日欧の「香り」に対する感性の違いと「香り」の効用
日本におけるお香の歴史では、次のようなことが知られています。595年、淡路島に漂着した香木「沈香(じんこう)」が、聖徳太子に献上されたと伝えられます。また、仏教伝来とともに、多数の香木が一緒に渡来しました。なかでも天下第一の名香とうたわれるのは、現在も正倉院に所蔵されている国宝、蘭奢待(らんじゃたい)という香木です。
754年には鑑真和上が32種類の香りの材料を日本に伝え、さらに数龍類の香木を練り合わせて焚く「薫物(たきもの)」の調合法を日本にもたらした。香りを鑑賞する「香道」は室町時代に始まり、戦国時代の織田信長は正倉院の御物「蘭奢待」の香木を切り取ったといい、徳川家康は沈香の「伽羅(きゃら)」コレクターとしても有名でした。
日本と欧米での香りの文化の相違点 国が異なると生活環境に大きな違いがあり、人間の感性にも影響を与えるようです。これを「香り」にフォーカスすると、近世の日本の都市部では公共的な衛生システムが発達していたため、悪臭を除去する習慣がありませんでした。これに対し、近世の欧米の都市部の多くでは下水の整備等が不十分だったため、悪臭を防ぐ芳香を必要としました。
民族による体臭にも同様のことがいえるでしょう。黄色人種は一般的に体臭がなく、香料・香水の必要に迫られませんでしたが、欧米人は一般的に体臭が強く、香料・香水の使用が好まれました。また、欧米人は「自分をアピールする」ために、好みの香りを身につける習慣がありますが、日本人は他人と異なる香りを身につけることをあまり好みません。
花粉症、認知症と「香り」の関係 香りは医療や介護の現場で活用されています。よく知られているのは、花粉症の症状の緩和でしょう。鼻づまりが苦しいときに、ユーカリやティートリーの精油をハンカチに一滴たらし、鼻と口を覆ってそのにおいを嗅ぐと、多くの患者さんで症状の緩和が見られることから、アレルギーを抑える薬と併用されることが増えてきています。
これとは別に、最近の研究成果では、認知症患者が植物の花や葉っぱや果実などから抽出した香りをかぐと、認知機能が改善することがわかってきたそうです。認知症患者の多くは、早い時期から嗅覚(きゅうかく)の衰えが見られます。ニューロンといわれる脳の神経細胞で、数少ない再生されるものの一つが匂いを感ずる神経だとか。
どうやら、外部からにおいの刺激を与えると、脳の衰えた部分、あるいはその周辺に働きかけるようなのです。重い症状のアルツハイマー病患者には記憶の番人といわれる脳内の海馬の委縮や神経細胞死が起こっています。ところが、こうした患者でも植物性の香りをかぐと認知機能の改善が見られました。このように、研究が盛んになってきています。
参考文献:『〈香り〉はなぜ脳に効くのか アロマセラピーと先端医療』(塩田潤二著/NHK出版刊) 『「香り」で売る! ビジネスを成功に導く香りのグランディング』(多田崇哲著/繊研新聞社刊)
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