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2023年4月

2023年4月30日 (日)

象集団のように賢ければリーダーは務まるらしい

『ドラッカー思考法大全』によると、「「データ」に意味を加えたものが「情報」であり、その情報を「成果をあげる能力」に転換したものが「知識」になると。象は年齢が一番高いメスがリーダーとなるのは、成熟オスが群れを離れることと無関係ではないにしろ、渇水期にどう進めば水源に到るかの知恵(経験)を最優先した合理的な判断なのでしょう。

またドラッカーは、「知っていることとできることは違う」として、こんな事例を挙げています。「ある地域を空爆するかどうかは司令官の判断である。しかし、その司令官も1気象予報官の判断を無視して飛行機を飛ばすことはできない」と。それは気象予報官だけでなく、市場調査担当者やマーケティング担当者などについても同じことがいえると。

ところで、一見理にかなった象の集団のような考え方が、はたして今日のビジネス社会で通用するでしょうか。これについては、「1匹の羊に率いられた100頭のライオンと、1頭のライオンに率いられた100匹の羊が戦ったら」という喩え話がよく語られますが、アレクサンダー大王もナポレオンも強者のパワフルリーダーシップの支持派です。

しかし、強者が率いれば弱卒も力を発揮するとの考え方に異を唱えた経営者がいました。それは、すでに過去の人との見方(最近は再評価されてきた感あり)もあるようですが、30年も前からスタートアップ企業家養成所のようだとして早くから注目を集め、そのトレンドが今日まで脈々と引き継がれているリクルート創業者・江副浩正氏がその人です。

江副さんのリーダーシップは年長のメス象のそれに似ているのではないでしょうか。

戦略の古典として知られる『孫子の兵法』の「計略(第一)」に「将とは、智・信・仁・勇・厳なり」があります。白川静博士の『字通』によると、「智」とは知恵のあること、「信」はまこと、「仁」はいつくしむこと、「勇」は勇ましいこと、「厳」はおごそかなこと。

孫子の「将とは、智・信・仁・勇・厳なり」を、白川博士の『字通』の解説に沿って理解を進めると、前段の「智・信・仁」と後段の「勇・厳」の意味するところは大きくわかれます。前者は年長のメス象の穏やかなサーバント・リーダーシップを思わせ、後者は1頭のライオンの100匹の羊の集団への支配型リーダーシップが当てはまりそうです。

なお、『孫子に経営を読む』の著者は、マキャベリの『君主論』から「君主は、たとえ愛されなくてもいいが、人から恨みを受けることがなく、しかも怖れられる存在でなければならない」を引用し、『孫子』の「信や仁という人から敬愛される徳目」よりも、「勇や厳という恐れられる特性」を重視するマキャベリの姿勢に疑問符を投げかけていらっしゃいます。

参考文献:『ドラッカー思考法大全』(藤屋伸二著/KADOKAWA刊)

『孫子に経営を読む』(伊丹敬之著/日経BP&日本経済新聞出版本部)

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2023年4月25日 (火)

「作業」「雑用」といった誤った認識について

稲盛氏は、「現場にはヒントがたくさん」あるとして、ある先輩社員とのエピソードを『京セラフィロソフィ』に書かれています。その先輩社員は大変真面目な方で、黙々と仕事をされていたと。あるとき、セラミックの原料となる粉を混ぜあわせる際、先輩が洗い場に座り込んで、一生懸命にボールミル(陶器製容器)をたわしで洗っていました。

中に入っているボールには欠けてくぼんでいるものもあり、そのくぼみに実験で使った粉がこびりついていたりするので、彼はそれをヘラでほじくって、きれいに水洗いをしていたのです(一見要領悪そうに)。実験を始めた当初の稲盛氏は、「この原料とこの原料をボールミルに入れて混ぜる」と学校で習ったとおり、何の気なしに混ぜていました。

ところが、いい加減に洗っている稲盛氏は、なかなかよい実験結果が得られない。そこで頭をガーンと殴られたような気がしたそうです。簡単に洗っていたのでは、前の実験で使った粉が少し残ってしまう。そのわずかな異物の混入がセラミックスの性質が変えてしまったのです。そのことから「現場主義」を尊重する京セライズムが確立されました。

次は「雑用」について。著書に『置かれた場所で咲きなさい』がある元ノートルダム清心学園理事長・渡辺和子さんの「雑用」という文章が『忘れないでおくこと』という本にあります。渡辺さんは、家庭の事情もあり30歳近くまで働いてから修道院に入り、英語堪能者だったことから、たった一人の日本人修練女として、ボストンの修練院に派遣された。

修練院は朝5時起床、夜9時就寝の間の時間は、ほとんどが命ぜられ単純労働。そんなある夏の昼下がり、渡辺さんは夕飯の配膳をしていた。一つひとつのパイプ椅子の前のテーブルに皿、コップ、フォーク等を並べるのである。いつの間にか背後に修練長が来ていて、彼女に「シスター、あなたは何を考えながら仕事をしているのですか」と尋ねた。

とっさのことでもあり、「別に何も」と答えた渡辺さんに、修練長は「あなたは、時間を無駄にしています」と叱責するのでした。命じられた仕事をしているのに「なぜ」といぶかる渡辺さんに、修練長は穏やかに言いました。「同じ並べるのなら、夕食を摂る一人ひとりのために、祈りながら置いていきなさい」と。それ時までの渡辺さんは…

仕事はすればいい(doing)と考えていたが、仕事は意味あるものとする(being)ことが大切なのだ。時間の使い方は、そのままいのちの使い方になるのだと。そして、この世の中に雑用はない、用をぞんざいにした時に雑用になるのだというように考えを改めました。雑用を雑用とすることなく、平凡な暮らしを、非凡な日々にして過ごしていこうと。

参考文献:『京セラフィロソフィ』(稲森和夫著/サンマーク出版刊)

『忘れないでおくこと』(暮しの手帖編集部編/同社刊)

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2023年4月17日 (月)

言葉の「言葉遣い」「言い換え」「文字表現」

最初は「言い回し」です。結婚披露宴のスピーチでは、離婚を想像させる「(縁が)切れる」「別れる」などは、忌み言葉として使ってはいけません。何度も結婚することを想像させる重ね言葉、「皆々様には…」「ますます…」もNGです。では、結婚披露宴などで、以下のような意味のことを話そうとするとき、どのように言い換えればいいでしょうか。

*「本日はお忙しい中…」→「本日は、ご多用中の中…」(「忙」の字の「りっしんべん」は「心」を表わします。「忙しい」は「心を亡くす」の意味になるので。

*短い時間ではありますが→つかの間ではございますが/*冷めないうちにどうぞ→温かいうちにどうぞ!/*ケーキをカットします→ゲーキに入刀します

*スタートを切ることになります→スタートラインに立ちます/*実家を離れてから→一人暮らしを始めてから/*試合に負けたとき→試合に勝てなかったとき/*受験に落ちてしまい→受験がうまくいかず/*忘れないでください→お心にとどめていただけますよう/*くれぐれもよろしくお願いいたします→今後ともよろしくお願いいたします。

次は「言い換え」です。「ご苦労さまです」と「お疲れさまです」について、『president2023414日号に言語学者の金田一秀穂先生の「日本一わかりやすい『日本語』の取扱説明書」中にこれに言及する箇所がありました。その内容は、これまでの研修講師としてマナー教育で語ってきたことに、修正を加える必要を感じさせるものでもありました。

該当箇所は以下の通り。「実際によくある敬語の間違いを紹介しましょう。たとえば目上の人に対して『ご苦労さまでした』というのは厳禁です。『ご苦労さま』が失礼だとわかる人が『お疲れさまでした』と使うケースもありますが、それも不適当です。目上の人に対して、労ったり慰めたりすること自体が敬意を欠いています」。

最後は、日常で使用頻度の高い「ください」の仮名表記と漢字交じり表記の違いにつてです。この二通りの書き方に大きな違いがあることを教えてくれる好事例があります。たぶん昭和生まれの方には馴染のある、飴の専門店・榮太樓本舗での実話です。このお店は新商品の認知度を高めるためにSNSも活用したキャンペーンに取り組みました。

そんな折、Twitterに書き込みがありました。それはカタログやSNSに「是非ご賞味下さい、と漢字で『下さい』と書くのは、お客様に対して上から目線の書き方だ。江戸の老舗菓子店が使う言葉ではない」というものでした。榮太樓本舗では、このご指摘を真摯に受け止め、即座にカタログをはじめすべての媒体表現を「ください」に変更しました。

公益社団法人日本広報協会によると、漢字を使う場合は、「飲み物をクダさい」といった実質動詞(「くれ」の尊敬・丁寧表現)の場合は、「下さい」と漢字書きにします。仮名書きにする場合は、「お飲みクダさい」といった補助動詞(何かをお願いするときや、敬意を表す尊敬・丁寧表現)の場合は、「ください」と仮名書きにします。

参考文献:『相手のことを思いやる ちょっとした心くばり』(岩下宣子著/三笠書房刊)

『愛されるマーケ嫌われるマーケ』(日経クロストレンド編/日経BP刊)(1336字)

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2023年4月10日 (月)

心理的安全性にまつわる4つの不安と4つの思考

心理的安全性を阻害する4つの不安

「無知への不安」:こんな単純なこともわからないと思われそう  

「無能への不安」:こんな簡単なこともできないのかと思われそう  

「否定への不安」:反対して、人間関係や自己評価に傷をつけたくない  

「邪魔への不安」:自分だけ悪目立ちして、仲間はずれになりたくない

 

心理的安全性を壊す4つの思考 

「完璧主義」:他者のすべての行動に完璧を求めたい  

「コントロール欲求」:他者の思考や行動を自分の統制下におきたい  

「過度の所属欲求」:同じ価値観や意見を持ち、一体感ある仲間でいたい  

「犯人探しの本能」:悪いことが起きると、犯人を探して非難したい

 

グーグルが発見したチーム成功要因5要素の1番目は「心理的安全性」

グーグルは、大半が同じメンバーで構成されている2つのチームの活動成果から、興味深いデーターを検出した(集団的知性〈Collective Intelligence〉の発見)。両チームには共通してハイパフォーマーなメンバーが多く含まれており、個人能力の総和に大きな違いはない。にもかかわらず、チームの生産性には大きな差が発生していた。

これらの実験結果の考察から、個人生産性の合計とチームの生産性は相関関係が少なく、チームの生産性の向上のためには「集団的知性がいかに生まれるか」という視点が重要であることがわかった。この研究の成果は、研究結果である「心理的安全性の重要性」とともに、ビジネス界に世界に大きな影響を与えることになった。

これらを総合的に考察して、グーグルは「心理的安全性がチームの生産性を高める」と結論づけた。ここでいう「心理的安全性」とは、「チームメイトなどまわりの評価に怯えることなく、自分の意見や想いを発信するために必要となる要素」のことで、メンバーからの評価や人間関係のリスクを感じないチームこそ生産性が高いのだと。

 

グーグルの実験結果から、5つの「チーム成功因子」

①心理的安全性:メンバーは「他のメンバーに対して対人関係の不安」を感じない。自分の過ちを認めたり、質問したり、新しいアイデアを披露したりしても、誰も自分を馬鹿にしたり罰したりしないと確信できる。

②相互信頼:メンバーは「クオリティの高い仕事を時間内に仕上げる」という相互の信頼関係を持っており、問題が起きた時にも責任を転嫁しない。

③構造と明確さ:仕事で要求されていること、その要求を満たすためのプロセス、メンバーの行動がもたらす成果について、すべてのメンバーが理解している。

④仕事の意味:仕事そのもの、またはその成果に対して目的意識を持てる。仕事の意味は属人的なものであり、経済的な安定を得るなど、人によってさまざまであるから。

⑤インパクト:自分の仕事には、組織において、社会において意義があるとメンバーが主観的に思える。個人の仕事がどのようなインパクトをもたらしているのかを可視化する。

参考文献:『だから僕たちは、組織を変えていける』

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2023年4月 3日 (月)

活躍中の日本大学理事長・林真理子さんの近著から

ご馳走してもらう時のワイン選び方 「山梨のワイン大使をやっているので、山梨のワインをお願いします」と言うように。山梨ワインなら高くても一万円台で済み、ちゃんと故郷の山梨も立てられるから。もし山梨のワインを置いてないお店なら、「ナパバレーのワイナリーに行ってからはまっているので、カリフォルニアワイン(外国産ワインでも安い方)でお願します」とリクエスト。

宮尾登美子さんの気遣い 1983年(昭和58年)の『NHK紅白歌合戦』の審査委員を務めた時のこと。当日、審査員控室でやはり審査委員だった宮尾先生にご挨拶をしました。紫色の着物をお召しになっておられましたが、審査委員の一人だった女優さんも同じく紫色の着物であることに気づくと、宮尾先生はスーッと姿を消されました。

しばらくすると、何事もなかったかのように違う色の着物に着替えていらっしゃったそうです。色がかぶってしまう事態に備えて着物を二枚用意していらしたのです。その気配りと立ち居振る舞いを見て、「わぁ、なんて素敵なんだろう」と、若き日の林真理子理事長は、いっそう憧れの気持ちを強くしたそうです(交友関係はその後長く続く)。

WBC栗山監督の全選手との3時間の個人面談 「気遣い」につての話に触れたところで日本中、いや世界中の野球ファンの心を揺さぶった、侍ジャパンの栗山監督のことに触れておきたいと思います。一人ひとりと3時間の個人面談といっても、代表選手は30人で、故障による交代の2人を加えると32人。時間にすると面談時間だけで96時間となります。

面談は自分の都合だけで成立するものではありませんし、ときとしては海外にも足を運ばれたはず。国内でも長距離の移動もあり、どう少なく見積もっても96時間の3倍。300時間は最低でも必要だったと思われます。1日の稼働時間を10時間とすると、休みなしで丸1月を個人面談にだけ費やしたことに。想像を絶する取り組みだったはずです。

そして、研修講師として最も驚嘆させられたのは、その面談3時間のほとんどを栗山監督は聴くことに徹したことでした。今回の侍ジャパンのメンバーは若手が多く、良い成果を出すためにはチームコンセプトの共有を優先し、自らの考えを伝えることに重点が置かれてしかるべきところを、選手を知るために、自分のことを話してもらったそうです。

秋元康氏の「なぜ嫌いか」で自分が見える 【閑話休題】さて、秋元氏によると、俯瞰力は、人を謙虚にさせてくれたり、時に励ましてくれたり、物事を長い目で考えさせてくれると。そして自己愛は、バッシングされたり落ち込んだりした時に、たとえ根拠のない自信であっても自分を力づけてくれるのだと。

ちなみに秋元氏の場合、誰かからバッシングされると「なぜ、この人は自分のことを叩きたいのだろうか」と考えると、いろいろなことが見えてくる。また、氏は年に一回、自分が凄く嫌っている人とわざわざ食事をするのだと。すると、自分という人間が見えてくるそうです。その人を嫌いなのは、自分と似たところがあるせいだと気づかせてくれると。

参考文献:『成熟スイッチ』(林真理子著/講談社刊)

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