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2023年11月

2023年11月27日 (月)

町工場の携帯向け金型が世界を制する!

株式会社インクスの創業者・山田眞次郎氏は、最新技術を駆使して、個人に依存した金型産業を自ら変革しようと思い立ち金型製造企業を創業した。最初に手掛けたのは、光造形技術の中の「三次元データから直接金型を制作する」というアイデアを、当時市場成長が予測された携帯電話に適用した。

携帯電話は小型で複雑な三次元形状をしているので、熟練技術者でも金型を制作するにはかなりの日数を要した。また切削工具では一体型の金型を制作することは難しく、通常は複数の部分に分けて貼り合わせることになる。しかしこの手法は強度の点で問題があった。また複数個の金型を同時に必要とする場合には、人手で対応することは困難だった。

山田社長はこうした問題点を見極め、金型を設計し制作するコンピューターシステムの独自開発を1995年に始めた。1996年、66歳の金型職人を雇い、熟練技術者の傍らに若者を侍らせ、わからないことは「なぜですか?」という質問させることで、徹底的に分析を進めた。「なぜそのように磨くのですか?」「しっくりさせるためさ」

すると若者は金型を借りて正確に測定し、金型のベースと部品の隙間が3ミクロンであることを発見する。この瞬間「しっくり」という感覚が3ミクロンという数値に置き換わり、IT化への階段を昇り始めることになった。このように属人的と思われていた技を一つひとつ数値化、再現性のある技術に変換する作業をなんと2年半にわたって続けた。

こうして、非熟練者でも再現できるように、金型設計・製作の工程すべてが再構築され、ついに19983月、それまで熟練工によって45日かかっていた携帯電話の金型設計・製作工程を、非熟練者でも6日(144時間で、およそ従来の6分の1)まで短縮した。山田社長はこれをさらに45時間に短縮しようと決意し、これを達成したチームに打診する。すると、「これ以上短くならない! 無理!」との回答が。この事態は、変革の本質を表している。「過去の変革チームは、新たな革新者にはなりにくい」ということ。

企業が変革を続けていく場合、この教訓を重く受け止めることが必要。どんな優秀なチームでも、自らの成功を一度否定し、新たな変革を遂行していくことは極めて困難。

そこで山田社長は「45時間」達成のために、未経験者ばかりを集めた「K2」チームを結成する。平均年齢26歳、平均勤続年数6ヵ月という文字通り素人集団。彼らは工程を見直し、6日達成の計1000工程を100工程に再定義し、全行程の因果関係を明確にして、前倒しできる工程や同時並行処理できる工程を詰めた結果、目標の「45時間」を実現した。

以上を『決定学の法則』著者・畑村洋太郎氏は「この会社は設計・製造の工程で『人間が行うこと』と『人間が内容を決定すればあとは全部機械が行うこと』を2つにハッキリと分け、人間が関わらなくて済むものは徹底的に排除し、また人間が関わっているものであってもそれに要する時間を最小化するという基本思想で、システム開発に取り組んだ」と総括。

参考文献:『セレンディピティ』(宮永博史著/詳伝社刊)

『決定学の法則』(畑村洋太郎著/文藝春秋刊)

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2023年11月23日 (木)

伝統を大事にした二代目の中村吉右衛門

歌舞伎界の大御所であり・人間国宝でもありながら、テレビの『鬼平犯科帳シリーズ』などで幅広い層から愛された二代目の中村吉右衛門さんが亡くなって、早くも2年の歳月が流れました。この間に、歌舞伎界には芳しくない話題もあるようですが、1121日の「歌舞伎座開園記念日」を期に、偉大な先達の芸道に対する姿勢を振り返ります。

「初代吉右衛門は『一生修行、毎日初日』と口癖のように唱えていたといいます。同じ役をひと月演じても、毎日初日のような気持ちで演じなさい、そのために一生修行しなさい。役者にとっては毎日のことであってもお客様にとってはその日限りなのです」と。

また、「舞台に染みついた血と汗と涙の結晶が現在の歌舞伎なんです」とも。

「芸を確立させていくのはまずは真似から入るしかありません。ただ、そこで止まったら単なる物真似で終わってしまう。真似ができたところがスタート地点」

「ある役者が練って練って作り出した芸を次の代が真似てそこでさらに練って自分らしさをつけ加えてそれが代々続いていく。常に磨かれていかなければ伝統ではない」

坂東玉三郎らしい言葉と、中村吉右衛門と共通する言葉

「美の基本は丁寧でなければなりません。私は、力技で他人と対さないということが、日本人ならではのやわらかさだと思います」

「他人への気遣いであり、優しさであり、また所作が丁寧であることもやわらかさに繋がるのだと思います」

「見る側のために伝承がある。けっして演る側の楽しみじゃなく、いかに内容をはっきりわからせ、奥深く見せるかのための伝承を大切にしていきたいと思います」

「伝承や型を考えてみて、脚本を読んで全体の意味を知りその中で自分の役割が何を表現したらよいかを掴まなければならないんです」

世界的建築家を悩ませた新歌舞伎座 現在の歌舞伎座は五代目に当たり、世界的建築家の隈研吾氏の設計により、20134月に完成。1121日が「歌舞伎座開業記念日」なのは、1889年(明治22年)のこの日、東京・木挽町(こびきちょう)(現:東銀座)に歌舞伎座が開場したことに由来する。座席数は1824(現在は1808)で、当時から日本を代表する大劇場だった。

建築様式は、四代(登録文化財)の唐破風、欄干などの特徴的な意匠を継承し、第四代歌舞伎座を踏襲するが、一方の高層部分は日本建築の捻子連子格子をモチーフとし、ガラスで柔らかな陰影のある外装。ただ、この和洋折衷方式は計画段階から各方面で大反対を受け、関係者を大いに悩ませたが、最後は設計者の強い意志が見事な造形を実現させた。

新歌舞伎座には、劇場部分とオフィスビル(地上29階:銀座で一番高いビル)の高低差を利用し、劇場屋上には日本庭園を備えるなど憩いの場も多い。また地下2階には400坪の大広場(木挽町広場)も併設され、防災用品の備蓄倉庫が設置されている。災害時には、建物全体で帰宅困難者3,000人の受け入れを想定し、約3日分の食料も備えている。

歌舞伎役者が流行らせた 役者色 歌舞伎役者が流行の最先端だった証が色彩にも。具体例としては、「路考茶(二代目瀬川菊之丞愛用の緑みの茶色)」「團十郎茶(市川家、成田屋のシンボル色赤茶色)」「芝翫(しかん)茶(三代目中村歌右衛門愛用の赤みの茶色)」「梅幸茶(初代尾上菊五郎の俳号をつけた緑みの茶)」「璃寛茶(二代目嵐吉三郎が好んだ渋い焦茶色)」

参考資料:Web『中村吉右衛門(二代目) 珠玉の名言・格言21選』&坂東玉三郎の名言集』 

『建築家、走る』(隈研吾著/新潮社刊)

『日本の伝統色』(福田邦夫著/東京美術刊)

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2023年11月15日 (水)

医療におけるティーチングとコーチング

『超ホスピタリティ おもてなしのこころがあなたの人生を変える』(鎌田實著/PHP刊)によると、医師は患者さんを治療するとき、専門家としていろいろな方法を指導します。そのとき、具体的な方法論をティ―チするだけでは患者さんの身につきません。例えば、糖尿病の患者さんに、カロリーの計算だけ教えても挫折することが多いでしょう。

そこで大切なことは、まずその方法論が患者さんになぜ必要なのかを十分理解してもらい、動機づけを行うことです。なぜカロリー制限をしなければならないのか、なぜ運動が必要なのかを納得してもらった上で、カロリー計算や運動の仕方をコーチして覚えてもらうのです。途中で失敗しても、失敗するのが人間ですと、腕のいいコーチャーは言います。

患者と医師の相性はとても大切 鎌田實著『言葉で治療する』(朝日新聞出版刊)に、東京のある大学の糖尿病の専門外来の女医に診察を受けていた76歳の女性からの手紙が紹介されていました。

患者「月末に生活雑感をまとめて知人に送っています」

女医「あら。送られる人は迷惑しているでしょう」

患者「肺活量を高めるため、歌をうたいながら土手の上を歩いています」

女医「あら。ご近所様は迷惑ね」

患者「毎日、3キロほど泳いでいます。クロールは握りこぶしで水をかき、バタフライはビート版を足に挟んで、手のかき方も練習しています」

女医「あら。ちょっとやりすぎね。そんなに強迫観念にかられて頑張っていると、あるとき、突然、何もかもいやになって全部投げ出すようになるのよ。食事療法もみんなほっぽって、しまいには、ここがおかしくなるの」

その女医は、机の上のカルテから目を離さず、自らのこめかみを指して言った。

「笑い」は糖尿病等の病の特効薬 糖尿病に関する書籍や情報は身近にあふれ、対策はしているものの、効果があまり出ないという悩みを抱える患者が多いようですが、そんな方にお伝えしたいのが『生命のバカ力』という本に出てくる実験例です。糖尿病患者が先生の対策講義を聞いてから食事すると、ガッと血糖値が上がり、吉本興業の漫才を聞いてからだとあまり上がらなかった。

なおこの本には、「笑は自然な大笑いや微笑みだけでなく、作り笑いや思い出し笑いでも病気の治療効果がある」と書かれています。似たようなお話はアメリカにもあって、有力雑誌の編集長だったノーマン・カズンズ氏が自らの体験をもとに書いた『笑いと治癒力』(岩波書店刊)という本があります。この本はベストセラーになりました。

著者は慢性的な激痛を伴う膠原病におかされ、生存の可能性はほぼゼロという厳しい診断を受けましたが、絶望せず、あるヒントから「笑い」を唯一の治療薬とした自発的な闘病を始めました。すると、少しずつ効果があらわれ、そのうち10分間腹を抱えて笑うと激痛を少なくとも2時間は抑えられるようになりました。

そして、笑いの鎮痛効果が薄らぐと、またお笑いネタ満載の映像のスイッチを入れました。

また、カントにも「笑い」に対する解説があります。彼は『純粋理性批判』の中で、大声の笑いは「腸と横隔膜を動かすことにより体が健康であるような感覚を生み出し、病気に対する医師の的確な処方箋の役目を果たしてくれる(投稿者意訳)」と書いています。

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2023年11月 9日 (木)

身近な「鍋」に纏わる3つのエピソード

稲盛さんが創業した「京セラ」の本社や全国の主要な事業所には必ず和室があります。これらの和室は「コンパ」のために設けられたもの。コンパとは飲み会のことを指しますが、稲盛流コンパはその位置づけが異なります。多少羽目を外すことはあっても、上司や会社の陰口をたたく憂さ晴らしの場ではありません。

経営者と従業員、上司と部下、同僚同士が互いに胸襟を開き、仕事の悩みや働き方、生き方を本音で語り合う場なのです。お酒を通して一人ひとりが人間的に成長し、組織を強固な一枚岩にすることができるとの信念に基づきます。稲盛氏自身、体調を崩したら注射を打ってでも参加したといいます。夏場も冬場も鍋をつつきあって親睦を深めました。

この稲盛流コンパは京セラに限らず、氏が情熱を注いだ中小企業経営者の勉強会『盛和塾』でもまったく一緒でした。稲盛氏が好む車座の形を取ると、人数が多くても場が引き締まる。大人数の場合でも、510単位でグループに分ければ、議論が活発になるのだと。ただ、より深い議論が必要だと感じたら、経営者1人に対し13人の少人数もありとか。

「鍋」の中でアイデアが生まれるとき  アイデアと素材さえあれば、すぐに発酵するか、ビールができるのか、というと、そうではない。これをしばらくそっとしておく必要がある。〝寝させる〟のである。ここで素材と酵素の化学反応が進行する。どんなにいい素材といかに優れた酵素が揃っていても、一緒にしたらすぐアルコールになるということはあり得ない。

頭の中の醸造所で、時間をかける。あまり騒ぎ立ててはいけない。しばらく忘れるのである。〝見つめるナベは煮えない〟早く煮えないか、早く煮えないか、と絶えず鍋のふたをとっていては、いつまでたっても煮えない。あまり注意しすぎては、かえって、結果がよろしくない。しばらくは放っておく時間が必要だということを教えたものである。

中国の寓話「2つの鍋」 ある中国の老婆が大なべを2つ持っていた。老婆は毎日鍋を棒の左右に担いで近くの小川に行き、水を汲んで家に戻る。帰り着いたときには、片方の鍋には水がいっぱい入ったままなのに、もう一方の水は半分しか残っていない。じつは、その鍋はひびが入って、帰り道に水が漏れてしまうのだ。2つの鍋はこの状況に違った反応を見せた。

ひびの入っていない鍋は自分の働きぶりを誇りに思い。一方、ひびの入った鍋は惨めな気分で自分の欠点を恥じ、本来の働きの半分しかできないことをがっかりしていた。2年後、ひびの入った鍋は自分の気持ちを老婆に伝えると、あなたの鍋の側には花が咲いているけれど、もう一方の側には咲いていないことに気づいたか、と尋ねた。

老婆は、道のそちら側に花の種をまいた。老婆はひびの入った鍋に言った。「2年間、私はその美しい花を摘んで、食卓を飾ることができた。おまえにひびが入っていなかったら、花が我が家に彩りを添えることはなかっただろうよ」と。ひびの入った鍋は視野を狭めすぎて自分の欠点しか見えていなかったことに気づかされたというお話。

※参考文献:『稲盛流コンパ』(北方雅人&久保俊介著/日経BP社刊)

『思考の整理学』(外山滋比古著/筑摩書房刊)

『失敗は「そこ」からはじまる』(フランチェスカ・ジーノ著/ダイヤモンド社刊)

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2023年11月 2日 (木)

人間関係の潤滑油ともいえる挨拶の含意

挨拶言葉は単なる形式的なものではなく、それぞれ意味が込められているものだそうです。

「おはようございます」は、お早い時間からお元気ですね! と相手を励まし、自分も頑張ろう! という言葉です。「こんにちは」は、今日はご機嫌いかがですか、と相手のことを案じながらエールを送っている言葉です。

「こんばんは」は、今晩は一日無事に過ごされていい夜ですね、と平安に一日を過ごされた相手によかったですね! という気持ちと、そのことをありがたく思っている言葉です。

「おやすみなさい」は、一日の疲れを休んで癒しましょう、という気持ちでいう言葉でもあり、まだ起きている人が寝る人に対して「どうぞおやすみ」といった場合に使います。

ビジネスにふさわしくない言葉

①状況をあいまいにする言葉「もしかすると」「一応」「大体」「とりあえず」「やっぱり」「たぶん」「~っぽい」

②理屈っほく、相手に悪印象を与える言葉「つまり」「ですから」「基本的に」「原則として」「私的には」「まあ」「ちなみに」

③相手をストレートに否定する言葉{ありえない」「どうしてですか」「まさか」

④大人げない言葉「だって」「えっと」「あの~」「っていうか」「ちょっと」「やっぱり」「~じゃないですか」「でも、だけど」「~けれども」

⑤同じ言葉の連呼「ええ、ええ」「はい、はい」「まあ、まあ」

 

あなたは「大和言葉」にいくつ変換できますか?

私たちが日常話しているのは大別すれば日本語ですが、その日本語も、中国から入ってきたもの、中国以外の国々からも外来語として入ってきて、日本語になっているものも数多くあります。例えば、雨の日に羽織るカッパは、16世紀にポルトガルの宣教師が着ていたコートがルーツ。「瓦」は古代インドのサンスクリット語の「Kapala」が語源です。

このように今も昔も海外との交流から言葉は時代とともに変化しますが、その一方で、しっかりと生き続けている日本固有の言葉を「大和言葉」と分類します。「大和言葉」は、平「和語」とも称されます。日本語の乱れを言語学者が指摘しますが、その一方で「大和言葉」が日本語の品格を保ってくれているのも厳然たる事実でしょう。

「大和言葉」への変換例(太字が大和言葉)

  • どうしてもお話ししたいことがあります→折り入ってお話ししたいことがあります。
  • 余計なことを言ってすみません→差し出がましい口を利いて申し訳ございません。
  • お酒は飲めません→あいにくたしなまないもので…
  • 手伝ってもらえませんか→お力添えいただけないでしょうか。
  • お越しいただき感謝です→ようこそお運びくださいました。
  • 私の責任です→私の力がおよびませんで…。

■なお、2018122日の「木の葉ブログ」で「大和言葉」を取り上げております。

※参考文献:『相手のことを思いやる ちょっとした心くばり』(岩下宣子著/三笠書房刊)

『ビジネスマナーがかんたんにわかる本』(日本能率協会マネジメントセンター著&刊)

『日経WOMAN20168月号(1276字)

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