原因の時間的先行 因果関係の向きを問う
「風が吹けば桶屋が儲かる」は本当か 『原因を推論する』より(4)
見出しのことわざは『大辞林』によれば、「何か事が起こると、めぐりめぐって意外なところに影響が及ぶことのたとえである」とされています。このたとえ話は、十返舎一九の『東海道中膝栗毛』に登場し、落語でも有名になったものです。ただし、そこでは桶屋ではなく、箱屋が儲かるとなっています。
「わしが江戸にいたある年のことだったが、夏の初めから秋にかけて、やけに強い風の吹いたことがあったんですよ。で、この風から金儲けを思いついたてわけね。」
「風と金儲けねえ……。」
「で、まず箱屋を始めた。重箱、櫛箱……まあつまり、あらゆる箱を売ろうというアイデアだね。」
「よくわからねえなあ、風が吹いたから箱屋をやって儲けるのかい。」
「つまりね、風が吹けば砂ぼこりが立ちますわなあ。」
「砂ぼこりが立てば、それが人の目に入ることになる。」
「なるほど。」
「すると、目を悪くする人がたくさん出る。」
(中略)
「ねずみが大暴れして、世間の箱という箱をかじるでしょ。そこで箱を売り出せばですね、めちゃくちゃ売れるんではないかと。」
「はあ、それで売れましたか。」
「いや、さっぱり売れなかった。」 『村松友視の東海道中膝栗毛』より
現在では猫の皮が高価になり、三味線の胴には代わりに犬の皮が張られることが多くなりました。この因果関係の連鎖を成り立たせる前提は、もはや存在しません。しかし、それはともかく、この因果関係の連鎖を信じて勝負に出たこの語り手は、結局事業に失敗して巡礼に出ることになったというお話になっています。
丸山健夫氏は話を「8事象」7ステップ(→)に整理し成功確率0.8%と推定
「風が吹けば桶屋が儲かる」が想定する因果関係の連鎖は、「強風」→「大気中の砂塵増加」→「失明する人の増加」→「三味線の需要増加」→「猫の減少」→「ねずみの増加」→「桶の損傷件数増大」→「桶屋の売上増」
各ステップがそれぞれ成立する確率を、相当大きめに見て50%とします。その場合、このすべてのステップが成立するのは、2分の1の7乗となり、それは0.0078125となり成功確率は0.8%を切ってしまいます。
※:『原因を推論する』~政治分析方法論のすすめ~(久米郁男著/有斐閣)
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