「雨」と「傘」をテーマとした経営に関する話題から
あるとき、新聞記者から「発展の秘訣はなんですか?」と聞かれた松下幸之助氏は、逆にその記者に「雨が降ったらどうされますか」と質問すると、「傘をさします」という答えが返ってきました。そこで松下氏は「人間も自然のなかで生きている限り、天然自然の理に従った生き方、行動をとらなければなりません。それは…
「別にむずかしいことではない。言いかえると、雨が降れば傘をさすということです。雨が降ったら傘をさすのは当たり前の感覚だろう。ビジネスにおいてもそれは同じで、当たり前の考えを実践していけば、商売はうまくいくということ」と語られたそうです。それに付け加えて「とはいえ、この〝当たり前〟を見つけることが難しいのだが…」とも。
その松下氏には「水道哲学」という有名な思想もありました。それは、「水道の水のように安価ですぐに手に入るものは、生産量や供給量が豊富であるという考えから、商品を大量に生産・供給することで価格を下げ、人々が水道の水のように容易に商品を手に入れられる社会を目指す」というものでした。SDGSをかなり先取りした考え方ですね。
この松下氏の雨傘問答を理論的に纏めたものが、世界的大手コンサルティング企業のマッキンゼーで用いられる「空・雨・傘」ツールといえるかもしれません。問題の解決策を考える時に効果を発揮するといわれており、ここに挙げられた「空、雨、傘」は、ある事実から解釈を行い、解決策を導く流れを表します。具体的には次のようになります。
空とは「現状はどうなっているか」というファクト(事実)、
雨とは「その現状が何を意味するのか」という意味合い、
そして、傘は「その意味合いから何をするのか」という解決策である打ち手を意味する。
現状・意味合い・打ち手をベースに思考することが大切だという思考法です。
少し噛み砕くと、空が曇っているという事実を把握すると、雨が降るかどうかの解釈を思考し、傘をもっていくかどうかの妥当性が判断しやすくなります。空(事実)と雨(解釈)の関連性にたどり着けないと解決策を導き出せません。それは”曇っている”という事実なのか、”雨が降りそう”という解釈なのかをしっかり関連づける考え方なのです。
「雨模様」は「雨が降りそうな様子」を表わす言葉なので、「念のために傘を持って行った方がいい」と続きます。ところが近年、「雨が降っている様子」という意味で使われることが多くなり、本来の意味で使った人と意思疎通がうまくいかなくなるケースがあるようです。これはマッキンゼーの雨(解釈)に共通するテーマかもしれません。
参考文献:『人との出会いの上手い人下手な人』(斎藤茂太著/新講社刊)
『経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』(松下幸之助著/PHP研究所刊)
『マッキンゼー流入社1年目の問題解決の教科書』(大嶋祥誉著/ソフトバンククリエイティブ刊)
『間違えやすい日本語』(前田安正著/すばる舎刊)
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