「狐型」と「針鼠型」で政治予測・人物をタイプ分け
ペンシルバニア大学心理学教授のフィリップ・テトロックは、専門家による政治予測の正確性やそれを決める要因に関する研究を始めます。そして284人の専門家による2万8千近い予測を分析した結果は、「チンバンジーが投げるダーツ(ほとんど当たらないことの比喩)」と変わらないものでした。これは、わが国の選挙予想にも当てはまりそうですね。
ただし、その中でも成績が悪いのは「思考信条」を中心に物事を考えるグループであり、直面する問題に応じて分析ツールを変える現実的なグループは、よりよい成績を残すことができました。テトロックは前者をハリネズミ、後者をキツネに喩え、ハリネズミが持つ「ゆずれない信条」は予測にとって不利に働くと結論づけました。
イギリスの歴史学者アイザー・バーリンは『ハリネズミと狐』を書き、トルストイの『戦争と平和』における歴史哲学を論じました。その冒頭でギリシャン詩人アルキロコスの詩にある「狐はたくさんのことを知っているが、ハリネズミはでかいことを一つだけ知っている」を引用し、知識人や芸術家をハリネズミとキツネに例えて分類しています。
アイザイア・バーリンの表現を借りて、前出のフィリップ・テトロックは専門家をハリネズミとキツネに分類しました。ハリネズミは一つの大きな事項について知っており、その視点からすべてを説明しようとする。キツネは多くの事項を少しずつ知る傾向があり、複雑な一つの問題にとらわれていないのだと。
テトロックによれば、キツネの予測はハリネズミよりも当たるという結論でした。キツネは、多様な情報源をつなぎ合わせることで意思決定する。ハリネズミは時に正しく、思わぬ当たりをすることもあるのだが、長期で見たらキツネの予測にはかなわない。多くの重要な決定事項については、個人及び集合的なレベルでの多様性が鍵となる、と。
アイザー・バーリンは『ハリネズミと狐』で、知識人や芸術家を分類しています。
プラトン、ダンテ、パスカル、ドフトエフスキー、プルーストはハリネズミ族。
アリストテレス、シェークスピア、エラスムス、ゲーテ、バルザックはキツネ族としました(トルストイは、本来はキツネであるが、自分はハリネズミであると信じていたと)。
プリンストン大学のマービン・ブレスラー教授によると、偉人は皆、針鼠なのだと。
フロイトは無意識の世界に、ダーウィンは自然選択に、マルクスは階級闘争に、アインシュタインは相対性原理に、アダム・スミスは分業に、それぞれ関心を集中させている。いずれも針鼠なのだ。複雑な世界について考え抜き、単純化してとらえている、と。
参考文献:『世界を支配する運と偶然の謎』植村修一著/日本経済新聞出版社刊
『まさか』マイケル・J・モーブッサン著/ダイヤモンド社刊
『ビジョナリーカンパニー2』ジェームズ・C・コリンズ著/日経BP社刊
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