衝撃の大きさに感銘を受けている。
学者としての私たちは、このような例を、研究という敷物の下に隠してしまうことはできないし、するべきではない。私たちは、人類学者のマーガレット・ミードの有名な言葉を忘れるべきではないだろう。
「考えた上で覚悟を決めた少数派の市民が世界を変えることができることを、決して疑ってならない。実際、いつも、それしかなかったのだ」。(本文中の太字は山本判断)
本稿筆者:ハワード・ガードナー(ハーヴァード大学教育学大学院、認知と教育学ホッブズ教授)
出典:『知のトップランナー149人の美しいセオリー』(青土社)
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