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2023年6月

2023年6月19日 (月)

「雨」と「傘」をテーマとした経営に関する話題から

あるとき、新聞記者から「発展の秘訣はなんですか?」と聞かれた松下幸之助氏は、逆にその記者に「雨が降ったらどうされますか」と質問すると、「傘をさします」という答えが返ってきました。そこで松下氏は「人間も自然のなかで生きている限り、天然自然の理に従った生き方、行動をとらなければなりません。それは…

「別にむずかしいことではない。言いかえると、雨が降れば傘をさすということです。雨が降ったら傘をさすのは当たり前の感覚だろう。ビジネスにおいてもそれは同じで、当たり前の考えを実践していけば、商売はうまくいくということ」と語られたそうです。それに付け加えて「とはいえ、この〝当たり前〟を見つけることが難しいのだが…」とも。

その松下氏には「水道哲学」という有名な思想もありました。それは、「水道の水のように安価ですぐに手に入るものは、生産量や供給量が豊富であるという考えから、商品を大量に生産・供給することで価格を下げ、人々が水道の水のように容易に商品を手に入れられる社会を目指す」というものでした。SDGSをかなり先取りした考え方ですね。

この松下氏の雨傘問答を理論的に纏めたものが、世界的大手コンサルティング企業のマッキンゼーで用いられる「空・雨・傘」ツールといえるかもしれません。問題の解決策を考える時に効果を発揮するといわれており、ここに挙げられた「空、雨、傘」は、ある事実から解釈を行い、解決策を導く流れを表します。具体的には次のようになります。

空とは「現状はどうなっているか」というファクト(事実)、

雨とは「その現状が何を意味するのか」という意味合い、

そして、傘は「その意味合いから何をするのか」という解決策である打ち手を意味する。

現状・意味合い・打ち手をベースに思考することが大切だという思考法です。

少し噛み砕くと、空が曇っているという事実を把握すると、雨が降るかどうかの解釈を思考し、傘をもっていくかどうかの妥当性が判断しやすくなります。空(事実)と雨(解釈)の関連性にたどり着けないと解決策を導き出せません。それは”曇っている”という事実なのか、”雨が降りそう”という解釈なのかをしっかり関連づける考え方なのです。

「雨模様」は「雨が降りそうな様子」を表わす言葉なので、「念のために傘を持って行った方がいい」と続きます。ところが近年、「雨が降っている様子」という意味で使われることが多くなり、本来の意味で使った人と意思疎通がうまくいかなくなるケースがあるようです。これはマッキンゼーの雨(解釈)に共通するテーマかもしれません。

参考文献:『人との出会いの上手い人下手な人』(斎藤茂太著/新講社刊)

『経営のコツここなりと気づいた価値は百万両』(松下幸之助著/PHP研究所刊)

『マッキンゼー流入社1年目の問題解決の教科書』(大嶋祥誉著/ソフトバンククリエイティブ刊)

『間違えやすい日本語』(前田安正著/すばる舎刊)

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2023年6月12日 (月)

超合理的天才夫婦の脳、騙されやすい脳、不可解な脳

マリーとピエール・キュウリ―が結婚した時の逸話はよく語られています。経済力のなかった二人は、 結婚式のドレスを極力地味なものにして、式で一度きり着るのではなく、実験室にも着ていくことができる実用的なものにしました。新婚旅行は祝儀で購入した自転車で出掛け、旅行から帰るとマリーは真っ先に家計簿を購入しました。

合理的な科学者らしい選択だといえますが、これを美談として、マリーを家庭的な良妻賢母でもあった、と彼女を持ち上げるのはいかがなものだろうかと、『脳の闇』の著者は書いています。仕事も一流、家庭人としても一流、そしてノーベル賞を受賞した娘イレーヌ・キュリーを育てた母としても一流で、これは誰にでも真似できるものではない、と。

脳は「騙されやすい」らしい!? NY市立大学パルーム校研究グループの実験グループが面白い実験を行いました。実験の場はマクドナルドの模擬店舗です。研究グループは2種類のメニューリストを用意しました。一方にはサラダなど、健康を連想させるメニューが載っていて、もう一方には載っていません。客として現れた被験者には、その2種類のメニューのいずれかが渡されます。

その結果、サラダが掲載されたメニューリストを受け取った客は、そうでない客よりも、明らかに最も太りそうなメニュー(ビッグマック)を選ぶ人が約50%まで増加(通常は約10%)しました。サラダを買うわけでもないのに、ヘルシーさを演出する食べ物がリストに載っていただけで、無意識に最もカロリーの高いメニューを購入してしまうのです。

脳科学者を感心させた信号待ち姿勢 フランスの大学が、25歳の男性の服装をスーツ、キレイなTシャツ、穴の開いた汚れたTシャツに着替えさせ、赤信号を無視するマナー違反に人はどう追随するかの実験をしました。結果は、スーツにネクタイ姿につられて渡ったのは信号待ちの人のうち55%。そしてキレイなTシャツだと18%、穴の開いた汚れたTシャツだと9%でした。                                                              

人はこのように状況に左右されるところがありますが、今回の参考文献(脳科学者・中野信子著『脳の闇』新潮社刊)には、どのような状況下でも、信念をもって信号待ちをする女性の話が登場します。彼女は、ほとんど人や車の通らない道路でも、決して信号を無視せず、ルールを守って、横断歩道の前で待ち続けるのだそうです。

気になって、この人が信号を守る理由を、なぜですか? と聞いてみると、予想外の返事が返ってきました。「自分は、ズレを楽しむために、わざわざ赤信号に従っている」というのです。「信号が青になるまでの数十秒の間、そのわずかな時間のズレによって起きるかもしれない運命のいたずらを楽しんでいる」のだと。

この信念で信号待ちをする人のことは、著者の中野さんがたまたまネットで見かけたそうです。マスコミ露出度の高い超売れっ子の脳科学者の中野さんは「なんという楽しみ方だろう」と、感心したと書いています。そして、何かを待つ楽しみがより増えるのではと、ご自身もぜひこの考え方を採りいれようと思われたそうです。

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2023年6月 5日 (月)

梨園に嫁した藤原紀香さんの相手に合わせた手紙術

藤原さんは2016年に歌舞伎役者の六代目片岡愛之助さんと結婚し、女優業をおこないながら夫を支える充実した日々を送っています。その梨園での奥様業のひとつに、後援者など日頃お世話になって方々からのお礼状や挨拶状へ、返信をしたためるお役目があるそうです。そのご様子が『趣味の文具箱Vol.45』に紹介されていました。

プロフィールの趣味の筆頭に「書」とあり、昔から書を習う藤原さんは、毛筆の使い手でもあるそうです。そして細やかな心くばりは、「手紙の返信を書くときは、相手からいただいた手紙の筆跡に近い筆記具を選びます。そして、墨でくださった方には毛筆で、インクでくださった方には万年筆で、という風に使い分けているとのこと。

さらに驚かされるのは、その筆記具に合った線を描ける紙を選ぶのだそうです。お礼状や挨拶状には、くださった方の思いがこもっているとの考え方から、お相手の選んだものに合わせて用紙にまで気くばりする。なかなかできない配慮ですが、ご返信をいただいた方々は、人気女優さんのそうした心のこもった返信を嬉しく思わないはずはありません。

兵庫で生まれ育った藤原さんは神戸への想いもひとしおで、神戸の印刷会社・大和出版印刷が展開するステーショナリーブランド・神戸派計画のダイアリーやノートを長年愛用しているとのこと。「グラフィーロの紙質が素晴らしくて。万年筆でぬらぬらと快適に書けますし、インクの色も綺麗に出るところが嬉しいです」と。

本稿の最後は、「SNSの時代にあえて『手紙』の話」のTwitterシリーズ②で書いたことを簡単に取り上げます。①は向田邦子さんの「どんなにみっともない悪筆悪文の手紙でも、書かないよりはいい」でした。向田さんは書かなくてはいけない時に書かないのは、目に見えない大きな借金を作っているのと同じなのである」と書かれています。

②はタピオ(店名は靴下屋)の創業者・越智直正氏が修行時代の苦難を訴えた手紙に、お兄様が返した不思議な手紙につてです。その手紙には、たった二行「山より大きな猪はいない 海より大きな鯨はいない」と。越智氏は、当初、兄は何か勘違いをしたのでは…と思いますが、それが兄から弟への、愛情のこもった戒め(いましめ)であることに気がつきます。

いくらガタガタ泣き言を書き連ねても、実際はお前が言うほどのことはない。黙って自分に与えられた職務をまっとうしなさい。そうすれば、いずれ自分の道を切り開くことができるだろう。それまで頑張りなさい、とお兄さんが諭してくれていることに気付いたのでした。この兄にしてこの弟ありですね。豊富な品揃え、リーズナブルな靴下にも感謝です。

参考文献:『趣味の文具箱Vol.45』(枻出版社刊)

11話 読めば心が熱くなる 365人の 仕事の教科書』(致知出版社刊)

『折れない言葉Ⅱ』(五木寛之著/毎日新聞社刊)『少しぐらいの嘘は大目に――向田邦子の言葉』より

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