アメリカを代表する3人の歴史的名演説
米国大統領で雄弁家として知られるウィルソン(第28代)の演説に関する興味深い有名なコメントがあります。あるときウィルソンが演説の心得を聞かれて、こう答えました。
「1時間の演説なら即座にできる。20分のものでは2時間の準備が必要だ。5分間のショーとスピーチだったら、一晩、思いを練らなくてはならない」と。
5分よりもっと難しい2分間の名演説
1863年の秋のこと、アメリカのゲティスバーグに、南北戦争の戦死者のための国営墓地がつくられ、その奉献式が行われた。教育家として、また雄弁家として有名なエドワード・エバレットは、その式の主賓として招待されており、そこで2時間のわたる素晴らしい演説をおこなった。それに続いたリンカーンの演説は、たったの2分間。
「87年前、われわれの父祖たちは、自由の精神に育まれ、すべての人は平等につくられているという信条にささげられた、新しい国家を、この大陸に打ち建てた」と語り出し、そして、「この国家をして、神のもとに、新しく自由の誕生をなさしめるため、そして人民の、人民による、人民のための、政治を地上から絶滅させないため」に、戦死者が残した未完の大事業を受け継ぐという言葉で結ばれた(『リンカーン演説集』)。
今日まで、アメリカ合衆国の建国の理念を語るものとして、また民主主義のもっとも簡潔な定義を明らかにしたものとして、不朽の価値を持つ演説といわれる。リンカーンの演説の方が歴史に残ったのは、私たちが簡潔な話の方を好むという証拠でもあるかもしれない。2時間より、2分の話の方が遥かに難易度は高いが、私たちの耳には、ありがたいのだ。
僅か115文字の中に8回「アメリカ」を織り込んだオバマ氏
2004年7月、ボストンの民主党全国大会の基調演説で、彼は終盤にこう語りかけた。「私は今夜、彼らにこう言います。リベラルのアメリカも保守のアメリカもない。あるのはただひとつ、アメリカ合衆国なのだ、と。黒人のアメリカも白人のアメリカもラテン系のアメリカもアジア系のアメリカもない。あるのはアメリカ合衆国だけなのです」と。
キング牧師の演説「わたしには夢がある」
1963年8月28日に、公民権運動のリーダー的な存在となっていたキング牧師は、奴隷解放百周年を記念したワシントン大行進というイベントを実施します。前日の夜遅くには全国から人々が続々とワシントンDCを目指してやってきました。最終的には主催者側の想定10万人をはるかに超える25万人(うち6万は白人)もの大群衆になりました。
「私には夢がある。いつの日か、ジョージアの赤い丘でかつての奴隷の息子と、かつての奴隷所有者の息子が、兄弟のように同じテーブルを囲む日が来るという夢が」
「私には夢がある。不正と抑圧の熱波でうだるように熱いミシシッピ州でさえも、いつの日か、自由と正義のオアシスに変貌するという夢が」
「私には夢がある。いつの日か、私の幼い4人の子供たちが、肌の色ではなく中身によって判断される国に生きるという夢が」
※参考文献:『左遷の哲学』(伊藤肇著/産業能率大学出版部刊)
『人は「暗示で」9割動く!』(内藤誼人著/すばる舎刊)
『あの演説はなぜ人を動かしたのか』(川上徹也著/PHP研究所刊)
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