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2024年2月22日 (木)

大きく転化しつつある「歌舞伎ことば」

『知識ゼロからの歌舞伎』(松本幸四郎監修/幻冬舎2022年刊)より

「黒幕」

現代:自分は表に出ず、人を操って影響力を行使する人。

歌舞伎:背景幕として夜を表す幕のこと。また、歌舞伎では「黒は見えない」という約束事があるため、不必要なものを隠す幕のこと。「消し幕」も黒幕の一種。

※歌舞伎の「黒」は見えないという記号。この「見えない」が「怖い」から「悪」と変換され、「腹黒い人物」というマイナス面の意味を持つようになった。

「差金」

現代:陰で人を操ること。

歌舞伎:黒く塗った竹の棒の先に針金をつけ、蝶や鳥などを操る小道具のこと。

「大向こうを唸らせる」

現代:優れた技巧で、多くの人から人気を得ること。

歌舞伎:劇場の後ろのほうの値段が安い席に何度も足を運ぶ芝居通や向う桟敷(2階席)の通を感嘆させること。

『歌舞伎ことばの辞典※』(服部幸雄監修/赤坂治續執筆/講談社刊)より

「捨てぜりふ」

一般に、「別れ際にいう、相手を脅迫・軽蔑する言葉」をいう。

本来は、歌舞伎の用語で、台本に書いてないせりふを臨機応変にいうことで、現代演劇のアドリブである。歌舞伎の捨てぜりふは、退場の時にいうとは限らないし、脅迫的・軽蔑的な言葉を吐くとも限らないが、「捨て」は「言い捨てる」の意で、一方的にいうことから、「立ち去るときにいう言葉」という意に転じた。

「肚(はら)藝」

一般に「言葉や態度を表に出さないで、腹で何かを企むこと」「言動によらないで、物事を処理すること」をいう。

藝能用語の「肚(腹)藝」は3つある。①歌舞伎の用語で、「派手な科(しな)や音楽的な台詞術を用いずに、扮している人物の肚(役の性根=胸中)を表現する技術」、②仰向けに寝た人の腹の上で演じる曲藝」、③腹に顔などの絵を描いて演じる藝」

肚藝の①は、明治の九代目市川團十郎が活歴(動きの多い出し物)で用いた演技で、心理描写を重んじる一種の写実的な演技のこと。抑制して地味に演じたことから、「態度を表に現わさないこと」を意味する一般語になった。

上記2冊とは別に、『歌舞伎を楽しむ本』(主婦と生活社刊)に「御馳走」が紹介されている。

歌舞伎で「御馳走」となればな、幕間に楽しむ「幕の内弁当(俵の形をしたおにぎりに数種類のおかずが付いたお弁当)」を想起しがちだが、豈図らんや、歌舞伎の「御馳走」は、「格の高い役者が、本来はやらないような端役を演じ、観客を喜ばせること」

この「御馳走」と、上段の「大向こうを唸らせる」は、いずれも観客を喜ばせるサービス精神の発露といえそう。その反面、ネガティブ・ワードに転化した例も少なくない。「世に盗人の種は尽きまじ」は『白波五人男』、「月も朧に白魚の」は『三人吉三』、「しらざぁ言って聞かせやしょう」は『弁天小僧』。これら人気の裏家業の出し物が影響したかも…。

ネガティブ・ワードの代表格は「黒幕」であり、「捨てぜりふ」か。

「黒幕」は、舞台の不必要な部分を隠す幕のことで「見えない」の意味合いが、一般語になったときに、「怖い」から「悪い」に転化され、「腹黒い人物」の意味を持つように。

また、「捨てぜりふ」は、役者が台本にない台詞を、場の雰囲気を生かすために咄嗟にいうアドリブ的なものが、別れ際に相手を脅迫・軽蔑する言葉になってしまった。

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