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2022年9月

2022年9月25日 (日)

「冷凍食品」の利用は「手抜き」、それとも「時間の節約」

2022年8月31日の朝日新聞、朝刊・経済欄に「冷凍食品、今や花形」という縦書きの大見出しと、「手抜き」「時間の節約」「食卓を支える」の3つのフレーズがヨコ見出しの、6段組みの記事が掲載されました。今回の特集はコロナ禍の巣ごもり需要を支援材料として、冷凍食品の売れ行きが好調であることにスポットを当てたものでした。

スクラップを後日見直した時に、そういえば台所にまつわる「手抜き」について似たような事例があったことを思い出し、古い資料を探したところ、該当例が2つ見つかりました。1つは「ホットケーキミックス」であり、もう1つは「インスタントコーヒー」に関するものでした。いずれも発売当初から画期的な商品として注目されたものです。

ある会社が、水を加えるだけでできる革新的なホットケーキミックスを開発し、自信作として売り出したところ期待に反し、まったく売れませんでした。そこで、売れない理由をいろいろと調べたところ、どうやら調理法が簡単すぎることが「手抜き」と受け取られることに抵抗があるらしいとの、意外な報告が上がってきたそうです。

そこでメーカーは開発趣旨には反するものの、水を加えただけの便利さをあったり捨て、あえて卵と牛乳を加えて焼くという“面倒な作り方”に変えました。するとどうでしょう。その後一気にマーケットに浸透し、競合品も数多く販売される大ヒット商品になりました。

手間が省けることを打ち出したために女性から受け入れられなかったのは、世界的食品メーカー・ネスレの「ネスカフェ」も同じでした。格安でしかも本物に引けを取らない風味の自信作dした。ところがさっぱり売れません。調査の結果、夫に安いコーヒーを出すのはよい主婦のすることではないとの批判があることが分かりました。

そこでネスレは朝の食卓で幸せそうに珈琲を出しながら、夫や子供たちとおしゃべりを楽しむ主婦たちの姿を見せる(キッチンに立つ時間を減らすことで、ネスカフェ奥様は、夫や子供たちとの「上質」な時間を前より多く得た!との意図)広告キャンペーンに切り替えたところ、売り上げは目に見えて伸び、商品として定着しました。

さて、本稿の最後は、「社会的手抜き」です。20世紀の初頭、フランスの農業技術の教授であったリンゲルマンは、綱引きや荷車を引くことの実験で、1人の力を100%とした場合、集団作業の1人当たりの力の量は、2人の場合の93%、3人だと85%、4人だと77%、5人だと70%、6人だと63%、7人56%、8人49%となる検査結果を得ました。

8人は単独作業に比べ半分以下しか力を出せません。実験を通じリンゲルマンは、個人が単独で作業を行った場合に比べて、集団の方が努力の量(動機づけ)が低下する現象を社会的手抜きとしました。なお、今回取り上げた前記2商品は個人が扱いますので、「手抜き」というよりは「体裁」がポイントだったと考えるべきなのかもしれません。

参考文献:『ビジネスは「非言語」で動く』/『あなたもこうしてダマされている』/『社会的手抜きの心理学』

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2022年9月22日 (木)

3人の野球監督からリーダーシップのあり方を考える

第30回U18(18歳以下)の野球のW杯で、日本は第28回大会(2017年)以来2大会ぶりの銅メダルを獲得しました。ヤクルト村上選手のホームラン記録がどこまで伸びるか、大リーグの大谷選手のMVP争いと、このところ野球の話題が豊富ですので、今回は野球チームの監督のリーダーシップについて考察を試みます。

リーダーシップを語る上でSL理論は欠かせません。Situational Ledership Theory の最初の頭文字を組み合わせたもので、「援助的行動」と「指示的行動」を2軸にとり、チームの成熟度に応じて「指示型」「説得型」「参加型」「委任型」の4つのカテゴリーに分類。状況に応じたリーダーシップのあり方を示したものです。

なお、筆者は野球の素人であり専門的な分類はできませんが、それぞれの監督の発言内容とその成果を基に仕分けを試みました(あくまで私見であり、勘違いがあればコメントなどいただければ有難く存じます)。今回取り上げるのは、10~20年までの少年野球チーム、今夏の甲子園チーム、そして連覇目前のプロ野球チームです。

最初に取り上げるのは、少年野球で華々しい成果をあげられた監督のリーダーシップです。この監督の名は鍛治舎巧(かじしゃたくみ)さんと仰いますが、『プロ野球を選ばなかった怪物たち』に登場します。アマチュア野球の世界では有名な方で、今夏の甲子園には出身高校(県立岐阜商業)の監督として出場されています。

2002年から13年間、少年野球チーム・オール枚方ボーイズを指導。この間全国大会で12回優勝。鍛治舎監督が選手にいつも言い聞かせていたことは、「90度のグランドでは君たちは満点。でも360度全てに気配りができないと日本一になれない」だったとか。これは「説得型リーダーシップ」

次は、ある意味では今夏の甲子園大会の主役だったかもしれない仙台育英高校の須江監督です。2017年12月に発覚した不祥事のあとに監督に就任した須江氏は、専門知識を持つスタッフの分業と練習のデータ化にこだわり、それらのデータを選手・スタッフと共有することで、押し付けでないチーム作りを進めたそうです。

その効果は「チームは一人のために、一人はチームのために」に通じる「つなぎの打線」という戦術に昇華したようです。甲子園での優勝監督インタビューでは「厳しい環境に耐えた全国の野球少年に拍手を」と言葉を結ばれました。この言葉に日頃の指導法が集約されていた気がします。こうした須江監督の姿勢は「参加型リーダーシップ」

最後は、プロ野球ヤクルトの高津監督です。高津監督の著書『二軍監督の仕事』に「プロ野球は『4番投手』でやってきた選手ばかり。だからプロになっても4番でエースだった時の気持ちを忘れたら絶対にうまくいかない」と。選手のプライドを傷つけることなく頂点を目指す指導法は「委任型リーダーシップ」なのでは。

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2022年9月17日 (土)

「赤信号みんなで渡れば怖くない」。では「黄信号」は? 緑色なのに「青信号」と呼ぶのはなぜ?

「赤信号みんなで渡れば怖くない」。では「黄信号」はどうか…今回このテーマについて書くきっかけは、202111月改定の『三省堂国語辞典第8版』の「赤信号」の用法例として登場したことを知ったからでした(ただし姉妹辞典『三省堂明解国語辞典』には記載されていません)。この言い回し(ギャグ)は1980年にビートきよし&ビートたけしの漫才コンビのツービートが流行らせました。

40年前の忘れ去らたこの言葉が、なぜ復活したのかを知りたくWeb検索したところ、10年ほど前、中国のあるネットユーザーの投稿が浮かび上がりました。それは「赤信号みんなで渡れば怖くない。信号なんて有っても無くても関係ない」で、大ブレイク後、中国語版ウィキぺディアのその年の10大ネット流行語に選ばれたそうです。

ここで「信号なんて有っても無くても関係ない」と思わせてしまう要因のひとつを紹介します。フランスの大学で25歳の男性が服装を変えて赤信号を無視するマナー違反の実験をしました。するとスーツにネクタイ姿につられて渡った人の割合は54.5%。キレイなTシャツだと17.9%、穴の開いた汚れたTシャツだと9.3%でした。

服装は社会的影響力を持ちます。白衣は医師や看護師のシンボルとして信用され、他の業種の人が白衣を纏っている場合でも、アクシデント遭遇時の通行人に真っ先に頼りにされるとの実験結果もあります。それがスーツとネクタイ姿にも似た効果があるのですから、きちんとした身なりにはそれなりのマナーが求められることになります。

さて、「赤信号」の次は「黄信号」のマナー違反についてです。『カオスとアクシデントを操る数学』という本に、「黄信号」を無視すると、統計的に見ておおよそ1000回に1度事故を起こす危険性があると記されていました。1日に1回「黄信号」を無視したら、ひと月に約30回、33ヵ月で1000回に達します。

職場で起こる事故がどのくらいの確率で起きるかを経験的にまとめた「ハインリッヒの法則」によると、ひとつの重大事故の背景には29のちょっとした事故があり、その事故の背景には300の「ヒヤリとした」「ハットした」体験があるというものです。この法則に当てはめると、黄色信号を無視し続ける人のリスクはどのくらいに…。

ためしに10日に1度「ヒヤリとした」「ハットした」体験をすると、100日に1度「ちょっとしたトラブル」を体験し、2年半後、つまり30ヵ月後には事故に遭遇する確率があることになります。自身の運転に照らし合わせ、また身近に思い当たる人がおられたら、ぜひ行動を改めるようにご注意いただきたいと思います。

最後は緑色なのに「青信号」と呼ぶのはなぜ? を取り上げます。NHKの『ちこちゃんに叱られる』の答えは「新聞が青と書いたから」でした。この記事以降「青信号」が世間に定着。1947年(昭和22年)には法令も「青信号」表示に。ちなみに運用面では限りなく「緑」に近い「青緑」「緑み青」などの色の使用に切り替えつつあるとのこと。

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2022年9月12日 (月)

改版辞書・辞典の「言葉」「表現」「用語」からジェネレーションを知るⅡ

今回取り上げるのは、言葉の解説が時流に合わせてかなり深堀されたと思われる2022年1月改定の岩波『広辞苑第7巻』です。例えば、料理時の「炒める」は、これまでの「食品を少量をの油を使って加熱・調理する」が「熱した調理器具の上に少量の油をひいて、食材同士をぶるけるように動かしながら加熱・調理する」と変わりました。

この変化を教えてくれたのは、図書館で読んだ『いつもの言葉を哲学する』(古田徹也著/朝日新聞社出版)でした。確かに料理初心者には「炒める」という行為が伝わらず、満足な料理に仕上がってなかったように思うのです。

この解説に至るまでの編集者の苦労談「炒めるの真髄を見極めるべく、日々炒め物を作りまくり、料理をしていないときも、エアフライパンを片手に、炒める動作をしまくった。そうして、悩みに悩んだすえ、ついに天啓が降ってきて、前記の解説になった」が、『船を編む』の三浦しおんさんによる『広辞苑をつくる人』でした。

『広辞苑7巻』には他に、

「こする」:押しつけて摩擦する。すりみがく。⇒物と物とをぴったりとつけて、繰り返し触れ合わす。押しつけたままうごかす。摩擦する。

「なでる」:手のひらでやさしくする。⇒手のひらなどで優しく触り、形に添って一度または何度か動かす・・・なども新しい解説に変わっています。

『広辞苑』の丁寧でわかりやすい表現への変換を見て、研修講師の私が思ったこと。それは、多くの職場の上司たちが、きちんと受けとめられていないにもかかわらず、辞書編集者の方たちが、若い世代の多くが見たり習ったりして学ぶのではなく、マニュアルで技術の習得をすることが出来るように変化をきちんと読み取られていたことへの敬意の念でした。

最後に毎年11月頃に、自由国民社から発行される『現代用語の基礎知識』に触れます。これは毎年改定され、現代人として必要と考えられる用語にマスコミなどで使われる新語を加えて編集された辞典・用語辞典の一種で、年鑑の性格も持つそうです。1984年から、その年の世相を反映した新語・流行語大賞を選定して発表しています。以下に、印象深いものを紹介します(敬称略)。

1994年 同情するならカネをくれ(安達祐実)

1996年 自分を自分でほめたい(有森裕子)

2005年 想定内(堀江貴文)

2008年 アラフォー(天海祐希)

2013年 いまでしょ!(林修)

2017年 インスタ映え(Can Cam it girl)

2019年 ONE TEAM(ラグビーW杯2019 日本代表)

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2022年9月 8日 (木)

改訂版辞書・辞典の「言葉」「表現」「用語」からジェネレーションを知るⅠ

昨年の暮れから本年初頭(20212022年)にかけて、日本を代表する辞書・辞典(『三省堂国語辞典 第8版(小型)』『岩波・広辞苑第7巻(中型)』)が改版されました。中学や高校で用いられるのが「小型」で、「中型」は『広辞苑』をはじめ、『大辞林』とか『大辞泉』など。「大型」に分類されるのは、小学館の『日本国語大辞典:全14巻』。

ご存じのように辞書は、改訂のたびに、使われなくなった言葉を削り、その間に新たに使われ始め、世の中に定着した言葉を追加する、という地道な作業が繰り返えされます。この辺りの事情は、10年前本屋大賞に選ばれ、映画にも、アニメ化されてテレビでも放映された三浦しおんさんの『舟を編む」に詳しく書かれていました。

さて、『三省堂国語辞典 第8版』では約1100の古い言葉が消えた一方で、約3500の新しい言葉が追加掲載されています。2022822日放映の日本テレビのバラエティー番組「月曜から夜ふかし」で、削除された「コギャル」「タカラジェンヌ」「着メロ」「マイナスイオン」などが取り上げられWeb上で注目を集めました。

新しく取り上げられた言葉を三省堂のHPから10語ほど抜き書きしてみましょう。「ガールズバー(女性中心のショットバー)」「自分事」「聖地巡礼」「センベロ(千円で酔える酒場などの俗称)」「ソーシャルディスタンス」「ゾーンに入る」「猫パンチ」「腹落ち」「ホニャララ」「マリトッツォ(生クリームを挟んだスイーツ)」。()は筆者注。

上記には取り上げませんでしたが、新掲載語の中に「赤信号みんなで渡ればこわくない」が入っていたのには、少々驚かされました。この言葉は今から約30年も前にツービート(漫才コンビ)が流行らせた懐かしいギャグで、日本では既に死語化していましたが、10年ほど前に中国で脚光を浴びたことが関係しているのかもしれません。

なお、辞書には新しい言葉と並行して、新しく追記された語義も掲載されます。その対象例は、完封(箸)/クラスター/誤爆/塩(対応)/巣ごもり(消費)/忖度/つらみ/(新曲が)尊い/とろみ(ブラウス)/なんなら/~ペイ/(まつたけ)祭り/目詰まり/リモート(飲み会)などですが、「忖度」が入っているのは意味深ですね。

今回は、「言葉」「表現」の変化で知るジェネレーションⅠ として、『三省堂国語辞典 第8版』を取り上げましたが、次回は、これのⅡとして、岩波『広辞苑』の旧版と新版の時代の変化を的確に捉えた「表現」の違いを。また、自由国民社の『現代用語の基礎知識』から年ごとの特徴的な「用語(新語・流行語)を取り上げます。

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