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2023年5月

2023年5月29日 (月)

新書『「みんな違って、みんないい」のか?』より

この本の著者(*)は、「正しさは人それぞれ」といって他人との関係を切り捨てるのでもなく、「真実は一つ」といって自分と異なる考えを否定するのでもなく――考え方の異なるもの同士が共に生きていくために、「正しさ」とは何か。それはどのようにして作られものなのかを、さまざまな学問を概観し考える、と表紙カバーに記しています。

526日からのTwitterシリーズのタイトルは「みんな違って、みんないい」で、第1回はアドラー心理学から「世の中に絶対的に正しい価値観は存在せず、何を大切にしたいかは個人の自由だ。そして、みんな違って、みんないい。誰に強いられることなく、自分の大切にしたいものを大切にする。だからこそみんな幸せに生きられる」を紹介。

そして第2回で金子みすゞ作「わたしと小鳥とすずと」を取り上げました。 私が両手をひろげても/お空はちっとも飛べないが/飛べる小鳥は私のやうに/地面を速くは走れない 私がからだをゆすっても/きれいな音は出ないけど/あの鳴る鈴は私のやうに/たくさんな唄は知らないよ 鈴と、小鳥と、それから私/みんなちがって、みんないい

この詩には私(速く走れる)と、小鳥(空を飛べる)と、鈴(きれいな音を出せる)が登場。それぞれに得意なこととできないこと――その違いが説明され、最後に「みんなちがって、みんないい」と結ばれます。この詩が詠まれてから100年近く経ちますが(19303月没、享年26歳)、そのみずみずしさと多様性を先取りした内容には敬服です。                               

アドラー心理学からの当該部分と、金子みすゞ作「わたしと小鳥とすずと」は、いずれも「みんな違って、それでいい」の肯定ですが、冒頭の書籍『「みんな違って、みんないい」のか?』は「人や文化によって価値観が異なり、それぞれの価値観には優劣がつけられない」という考え方を相対主義とし、別の考え方があることを提示しています。

それは普遍主義で、さまざまな問題について「客観的に正しい答えがある」という立場をとるものです。この場合のよくある答えは、「科学的に判断すべきだ」ということです。科学は「客観的に正しい答え」を教えてくれると多くの人は考えています。探偵マンガの主人公風に言えば、「真実は一つ!」という考え方といってもよいかもしれません。

前出著者は、最近、「正しさは人それぞれ」と並んで、「どんなことでも感じ方しだい」とか、「心を傷つけてはいけない」といった感情尊重の風潮も広まっています。しかし、学び成長するとは、今の自分を否定して、今の自分ではないものになるということです。これは大変に苦しい、ときに心の傷つく作業です、と語っておられます。

参考文献:新書『「みんな違って、みんないい」のか?』(*山口裕之〈徳島大学総合科学部教授〉著/筑摩書房刊/

『「コーチング脳」のつくり方』(宮越大樹著/ぱる出版刊)

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2023年5月21日 (日)

「変わりたいのに変われない」のジレンマに向き合う

「ニ―バーの祈り」は、アメリカの神学者「ラインホールド・ニーバー」が1943年にマサチューセッツ州西部の山村の小さな教会でのお説教したときの祈りとされています。「平静の祈り」、「静穏の祈り」とも呼ばれ、第二次世界大戦中に兵士たちに広まり、その後、世界中で広く知られるようになりました。その全貌(大木英夫氏訳)は以下の通りです。

 

神よ、変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。

変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。

そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、

識別する知恵を与えたまえ。

 

「変えることのできるものを変える勇気」とは

「他人と過去は変えられない」との考えに沿えば、「自分と未来」は変えられる可能性があるでしょう。しかし、アナトール・フランスによれば「変化はそれが周囲から祝福される性格のものであっても苦痛を伴う」ようですから、変えるのには勇気がいるのですね。 

                

「変えられないものを受けいれる冷静さ」とは

「風水盆に返らず」の故事もありますが、世の中には自分の力や努力だけでは変えられないものもあります。そうした事柄にいつまでも執着しない冷静さが大事なのでしょう。

 

「変えることのできるものとできないものを識別する知恵」とは

キルケゴールの著作に『あれかこれか』がありますが、単純な二者択一も哲学者のテーマになるのですね。識別する知恵を身につけるのが人生の目的のひとつなのかも。

 

さて、Twitterにシリーズで「変わりたいのに変われない」をツイートしましたが、その1回目に変える勇気の好事例として、数年前の世界的ベストセラー『嫌われる勇気』を取り上げました。この本は、企画書上では『なぜ、あなたは変わりたいのに変われないのか』がタイトル案だったそうです。それが出版直前で『嫌われる勇気』となりました。

「嫌われる」と「勇気」という普通、組み合わされることのない単語を組み合わせることで、化学反応が生み出されている素晴らしいタイトルですが、決定までには「嫌われる」が刺激的過ぎて曲折があったとのこと。候補に上がったのは、『無意味な人生に意味を与えよ』『自己を啓発せよ』『劇薬の人生論』『普通であることの勇気』などだったそうです。

最後はシリーズ2回目の「守破離」です。世阿弥の『風姿花伝』出典説もありますが、ここでは千利休『茶の湯の心得』を取り上げました。守(維持):教えを守り、基本を身につけるため「型」を手本とし反復模倣。破(小変化):基本を応用し、試行錯誤しながら個性や特性の発揮を目指す。離(大変化):新しい独自の「型づくり」に取組み「新境地」を拓く。

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2023年5月14日 (日)

「楽観」と「悲観」が人生に及ぼす影響について

心理学者のマーティン・セリグマンは、2年間にわたりメットライフ生命保険に採用された15千人以上の新人外交員の営業成績を追跡調査した。楽観度と実際の販売実績を比較したところ、楽観度の高い外交員の売上は、悲観的と判定された外交員の売上を37%上回っていた。さらに、楽観と悲観の上位10%の比較では楽観派が88%も上回った。

セリグマンの別の研究によると、説明スタンスを悲観的なものから楽観的なものに変えるだけで、気分が楽になり、グリッド(やり抜く力)が増すという。このことは個人ばかりでなく、集団にも当てはまる。彼はメジャーリーグの野球チームに関する新聞記事を分析し、ある年の監督の談話(楽観と悲観の比)から、翌年のチーム成績を予測できたと。

では、私たちが日常接する人がどちらのタイプかを見極めるにはどうすればよいでしょうか? 私が研修で実演するのは、水の入ったペットボトルとコップを用意し、演壇の上でコップに半分水を注ぎます。そして、受講生に尋ねるのです。このコップには「半分しか水が入っていない」と思うか、それとも「まだ半分残っている」と思いますかと。

実は、これは劇作家のバーナード・ショーの受け売りです。彼は、ある討論会で次のように発言しました。「さて、二人の前に、ウィスキーが半分入ったボトルを置くとしましょう。楽観主義者は『なんて嬉しいんだろう! まだ半分も入っている』と喜びの声をあげますが、悲観論者のほうは『残念だなあ! もう半分しか残っていないよ』とつぶやくと。

最後は京セラ創業者・稲盛和夫氏の言葉から。氏は「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」という姿勢を示していらっしゃいます。新しいことを成し遂げるには、まず「こうありたい」という夢と希望をもって、超楽観的に目標を設定することが何より大切です。そして、「必ずできる」と自らに言い聞かせ、自らを奮い立たせるのです」と。

「しかし、計画の段階では、『何としてもやり遂げなければならない』という強い意志をもって悲観的に構想を見つめ直し、起こりうるすべての問題を想定して対応策を慎重に考え尽くさなければなりません。そうして実行段階においては、『必ずできる』という自信をもって、楽観的に明るく堂々と実行して行くのです」と。

「昨日よりは今日、今日よりは明日、と次から次へと新しいことを考えていく。つまり、常に創造的なことを考えるということが、私(稲盛和夫氏)の習い性になっています。そのおかげで、私は新しい技術を次々と生み出してこられたのだと思いますし、京セラも今日のような大企業に成長してこられたのだと信じています」と。

参考文献:『プレッシャーなんてこわくない』(ヘンリー・ウェイジンガー&J・P・ポーリウ=フライ共著/早川書房刊)

『あなたは人にどう見られているか』(松本聡子著/文藝春秋社刊)

『京セラフィロソフィ』(稲森和夫著/サンマーク出版刊)

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