「冷凍食品」の利用は「手抜き」、それとも「時間の節約」
2022年8月31日の朝日新聞、朝刊・経済欄に「冷凍食品、今や花形」という縦書きの大見出しと、「手抜き」「時間の節約」「食卓を支える」の3つのフレーズがヨコ見出しの、6段組みの記事が掲載されました。今回の特集はコロナ禍の巣ごもり需要を支援材料として、冷凍食品の売れ行きが好調であることにスポットを当てたものでした。
スクラップを後日見直した時に、そういえば台所にまつわる「手抜き」について似たような事例があったことを思い出し、古い資料を探したところ、該当例が2つ見つかりました。1つは「ホットケーキミックス」であり、もう1つは「インスタントコーヒー」に関するものでした。いずれも発売当初から画期的な商品として注目されたものです。
ある会社が、水を加えるだけでできる革新的なホットケーキミックスを開発し、自信作として売り出したところ期待に反し、まったく売れませんでした。そこで、売れない理由をいろいろと調べたところ、どうやら調理法が簡単すぎることが「手抜き」と受け取られることに抵抗があるらしいとの、意外な報告が上がってきたそうです。
そこでメーカーは開発趣旨には反するものの、水を加えただけの便利さをあったり捨て、あえて卵と牛乳を加えて焼くという“面倒な作り方”に変えました。するとどうでしょう。その後一気にマーケットに浸透し、競合品も数多く販売される大ヒット商品になりました。
手間が省けることを打ち出したために女性から受け入れられなかったのは、世界的食品メーカー・ネスレの「ネスカフェ」も同じでした。格安でしかも本物に引けを取らない風味の自信作dした。ところがさっぱり売れません。調査の結果、夫に安いコーヒーを出すのはよい主婦のすることではないとの批判があることが分かりました。
そこでネスレは朝の食卓で幸せそうに珈琲を出しながら、夫や子供たちとおしゃべりを楽しむ主婦たちの姿を見せる(キッチンに立つ時間を減らすことで、ネスカフェ奥様は、夫や子供たちとの「上質」な時間を前より多く得た!との意図)広告キャンペーンに切り替えたところ、売り上げは目に見えて伸び、商品として定着しました。
さて、本稿の最後は、「社会的手抜き」です。20世紀の初頭、フランスの農業技術の教授であったリンゲルマンは、綱引きや荷車を引くことの実験で、1人の力を100%とした場合、集団作業の1人当たりの力の量は、2人の場合の93%、3人だと85%、4人だと77%、5人だと70%、6人だと63%、7人56%、8人49%となる検査結果を得ました。
8人は単独作業に比べ半分以下しか力を出せません。実験を通じリンゲルマンは、個人が単独で作業を行った場合に比べて、集団の方が努力の量(動機づけ)が低下する現象を社会的手抜きとしました。なお、今回取り上げた前記2商品は個人が扱いますので、「手抜き」というよりは「体裁」がポイントだったと考えるべきなのかもしれません。
参考文献:『ビジネスは「非言語」で動く』/『あなたもこうしてダマされている』/『社会的手抜きの心理学』
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