世界古典文学最高峰『源氏物語』の評価
『ウェイリー版 源氏物語』
アーサー・ウェイリーによる英訳『源氏物語』(『ザ・テイル・オブ・ゲンジ』)は、1925年に刊行が始まった。九年の歳月を掛け、第六巻で完結。この長大な物語に世界文学としての場所を与え、いまも影響をもたらし続けているウェイリー訳を、日本語に戻し訳(毬矢まりえ・森山恵共訳・全四巻/左右社刊)した作品はどのような位置づけがなされるか。
1925年出版時の評価(1)
■ヴァージニア・ウルフ(『ダロウェイ夫人』の出版年と重なる)が1925年7月刊のイギリス『ヴォーグ』誌の書評で、ウェイリー訳『源氏物語』を絶賛した。 ■ここにあるのは天才の作品である(モーニング・ポスト紙) ■ヨーロッパの小説がその誕生から300年にわたって徐々に得てきた特性のすべてが、すでにそこにあった(ザ・ネイション誌)
評価(2)「戻し訳」の訳者あとがきより
フランスの小説家マルグリット・ユルスナ―は「自分の一番愛する小説家はムラサキシキブであり、彼女を深く尊敬し、敬愛している」とインタヴューで述べている。様々な社会の階層を描き分け、恋愛、人間のドラマを余人には真似できない方法で表現するという素晴らしい才能の持ち主で、彼女は中世日本におけるマルセル・プルーストである、と。
日米の専門家をも魅了
評判となっていた『ウェイリー版 源氏物語』を読み、絶賛したドナルド・キーン(米国出身の日本文化研究の第一人者で日本文学の世界的権威)は、この本との出会いが生涯を決めたと。文学者・正宗白鳥(明治から昭和にかけて活躍の小説家、劇作家。代表作に『文壇人物評論』)は『ウェイリー版』を読み、「はじめて源氏物語の面白さが分かった」と。
『ウェイリー版 源氏物語』の特徴と置き換え例
ウェイリー訳の特徴は「複雑な敬語をなくす」「主語の明確化」「言葉の置き換え」
置き換え例:「帝→エンペラー」「更衣→ワードローブのレディ(帝の衣装の世話をする)」「女御→ベッドチェンバーのレディ(帝の寝所の世話をする)」「御簾→カーテン」「琵琶→リュート」「前栽→コテッジの前庭」「修験者→エクソシスト」「物の怪→エイリアン」
以上を踏まえた「戻し訳」具体例
原文:いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひ給ひける中に、いとやんごとなき際にはあらぬが、すぐれてときめき給ふ有りけり。
ウェイリー訳→戻し訳:いつの時代のことでしたか、あるエンペラーの宮廷での物語でございます。ワードローブのレディ(更衣)、ベッドチェンバーのレディ(女御)など、後宮にはそれはそれは数多くの女性が仕えておりました。
安田登(能役者)の『源氏物語ごっこ』
カルチャーセンターの古典講座でも『源氏物語』が群を抜いての一番人気。しかし一方、「源氏物語」というタイトルすら聞きたくない方も多いと思います。世に源氏好きの方がたくさんいらっしゃるのと同じくらい、いや、それ以上に源氏嫌いな人たち。もう一方は学校の古文の授業で嫌いになった人たち。「敬語から主語を推測する」ことが難題だった、と。
※参考媒体:NHK Eテレ「100分de名著」『源氏物語 A・ウェイリー版』特集放送!
https://book.asahi.com/article/11578498
https://shuchi.php.co.jp/article/10349?p=1
https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/24700/
参考文献:『源氏物語 A・ウェイリー版』(毬矢まりえ&森山恵共訳・全四巻/左右社刊)
『野の古典』(安田登著/紀伊国屋書店刊)
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