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2015年5月31日 (日)

チェリストの「心」にまつわる2つのお話  こころの声を「聴く力」(3)

2014年に99歳でお亡くなりになったチェリストの青木十良さんは、天皇陛下にチェロをお教えした方としても有名でした。その青木さんが88歳のとき、インタビューした山根さんに、音楽の素晴らしさを滔々と語ったそうです。もう一人のチェリストはミッシャ・マイスキーで、以前NHKの番組に出演したときのエピソードから。

演奏後心が冷えてしまったら「ベートーヴェン温泉に入る」(※1)
演奏した後、心が冷えてしまう音楽も作品の中にはあるとのことでした。そういうときは、ベートヴェンを弾くと温泉に入ったような気持ちになるのだと。なぜかというと、彼(ベートーヴェン)は本気で神様、神の国を信じていて、いつか自分がそこに行けると信じることによる温もりが感じられるからなのだそうです。

世界的チェリストが子供達に出したクイズとは? (※2)
何年か前のNHKの『未来の教室』で、世界的なチェロ奏者、ミッシャ・マイスキーが、ヨーロッパの子供達を集め、音楽の教育をしました。その教室でマイスキーは、子供達にクイズを出しました。
「君たち、これから、3人のチェロ奏者が、バッハの無伴奏チェロ組曲の同じ曲を演奏した録音を聴かせてあげる。そこで、この3人の演奏を聴いて、どの演奏が最も年配の奏者の演奏で、どの演奏が、最も若い奏者の演奏か、当ててごらん・・・」

そして、マイスキーは、3人の奏者の演奏を子どもたちに聴かせました
その演奏は、誰でも聞き分けられそうな感じの、「重厚」「軽快」また、「その中間」のものでした。このため、視聴者の多くには「何と簡単なクイズ」と思いました。

案の定、子供達も、同じ答えを口にした
子供達がクイズの答えを述べたあと,マイスキーは、穏やかな笑顔で、こう語りました。では、正解を教えよう。
君たちが、「最も年配の人の演奏だ」と言った、その重厚な演奏、それは、実は、16年前の自分の演奏だよ。
君たちが、「最も若い人の演奏だ」と言った、その軽やかな演奏、それは、最近の自分の演奏だよ・・・。

「人間の精神は、歳を重ねると、しなやかさ、軽やかさを失っていく」。われわれは、勝手にその「思い込み」と「固定観念」を抱いています。しかし、そうではないらしいのです。じつは、人間の精神は、歳を重ねるにつれ、しなやかさ、軽やかさを増していくこともあるということを、このマイスキーのエピソードが教えてくれます。

※1:『こころの声を「聴く力」』(山根基世著/潮出版社)
※2:『知性を磨く』(田坂広志著/光文社)

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