落語&吉本喜劇による病的痛み緩和効果
『生命のバカ力 *1』によると、遺伝子のON・OFF機能をうまく活用するには、それなりの要因が必要です。例えば、末期がんを宣告された人達がモンブラン登頂に挑戦したところ、免疫力が上昇したという実例がありあす。また、がん患者に落語を聴かせ、大いに笑ってもらったあとで免疫力を測定したら、向上していたという臨床報告もあります。
第一の事例:日本医大の吉野教授の実験
1995年3月、日本医大の吉野教授は水道橋にあった日本医大病院に落語家の林家木久蔵師匠を招き、中程度から重症の26人(43~66歳迄平均57・7歳)の女性リュウマチ患者さんたちに落語を1時間聞いてもらい、その前後に血液を採取して調べてみた。比較対象のため健康な女性31人(31~74歳迄平均51・5歳)にも参加してもらった。
その結果、痛みの程度をVAS(ビジュアル・アナログ・スケール=10センチの物差しを使って、想像できる最高の痛みを10として、いまの痛みはどのあたりかを指し示してもらう方法)を使って調べた結果、落語を聞く前と後では、わずか一時間笑っただけで全員が痛みが楽になり、3週間もその効果が続いた人もいたそうである。
血液データとしては、炎症の悪化のカギとなる物質で免疫にも関係する生理活性物質「インターロイキン6」と「インターフェロン」が独演会の後では顕著に減っていることがわかった。特にインターロイキン6の減少は26人中22人に見られた。中にはその値が健康な人の10倍以上あったのに、正常範囲まで改善した患者さんもいた。
第二の事例:岡山県倉敷市の柴田病院の伊丹仁朗先生による実験
1991年、笑ったあとで血液中の免疫力がどう変化するかの実験。がんや心臓病の人を含む男女19人(20~62歳)に吉本新喜劇を見せ、その前後に採血し、3時間の笑いの効果を調べた。がん細胞を食いちぎってやっつけてしまうナチュラル・キラー(NK)細胞の元気度は、笑う前に低過ぎた人はすべて正常まで改善し、高すぎた人も正常範囲に戻った。
大笑いは心理的な効果だけでなく、短時間に免疫力を正常化させる効果があることがわかった。注射で免疫力を活性化するには3日もかかるが、笑うことは、とても速効性があるのである。1年後、がん患者さんばかり20人で実験を追試してみたが、やはり同じ効果が出た。この実験結果は日本心身医学学会総会で発表され、最優秀論文の栄誉に輝いた。
米国のジャーナリストの事例
1964年、50歳のときに、外国旅行から帰国した直後、突然、膠原病(強直性脊椎炎)という難病に襲われ、医師から、全快のチャンスは500分の1と言われました。このとき彼は、「医者に見放されて、もうダメだ」と思うのではなく、こう考えたと言います。「何もかも、医師に任せ切ったのではダメだ。自分でも、何とかしなくては…」と。
そして、彼は10分間腹を抱えて笑うと、少なくとも2時間は痛みを感ぜずに眠れるという笑いの効用に気づき、病室にユーモアあふれるコミック、映画やテレビ番組のビデオなどを大量に持ち込み、それを見ては意識的に大声で笑うようにしました。こうした取り組みが血液中の血沈を低下させるなどの効果に繋がり、やがて職場に復帰できるまで回復した。
※参考資料:*1『生命のバカ力』(村上和雄著/講談社刊)
『笑いの研究』(井上宏&織田正吉&昇幹夫共著/日本実業出版刊)
『笑いと治癒力』(ノーマン・カズンズ著/岩波書店刊)
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