署名作家たちは限りなく猫を愛していた
夏目漱石の「猫の死亡通知」
『作家と猫』(平凡社刊)に掲載された葉書の「死亡通知」をそのまま転載。
「辱知猫儀久々病気の処、療養不相叶、昨夜いつの間にかうらの物置のへっつい(竈)の上にて逝去致候。埋葬の儀は車屋をたのみ箱詰めにて裏の庭先にて執行仕候。但主人『三四郎』執筆中につき、御会葬には及び不申候。以上 九月十四日」
前記出典の(編集部注)によると、掲載された「猫の死亡通知」は、漱石の門下生で、ドイツ文学の小宮豊隆氏(著書『夏目漱石』で芸術院賞を受賞)に宛て1908年に送られた葉書の文面による。文中に登場する「猫」は小説『吾輩は猫である』のモデルとなった猫とされ、小宮豊隆氏は、漱石の小説『三四郎』 の主人公のモデルであるとも言われている。
向田邦子さんの愛猫紹介
マハシャイ・マミオ殿
偏食・好色・内弁慶・小心・テレ屋・甘ったれ・新しいもの好き・体裁屋・嘘つき・凝り性・怠け者・女房自慢・癇癪持ち・自信過剰・健忘症・医者嫌い・風呂嫌い・尊大・気まぐれ・オッチョコチョイ……。
きりがないので止めますが、貴男は誠に男の中の男であります。
私はそこに惚れているのです。
内田百閒の「迷い猫広告」
『作家と猫』(平凡社刊)に掲載された葉書の「死亡通知」をそのまま転載。
「三たび」迷い猫について皆様にお願ひ申します
家の猫がどこかに迷ってまだ帰ってきませんが、その猫はシャム猫でも、ペルシャ猫でも、アンゴラ猫でもなく、極く普通のそこいらへんにどこにでもいる平凡な駄猫です。
しかし戻って来なければ困るのでありまして、往来で自転車に轢かれたり、よその橋の下で死んでいたり、猫捕りにつれていかれたり、そう云うこともないとは申されませんが、すでにいちいち考えて見て、或いは調べられる限りは調べて、そんな事はまずないと思うのです。
つまり、どこかのお宅で、迷い猫として飼われているか、又は、あまり外へ出た事がない若猫なので、家に帰る道がわからなくなって、迷っているかと思われるのです。
どうか似たような猫をお見かけになった方はご一報ください。お願い申します。
大変失礼なことを申すようですが、猫が無事に戻りましたら、心ばかりの御礼として三千円を呈上いたしたく存じます。
その猫の目じるし
1雄猫、2背は薄赤の虎ブチで白い毛が多い、3腹部は純白、4大ぶり、一貫目以上もあったが痩せているかもしれない、5顔や目つきがやさしい、6眼は青くない、7ひげが長い、8生後一年半余り、9ノラと呼べば返事をする。電話番号
(編集部注)溺愛していた飼い猫「ノラ」が1957年3月に失踪し、悲嘆に暮れていた百閒は『朝日新聞』に迷い猫の広告を出す。その後は約2週間ごとに五種類のチラシを印刷、百閒の住む麹町界隈で新聞の折り込み広告として配られた。広告で百閒はノラの目撃情報を募るとともに、「その猫の目じるし」として愛猫の特徴を列記している。
※参考文献:『作家と猫』(平凡社刊) 参考までに「章立て」を記すと
Ⅰ 猫、この不可思議な生き物 「猫の定義」ほか9名の作家が登場
Ⅱ 猫ほど見惚れるものはない 向田氏「マハシャイ・マミオ殿」含め10名の作家が登場
Ⅲ いっしょに暮らす日々 12名の作家が登場
Ⅳ 猫への反省文 5名の作家が登場
Ⅴ 猫がいない 内田百閒「迷い猫の広告、漱石「猫の死亡通知」含め8名の作家が登場
Ⅵ 猫的生き方のススメ 5名の作家が登場
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