互恵的利他行動促進にはアメとムチのどちらが効くか? 利他学(5)
互恵的利他行動を維持していこうとする場合、アメとムチではどちらが効果的なのかというと、実はムチ(罰)の方なのだそうです。理論生物学者のロバート・ポイドらは、その理由として、罰を与えることで集団から裏切り者を減らしていくというのは負のフィードバックになるからだ、と言っています。
コミュニケーション上のフィードバックとは別のフィードバック機能
フィードバックとは、入出力をもつ系において、出力が入力や操作に影響を与えること、と定義されています。フィードバックの身近な例は、エアコンの温度調整でしょう。フィードバック機能があるおかげで、放っておいても設定温度よりも低ければ高くなるように調整してくれるし、高ければ低くなるようにしてくれます。
社会が持つ司法制度や警察制度は多額の税金によって維持されている
ある集団の中に多くの裏切り者がいるとします。これらに罰を与えるのはコストのかかることですが、その結果として裏切り者の数はどんどん減ります。すると、数が少なくなったぶん、罰を与えるコストは少なくて済むようになります。つまり、どんどん裏切り者を探し出し、罰を与えていけばいくほど、コストは少なくなるのです。
もしかして、日本の高い治安はムチ政策によってもたらされた!?
最終的には、実際に罰を与えなくても、罰があるという可能性だけで裏切り者の発生を抑えるところまでいくでしょう。もしかしたら、現代日本のような治安がよい社会は正にこういう状態なのかもしれません。一方、報酬を与えることで集団内に利他主義者を増やしていくのは、その逆のフィードバックになります。
利他主義者に報酬を与えることも、もちろんコストがかかります
ある集団のなかに利他主義者が何人かいて、これらに報酬を与えることで集団内の割合を増やしていこうとするとどうなるでしょうか。報酬によって利他主義者は増えていきますが、数が多くなるとそれだけ報酬にかかるコストも増えていきます。つまり、このやり方では利他主義者が増えるほどコストがかかってしまうのです。
自然淘汰は、より少ないコストで適応度を上げるものを選択していきます
ゆえに、裏切り者を探し出したり記憶したりすることで罰を与えるしくみの方が、利他主義者を覚えておく「しくみ」よりも発達したのかもしれません。
以上が、小田亮氏の「アメとムチ」論でした。日本の社会に「減点主義」が多いのは、こうした考え方が根底にあるのだとしたら、少しさみしい気がいたしますね。
参考文献:『利他学』(小田亮著/新潮社)
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