アフター5に行くならどっち? 「大阪環状線総選挙」という“仕掛学”の試み
この2年ほど研修のほとんどはパソコンの画面を通してオンライン研修でしたが、先日久しぶりに以前からお付き合いのある会社さんのリアル研修のため3日間大阪に出張しました。移動日は大きなスーツケースを携えており、乗り換えのJR西日本大阪駅では通常昇る階段をパスしてエスカレーターを利用しました。
夕方の帰宅時間帯でもあり、広い階段のわきに設置されたこのエスカレーターには行列ができていると覚悟していきましたが、これが意外にスムーズでした。研修講師という仕事柄、常に先を予測しながら行動を心がけているのですが、この時も「どうして・・・」と頭を巡らせたところ、2か月ほど前に読んだある雑誌の記事を思い出しました。
『日経ビジネス』2022年5月23日号「大阪発のオモロイ仕掛学」には、人の行動を変える「仕掛学」を提唱する大阪大学大学院経済研究所の松村真宏教授の研究チームによる3年前(2019年7月末~8月初)の、「大阪環状線総選挙」という面白い実験(当日私が利用したそのエスカレーターのその横の階段でおこなわれた)のことが書かれていました。
「アフター5に行くならどっち?」と、実験では、エスカレーター横の広い階段左側部分を赤く塗り、白抜きで「福島派」、右側を青く塗り同じく「天満派」と大きく書きました。要するに、大阪環状線への乗り換え方向を示し、この会談を利用した人の数をリアルタイムで公表するという遊び感覚の仕掛です。
たまたま実験期間中は連日うだるような暑さで、階段を使ってもらえるか心配されたそうですが、実験の結果1週間の階段利用者のうち福島派は50,731票(人)、天満派は85,759票(人)となり、投票結果は天満派の勝利だったそうです。
研究チームによると、これがそのまま、それぞれの街の人気を表しているかは分からないとのことですが、階段利用者が1日あたり1,342人増加(全体の7.4%)したことが推計上ですが確認できたそうです。実験成功というか仕掛けがうまくいったのですね。
この大阪駅と同じような実験がアメリカの大学最寄りの地下鉄の駅で行われたことがあります。「学生は、階段を利用すること」というプラカードを立てたのです。すると、学生たちは階段を利用するようになりました。そして、これが間接的暗示法、簡単に言えば波及効果をもたらし、一般の利用者も階段を使うようになったそうです。
最後は前出の大阪大学・松村真宏教授の著書『仕掛学』に、教授がハリウッドで見かけた白い階段の間に一部黒い階段が混じることでピアノの鍵盤に見立て、実際に歩くと音が鳴るピアノ階段のお話です。2022年7月29日の毎日新聞のウエブ版によると、これと同様巨大階段ピアノ」が、福岡市中央区の西鉄福岡(天神)駅北口に登場しました。
44段ある大階段の中央の踊り場から下部分の4段目から18段目までを踏むと音が鳴るそうです。赤外線センサーが階段の端に設置されており、ステップを踏むことで赤外線が遮られ、それを感知して音が鳴る仕組みなのだとか。西日本鉄道と福岡市が街中のにぎわい創出と市民の健康増進を目的に、共同で9月11日までの期間限定で設置したそうです。
参考文献:『日経ビジネス』2022年5月23日号、『人は「暗示で」9割動く!』、『仕掛学』
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