村上春樹氏のクルマを通しての体験的東西文明論 文明と文化(9-1)
前回(8)BMW会長のコメントを引用させていただいた村上春樹氏の『やがて哀しき外国語(1997年2月刊)』には、実際にアメリカやヨーロッパで暮らした体験をもとにした氏のヨーロッパ批判(建前としての普遍的人権と、実際としての階級社会)が登場します。その中から主にクルマにまつわるお話を、今回は取り上げます。
先日雑誌を見ていたら、フォン・クーエンハイムというBMWの会長のインタビュー記事が載っていた。BMWはアメリカの不景気と日本車の攻勢、特に高級車部門への急速な進出によって、北米での売り上げが大幅に落ち込んで、かなりの危機感を持っているようである。
だからどうしても日本車に対する嫌悪感がむき出しになる。日本の高級車は、高級車とは名ばかりで、結局は「洗練された大きなカローラ」じゃないか。料理でいえばファースト・フードに毛が生えた程度のものじゃないか。俺たちの作っている車はそれとはぜんぜん成り立ちが違うんだ、格が違うんだ、というのが会長の言い分である。
それは確かにそうかもしれないと思う。でも問題はアメリカ人たちがその「洗練された大きなカローラ」にけっこう喜んで乗っていることである。たぶん肩がこらないからじゃないかと思うのだが、まあそれはそれとして、インタビューの中にちょっとおもしろい発言があった。
「日本車のことだけれどね。我々は(彼らに比べて)大きなアドヴァンテージを持っているし、そのことを我々は誇りにしている。それはね、我々は大きなバックグランドを持っているということなんだ。この2千年、3千年の歴史の源はギリシャであり、ローマなんだ。そしてルネッサンスなんだ。スタイリングのすべてはヨーロッパで作り出されたんだ。ギリシャの寺院を見たまえ。いわゆる黄金分割というやつだよ。そして平面やら、スタイリングやらの組み合わせに目をやってほしい。たとえばフランスのファッション、イタリアの高級メンズ・スーツ。価値とはそういうものだよ。そしてその価値を手にしているのは我々だよ。何故ならそういうものをきっちりと身につけるには、伝統というものが必要とされるからだ。そして何世紀にもわたる教育というものがね」
BMWは良い車だと思うけれど、このクーエンハイム会長の発言は基本的にいささか不穏当だし、細部にはいくつかの間違いがある。たとえばこの2、3千年の歴史の源がギリシャ、ローマだというのはあまりといえばあまりの話である。世界史においてヨーロッパがはっきりと主導権を取ったのは、せいぜい産業革命以来のことである(以下9-2に続く)。
参考文献:『やがて哀しき外国語』(村上春樹著/講談社)
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