4つの「なぜ」 続・ティンバーゲンの問い(後篇) 利他学(2)
2015年2月10日の朝日新聞「声(Voice)」の欄に「冬の無人駅で受けた親切に感謝」という投書がありました。なぜ、人間は困った親子を通りすがりのトラック運転手が100キロも遠回りして助けたり、この投書のような利他行動を取る「しくみ」があるのでしょうか。今回は、そのメカニズムに「機能」との関係から迫ります。
人間が利他行動をする「しくみ」と「機能」の関係
道具を例にとって考えてみよう。一般的なハサミがどういう「しくみ」になっているかというと、ふたつの刃が交叉するように固定されていて、反対側には穴が空けられている。なぜこんな形になっているかというと、穴の部分に指を入れて刃を操作し、紙をふたつの刃ではさみこんで切断するためである。つまり、紙を人力で切るという「機能」を最も効率的に果たすために、ハサミの「しくみ」があるのだ。
人間が設計した人工物の場合、このように、「しくみ」は「機能」のためにある。ゆえに、ある人工物を前にしたとき、それがもつ「機能」が何であるかを考えると、その「しくみ」についての理解が進む。これが、「リバース・エンジニアリング(逆行設計)」という考え方だ。
人間がつくった道具というものは、普通は何らかの機能を持ち、目的を果たすように設計されている。つまり、人工物というのはエンジニアリングによって何らかの機能を果たすために各部分がつくられ、働いている。ということは、その人工物がもつ「機能」を考えれば、その人工物の「しくみ」につての理解が進むのではないか。
いままでハサミというものを見たことがない人が、生まれて初めてハサミを目にしたとしたらどうだろうか。なぜ、ふたつの刃が交叉するようになっていて、なぜ反対側に穴が空いているのか疑問に思うだろう。そこで、ハサミの機能を考えてみることが、その「しくみ」を理解するうえで大きなヒントになるに違いない。
同じことは、生物につてもいえる。人間だけでなく、すべての生物について、なぜその種がそんな「しくみ」をもっているのか、という問いかけをするとき、その「機能」を考えることが大きな助けになるのだ。
もちろん生物は誰かが設計して造ったものではない。その点は人工物と異なるところである。しかし、生物もメカニズムが働けば、あたかも誰かが設計したかのように非常に機能的なものになるのである。それが、「自然淘汰」だ。
文章は「自然淘汰と適応」に続きますが、本稿では割愛させていただきます。
参考文献:『利他学』(小田亮著/新潮社)
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