保守的農業に風穴を開ける「有機農業」
情報を仕入れすぎるとよくない、と言うのは科学論文を書いたことのある人ならば、よくわかるはず。読むうちに、だんだん他人のものに引っ張られてしまう。すると自分のアイデアが枯渇する。ある指導者は、「本を読んじゃいけないよ」と教え、「よくない教科書というのは、よくできすぎている教科書、説明が至れり尽くせりの教科書だ」と。
「農業は保守的だ」などとよく言われる。うっかり「最新情報」を仕入れて、やり方を変えて、収穫がなければ元も子もないから、そうそう簡単に現場は変えられない。だから保守的にならざるをえない。コメの苗植えはなるべく田んぼにぎゅうぎゅうに詰めて植えることになっている。単位面積当たりの収穫量を上げるには、そう考えるのが自然。
ところが有機農法を長いことやっている人に聞くと、「それは違う」と言う。ぎゅうぎゅうではなく、7割程度に抑えたほうが言い、と。周りからは笑われることもあるそうですが、最終的にはその方が品質も良くて、収穫量も遜色ないと言います。この人は経験則で、こういうやり方を導いたのです。
アレルギー体質の子を持ったある農家の母親の決意 山形県で農業を営んでいた森谷さんには、アレルギー体質の子どもさんがいた。この子の体質改善のため、彼女は栄養価が高く農薬の心配がない自家製玄米を食べさせようと思いつく。そして、菓子作りの初心者ながら、専門書を見ながら小麦を玄米に置き換え、試行錯誤を繰り返し玄米の粉を使ったお菓子を作りはじめた。
一方、森谷家では美味しいお米は作れるものの販売が芳しくなく、奥さんの森谷さんがHPページを利用したインターネット販売を提案し、その担当に。販売の窓口となった彼女は、注文先にお米を発送するとき、「おまけ」として季節の果物や野菜を添えて送っていたが、あるとき、この「おまけ」に試作段階の「玄米クッキー」を入れた。
すると思いの外好評で、そのうち、お客様から「玄米クッキーの」問い合わせが入るように。 その後も新メニューを開発し、品評会で賞を受賞し続ける。そして、平成19年には「玄米おからクッキー」で山形県農産加工大賞を受賞。これをきっかけに森谷さんは、NHK文化センター山形で毎月2回「玄米の焼き菓子作り」の講座を受け持つことに。
最後に、ある農家の父親の述懐 「昔、普通の農場で働いていたころは、家に帰っても子どもたちのお帰りのハグをしてもらえなかった。まずシャワーを浴び、服を洗って消毒しないといけなかったからね。今はレタス畑から子どもたちの腕の中へ飛び込める。体に有害なものがついていないからね」。これは、有機農業の専門会社の担当者が鮮明に覚えていたエピソード。
参考文献:『「自分」の壁』(養老孟司著/新潮社刊)
『東北発!女性起業家28のストーリー』(ブレインワークス/東北地域環境研究室編/カナリア書房刊)
『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』(カーマイン・ガロ著/日経BPマーケティング刊)
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