ホスピタリティ・CS研修

2024年3月27日 (水)

身近にある店員さん達のホスピタリティ

ホスピタリティは高級ホテル・高級品取扱店舗・医療機関などの専売特許ではありません。今回紹介するのは、行きずりの客が、たまたま訪れた「空港の和食店」、「街のお蕎麦屋さん」、「病院近くのファストフード店」で受けたステキな対応についてです。どれも心温まるお話で、日本人が本来持っていた接客のスタンスが色濃く表れた例だと思います。

高知空港施設内の和食店での「弔いのホスピタリティ」

妻を亡くした元校長から高知の日本料理店へ感謝状が届きました。彼は四国巡礼を終え、高知空港で待ち時間にそのお店に入り、ビール1本と高知名物のかますの姿鮨一人前を注文しました。加えて「申し訳ありませんがグラス2つで」と。注文を受けた若いウエイトレスは、どうしてグラスが2つ必要なのだろうと不思議に思いながら指示に従います。

まずビールとグラスを2つ出しましたが、グラスのことがどうしても気になったので席に目を向けます。すると客は、女性の写真をテーブルの中央に置き、その前のグラスにビールを注ぎました。続いて手にしていたグラスにビールを入れ、乾杯をしました。そこで彼女は

お鮨が出来上がって運ぶときに箸と箸置きを二組、小皿を二枚持って行きました。

元校長の手紙には、次のように書かれていました。「四国への旅は、家内の写真と一緒に出かけ、食事には一緒にビールを飲みました。しかし、お箸と小皿を2人分出して頂いたのは、            おたくの店が初めてでした。驚きました。感動で体が震えました。帰りの飛行機の中では、涙が止まりませんでした。ほんとうにありがとうございました」と。

たかが、お水。されど、お水。心憎い気遣いに脱帽

持病があって、旅先でも薬が手放せない人が、東京の神楽坂に友人を訪ねた時のことです。夕食に、「おいしそうなそば屋さんがある」と連れていかれました。食後、いつものように薬袋を取り出します。お水をお願いするのも面倒なので、今日はお茶で飲もうか、それともそば湯で・・・などと考えつつ錠剤を1回分手にした瞬間のことでした。

目の前にコップが置かれたのです。多分、お店の経営者の奥様なのでしょう、彼女は私の様子を見ていて、頼んでもいなのに気を利かせてくれたのでした。うれしいことに、氷が入っていません。「ありがとう!」と言いました。そして、口に含んでから、さらに驚きました。ほんのり温かいではありませんか! なんと、それは「白湯(さゆ)」だったのです。

若い女店員の心憎いばかりの思い遣り

店には、女性の店員が一人でした。朝のメニューにはテリヤキバーガーがないので躊躇していると、彼女は注文を聞き、「少しお時間をいただければ…」と言ってすぐに準備を始めました。その時、入院中の子供に持っていくことを話しました。このような店には、マニュアルとおざなりの対応しかないものと思っていたので、彼女の対応がとても驚きでした。

注文の品を受け取り、店を出ようとする客に、彼女は、「おだいじに」と声をかけてくれそうで、客は年甲斐もなく、ジーンとしてしまったそうです。そして、さらに驚いたのは、病院で子息の前で袋を開けてみると、中にはメッセージカードが入っており、「早くよくなってくださいね」と書かれてありました。

※参考文献:『ザ・お客様相談室 売上高貢献率120億円!』(岸正則著/文芸社刊)

『あなたが創る顧客満足』(佐藤知恭著/日経ビジネス刊)

『毎日が楽しくなる 17の物語』(志賀内泰弘著/PHP研究所刊)

『お客様からの感謝状』(佐藤寛著/ 実務教育出版刊)

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2023年9月26日 (火)

一流経済紙の表紙を飾った清掃の「最強のチーム」

ある日、東京駅21番線で車内清掃作業中、ホームから熱心に作業を見ている海外からのお客様がいらっしゃいました。作業終了後、整列、退場の一礼をすると、ホームで待っていた30人くらいの海外のお客様全員から大きな拍手と歓声をいただきました。見えているから頑張るわけではありませんが、見えているからもっと頑張らなくてはとも思います。

上記は、株式会社JR東日本テクノハート(TESSEI 略称:テッセイ)は、東京都中央区に本社を置く、JR東日本グループの清掃会社の一人のスタッフの後日談です。このときの海外旅行者がネットで広めたのでしょうか、平成20年度に国際鉄道連合(UIC)の会合が日本で開かれた折、その分科会のメンバーたちがテッセイを視察に訪れました。

同じ年にドイツ国営テレビも取材にやってきました。さらには、映画俳優で元カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツネッガーさんや米国のラフード元運輸長官までもが視察に訪れました。この清掃会社らしからぬテッセイの取り組みは、多くのメディアや団体の関心を集めましたが、最初に関心を持つのが海外だったのは興味深いですね。

このテッセイには「エンジェル・リポート」と呼ばれる仕組みがあります。現場でコツコツと頑張っている人たちを、現場の上司や仲間たちが褒める仕組みで、一つひとつは小さいが、清掃の現場で起きている「ちょっと素敵な話」の数々。そこには、仕事とは何か、働くとは何か、そして経営とは何かを改めて考える大きなヒントが詰まっているのだと。

駅前が汚い街はダメだと思っている  土地の文化を取り入れたデザインで、鉄道とその土地の“光”を再生するというコンセプトを掲げ、活躍を続ける水戸岡英治氏は、JR九州のクルーズトレイン「ななつ星」ほか12路線を設計したことでも知られます。その水戸岡氏は、ある「街おこし会議」で「駅前が汚い街はダメだと思っている」と語気強く発言されたことがありました。

「街づくりは、デザインの中でも最も難しい。一番大切なのは、そこに住んでいる人たちの意識を変えることです。そこを変えられなければ、街なんて変わらない」。じゃ、何をすればいいか。「私は駅前が汚い街はダメだと思っている。街が汚いのは、その街の住民の意識が低いから。だから、毎週みんなで掃除する。そこから始めないとダメなんです」。

ナイチンゲールの掃除力  クリミア戦争中、彼女が配属されたスクタリ英国陸軍病院の、院内での兵士の死亡率は42%にもなっていました。そこで、衛生委員会を組成し清掃活動をしたところ、なんと半年で院内での兵士死亡率が2%にまで下がったのです。これは、病院自体が換気できなく、下水道の上に建っていたことが最大の原因でした。

ナイチンゲールはこの経験から、どんなに優秀な医師や看護師がいても、衛生管理がなされていないと、根本的な死亡率が低下しないことを痛感しました。そして、彼女はその後の活動を環境整備に重点を置くようになりました。1859年に発表した『病院覚え書』では排水設備、床、壁の素材、なかでも換気を最重要とした病院建築を呼びかけました。

参考文献:『新幹線お掃除の天使たち』(遠藤功著/あさ出版刊)

AERA』(朝日新聞社/2013610日号)他

『夢をかなえる「そうじ力」』(舛田光洋著/総合法令刊)

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2023年3月20日 (月)

第一印象を裏切ると、評価は逆転する

二つのジューサーを比べた面白い実験があります。「薄っぺらい」ジューサー(比較的小さくて、単純な丸みを帯びた形状で、白と透明のプラスチックでできている)と「頑丈な」ジューサー(背が高くて、垂直な形状をしていて、なめらかな曲線の形状で、シルバーメタリックと黒の組合せ)の動作中の動画を被験者に見せました。

「薄っぺらい」ジューサーから頑丈なしっかりした音が出ると誰もが驚きます。見た目が安っぽいので、「チープな音しか出ないだろう」と思っているのですが、実際にはしっかり動くので、「なかなかいいね」と納得します。一方、これもまた驚くのですが、「頑丈な」ジューサーから安っぽい音が出ると、こちらは落胆します。「見かけによらない」と。

つまり、私たちはまず見た目でどんな音が出るかを予測し、その予想がいい方に裏切られると高い評価をし、悪くなると低い評価になります。その予想を裏切られた感覚が製品そのものの評価に転嫁するのです。このような消費者の反応は「丈夫」な掃除機と「かわいい」掃除機を比較した実験でも同じような結果が得られています。

印象によって行動が影響を受けるのは見た目だけではありません。BGMのテンポがゆっくりだと、顧客の店内移動をゆったりとさせ、売上高を増加させることができます。しかし、レストランでは滞在時間が長くなってしまいます。同じように食べているときに聴いている音によって味覚が変わることを、航空会社の機内食の例で見てみましょう。

食べているときに聴いている音によって、味覚が変わります。「ソニックシーズニング」、これは、食べているときに聴く音楽によって味覚に影響を受ける現象です。有名なのはイギリスの航空会社であるブリティッシュ・エアウェイズ(BA)の取り組みです。気圧は味覚に影響を及ぼし、気圧の低い上空では塩味と甘味がわかりにくくなるのです。

地上では食欲をそそる料理も機内では味気ないものになってしまうため、航空会社は調味料を変えたり、味を濃くしたりなどの工夫を凝らしています。BAでは、そうした取り組みに加えて、ファーストクラスでは食事の際に料理に合わせてBGMを変えています。ソニックシーズニングでは、低温は苦みを、高音は甘味を強く感じるとされています。

辛口のシャンパンを提供するときには低音で、かつ炭酸を感じる音を流すと効果的とか。「ほかの航空会社」よりもBAの機内食はおいしい」という調査結果もあるほど。「元々の料理がおいしいのでは」と思われる方もおられるでしょうが、実はBAJALも機内食の製造元は同じです。環境によって人間の感覚が変わる一例といえるでしょう。

出典:『SENSE インターネットの世界は「感覚」に働きかける』(堀内進之介&吉岡直樹著/日経BP刊)

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2022年10月 7日 (金)

コーヒーカップの向きと利き手の関係性について(接客、接遇、CS向上のStory より)

コーチーカップの取っ手は右側左側?どちらも間違えでないと『世界一のおもてなし』には書かれています。同書によると取っ手を右側にするのはアメリカ式、左側にするのはイギリス式といって、どちらでも正しいのだそうです。それは、カップに入っているコーヒーの中身によって正解が変わるからなのだと。

そもそもイギリス式は砂糖やミルクをいれる際に、左手で取っ手を押さえて、右手に持ったスプーンで混ぜ、それから180度回転させて右手でつかんで飲むために最初は左側に取っ手がきている。逆にアメリカ式の場合は、薄めのアメリカン・コーヒーをそのままブラックで飲みやすいように右側に取っ手がくる。

イギリス式、アメリカ式というのは、カップに入っているコーヒーをどのように飲むかによる違いなのです。また、右利きか左利きかでは取っ手は便利な向きが違うので、飲み方によって、個人の好みによって取っ手の向きを決めればよいということになりそうです。次は、カップの取っ手の向きでも取り上げた利き腕とテーブルセットについてです。

CS(顧客満足)向上研修などと担当するときに、望ましい例としてスカンジナビア航空を取り上げることがあります。倒産目前だったスカンジナビア航空を再建したのは旅行代理店の経営者だったコーヒーの90%がカップに注がれれば上出来である。そんな中、あるレストランのウエイトレスは丁寧で、愛想がよく、テキパキとしていた。自分の仕事に誇りを持っていることが伝わってきたので、サービスが期待できた。そして、彼女が彼にコーヒーを注ごうとしたとき、予期せずことが起こった。

彼女(フランシス)は、コーヒーを注ぐ前に、「右利きですか、左利きですか?」と聞いたのだった。右利きを利かす世界で、そう聞かれたこと自体が驚きだったが、それがレストランのウエイトレスからだったことに彼はもっと驚かされた。彼が「左利きだ」と答えると、彼女はコーヒーカップを左側に移し、食器もすべて左利き用に置き換えた。

これ以前の彼は、カップなど、つねに自分で置き換えていた。それに慣れ切っていたのだ。しかし、彼女の接客・接遇に触れて彼のスタンスが変わった。あまりに素晴らしい対応を一度でも経験すると、もう他のサービスには満足できなくなるという体験をもとに、スカンジナビア航空を劇的に半角氏、短期間で有料航空会社に再建した。

最後はコーヒー効果についてです。カフェインの効果で目が冴えることはよく知られていますが、その効果は30分後ぐらいに現れます。このため、コーヒーを飲んですぐ昼寝すれば、30分後に目覚めてちょうどよいと言われています。また、香りの面からコーヒーを見ると、コーヒーフレーバーには鎮静効果もあるのです。

参考文献:『世界一のおもてなし』/『顧客第2主義』/『感性で〇〇マーケティング』

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2016年7月 3日 (日)

出版(共著)のご紹介を兼ね、身近な素材(アメ)によるミニCS講座です

研修でお世話になっているジャイロ総合コンサルティング㈱から6月に『会社を元気にする10のポイント』が刊行されました。ブログ筆者も執筆陣の一員として「CS研修」を担当させていただいております。CS(顧客満足)向上努力は即効性にはやや欠けますが、とても大切だということを身近な素材で、今回、臨時版として取り上げます。

【アメを番台に置くと】ご年配の女性のお客さまに喜ばれる(※1)
とある銭湯が「雨の日にアメを配る」というイベントをやっていることを聞いて、早速、日の出湯(参考文献の著者の経営する銭湯)でも取り入れてみました。番台にアメを入れたカゴを用意して、「自由にお取りください」と張り紙をしておいたところ、お客さま方に大好評でした。ただ、アメを受け取るお客さまは大半が年配の女性でした。

年配の女性がアメを好むのには理由があるそうです。参考文献の著者が調べたところ、ドライマウスで悩む女性は男性の3倍近いとか。喉の乾きは細菌を繁殖しやすくさせ、風邪などを誘発し肺炎の罹患へとつながりかねません。番台にアメを置くことは入浴と直接かかわりはありませんが、この銭湯の重要顧客のCS向上に貢献しました。

【アメを手渡すと】ミントキャンディーの渡し方でチップが変わる(※2・3)
レストランでのミントキャンディーを使った3つの条件下での実験から。
最初の実験では、伝票を渡す際にウェイターが客1人につき1つキャンディーを渡しました。すると、もらわなかった人に比べチップが3.3%増えました。次に、キャンディーの数を2つずつに増やすと、チップは14.1%も多くなりました。

最後に、ウェイターはまずキャンディーを1人1個ずつテーブルで渡し、いったん離れる素振りを見せてから、途中でわざわざ戻ってきて、ポケットから2個目のキャンディーを人数分だけ取り出して渡しました。この動作は、大切なお客さまだから特別に…を演出したものです。これだけでCSが向上しチップは23%も多くなったのです。

【打ち合わせ時のど飴を渡す】そのために常にカバンにのど飴を携行(※4)
面談中にお相手がしきりに咳をすることがあったとします。ご当人はのど飴を持っているかもしれませんが、ミーティング中であれば苦しくても舐めることを躊躇するでしょう。このとき、のど飴を携行していれば、それをすすめることで「咳が出るのでしたら、どうぞのど飴を舐めながら…」とのメッセージも伝えることができます。

これは、風邪をひいて咳き込む方との商談体験をもとに、参考文献の著者が実践している心得だそうです。実際にのど飴を口にして咳を気にせず話をできるようになると、お相手の集中力も理解力も格段に違ってくるとか。この姿勢は常に相手を慮り、最善を尽くそうとするホスピタリティ精神に通じるものがあるのではないでしょうか。

※1:『常連さんが増える会話のコツ』(田村祐一著/プレジデント社)
※2:『影響力の武器 実践編』(N・j・ゴールドスタイン&S・J・マーティン&R・B・チャルディーニ共著/誠信書房)
※3: 木の葉ブログ2010年9月11日「レストラン・飲食店のホスピタリティ5回」
http://leaf-wrapping-lw.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/28-4d13.html
※4:『接客サービスの達人』(江澤博己著/大和出版)
篇)】(キャンセルが出ました 1席あります)  

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2015年2月26日 (木)

互恵的利他行動促進にはアメとムチのどちらが効くか? 利他学(5)

互恵的利他行動を維持していこうとする場合、アメとムチではどちらが効果的なのかというと、実はムチ(罰)の方なのだそうです。理論生物学者のロバート・ポイドらは、その理由として、罰を与えることで集団から裏切り者を減らしていくというのは負のフィードバックになるからだ、と言っています。

コミュニケーション上のフィードバックとは別のフィードバック機能
フィードバックとは、入出力をもつ系において、出力が入力や操作に影響を与えること、と定義されています。フィードバックの身近な例は、エアコンの温度調整でしょう。フィードバック機能があるおかげで、放っておいても設定温度よりも低ければ高くなるように調整してくれるし、高ければ低くなるようにしてくれます。

社会が持つ司法制度や警察制度は多額の税金によって維持されている
ある集団の中に多くの裏切り者がいるとします。これらに罰を与えるのはコストのかかることですが、その結果として裏切り者の数はどんどん減ります。すると、数が少なくなったぶん、罰を与えるコストは少なくて済むようになります。つまり、どんどん裏切り者を探し出し、罰を与えていけばいくほど、コストは少なくなるのです。

もしかして、日本の高い治安はムチ政策によってもたらされた!?
最終的には、実際に罰を与えなくても、罰があるという可能性だけで裏切り者の発生を抑えるところまでいくでしょう。もしかしたら、現代日本のような治安がよい社会は正にこういう状態なのかもしれません。一方、報酬を与えることで集団内に利他主義者を増やしていくのは、その逆のフィードバックになります。

利他主義者に報酬を与えることも、もちろんコストがかかります
ある集団のなかに利他主義者が何人かいて、これらに報酬を与えることで集団内の割合を増やしていこうとするとどうなるでしょうか。報酬によって利他主義者は増えていきますが、数が多くなるとそれだけ報酬にかかるコストも増えていきます。つまり、このやり方では利他主義者が増えるほどコストがかかってしまうのです。

自然淘汰は、より少ないコストで適応度を上げるものを選択していきます
ゆえに、裏切り者を探し出したり記憶したりすることで罰を与えるしくみの方が、利他主義者を覚えておく「しくみ」よりも発達したのかもしれません。
以上が、小田亮氏の「アメとムチ」論でした。日本の社会に「減点主義」が多いのは、こうした考え方が根底にあるのだとしたら、少しさみしい気がいたしますね。

参考文献:『利他学』(小田亮著/新潮社)

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2015年2月22日 (日)

視線を感じると人は利他的行動を取る 利他学(4)

2人の米国の心理学者が大学生に実験室に来てもらい、独裁者ゲームに参加してもらいました。パソコンの前に座った参加者には、分配者(独裁者)かあるいは被分配者のどちらかの役割が割り振られます。分配者には、実験者から与えられる10ドルの中から、1ドル刻みで好きなだけ被分配者に分配するようにとの指示が与えられます。

4グループに分け、独裁者ゲームを行うと
分配者をパソコンの画面上に、「ホルスの目(古代エジプトのシンボル)」が2つ表示されている、同じ位置に単に文字が表示されているグループに分けます。もうひとつの条件としてヘッドホンをする、しないのグループ分けもしました。これらの4つの組み合わせにそれぞれ、20人強の分配者が割り振られました。

ホルスの目が2つあると1.5倍も気前がよくなる
さて、相手に対する分配額をそれぞれの条件で比べてみると、いちばん分配額が多かったのが、ヘッドホンなしで、目の絵がある条件でした。平均して3.79ドルが相手に分配されました。一方、ヘッドホンなしで、目の絵がない条件では平均2.45ドル。これらのあいだには、統計的に意味のある差がありました。

「目」だけのポスターには盗難を防止する力がある!
つまり、この差は偶然ではない、ということです。同じ目の絵がない条件でヘッドホンをした場合の分配額は2.32ドルであり、どうやら外界の音が聞こえているかどうかは分配額には影響しないようでした。しかし、目の絵のあることによって、分配額は増えました(この現象は、目のポスターを貼ると盗難防止に役立つことに共通する)。

なぜ目があると利他的になるのか?
この実験から、目の絵があることが利他性を高めるということが分かりました。つまり、人間には自分の方を向いている目をみると利他性が高まるという「しくみ」があるということなのです。では、なぜそのような「しくみ」があるのでしょうか。そこで考えなければいけないのが「機能」の問題です。

その鍵になるのは、「評判」ではないかと考えられている
前号で述べたように、お返しが期待できないような赤の他人への利他行動は、間接互換性によって維持されていると考えられます。そのためには、利他行動のやり手がよい評判を得ることができなければならなりません。そこで、他人の目があるときにはより利他行動をする、という「しくみ」が進化したのではないかというわけです。

参考文献:『利他学』(小田亮著/新潮社)

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2015年2月19日 (木)

「評判」が人に互恵的利他行動を起こさせる? 利他学(3)

私たちはしばしば、お返しができない相手に対しても利他行動を行います。前出のトラック運転手と子ども連れは初対面であり、その後も顔を合わせることはありませんでした。これを取り上げた放送局が運転手をつきとめて取材を申し込みましたが、「当然のことをしたまでだから、取材は勘弁してほしい」と言われたそうです。

情けは人のためならず
お返しが確実でなければ互恵的利他行動は成り立たないはずなのに、なぜ人はこのようなことをするのでしょうか。その答えは、「情けは人のためならず」ということわざにあると筆者。なお、このことわざは、情けをかける、つまり他人を助けることは、その人のためではなく、廻り回って自分のためになるのだ、という意味でしたね。

たしかに人間社会においては、助けてあげた相手から直接ではなく、まったく別の人から間接的にお返しがあることがあります。これを、「間接互恵性」と呼びます。
あるラジオ番組が紹介した投書があります。車でショッピングセンターに出かけたのはいいのだが、買物を終えて屋外の駐車場に戻ろうとすると、突然雨が降ってきた。

あいにく傘は持っていないが、ずぶ濡れになるのはいやなので、しばらく待っていると、ある人が傘を指し掛けてくれて、一緒に車のところまで行きましょう、と言ってくれた。その親切さに感動したので、今後は自分もそういう人を見かけたなら同じように傘を差し掛けよう、と決心した。

これはまさに間接互恵性の一例だといえます。傘を差し掛けた人は直接お返しをもらったわけではなく、傘を差し掛けられた人のお返しは第三者に向かっているのですが、このようないわば親切の輪が廻っていけば、最終的には傘を差し掛けた人に何らかのかたちで利益が戻ってくるかもしれません。

しかし、文明以前の小さな集団ならともかく、現代の文明社会にみられるような大きな集団で、そのように廻り回ってお返しがくることがありえるでしょうか。そこで注目されているのが、「評判」なのです。

進化生物学者リチャード・アレグザンダーは誰かにした利他行動に対し、たとえ本人から直接的なお返しがなくても、それを見ていた第三者によって、「あの人は親切な人だ」という評判がたてば、その後のやりとりで利他的に振舞ってもらえるだろう、ということを提唱しました。そうすれば、利他行動は十分に報われたことになります。

参考文献:『利他学』(小田亮著/新潮社)

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2015年2月15日 (日)

4つの「なぜ」 続・ティンバーゲンの問い(後篇) 利他学(2)

2015年2月10日の朝日新聞「声(Voice)」の欄に「冬の無人駅で受けた親切に感謝」という投書がありました。なぜ、人間は困った親子を通りすがりのトラック運転手が100キロも遠回りして助けたり、この投書のような利他行動を取る「しくみ」があるのでしょうか。今回は、そのメカニズムに「機能」との関係から迫ります。

人間が利他行動をする「しくみ」と「機能」の関係
道具を例にとって考えてみよう。一般的なハサミがどういう「しくみ」になっているかというと、ふたつの刃が交叉するように固定されていて、反対側には穴が空けられている。なぜこんな形になっているかというと、穴の部分に指を入れて刃を操作し、紙をふたつの刃ではさみこんで切断するためである。つまり、紙を人力で切るという「機能」を最も効率的に果たすために、ハサミの「しくみ」があるのだ。

人間が設計した人工物の場合、このように、「しくみ」は「機能」のためにある。ゆえに、ある人工物を前にしたとき、それがもつ「機能」が何であるかを考えると、その「しくみ」についての理解が進む。これが、「リバース・エンジニアリング(逆行設計)」という考え方だ。

人間がつくった道具というものは、普通は何らかの機能を持ち、目的を果たすように設計されている。つまり、人工物というのはエンジニアリングによって何らかの機能を果たすために各部分がつくられ、働いている。ということは、その人工物がもつ「機能」を考えれば、その人工物の「しくみ」につての理解が進むのではないか。

いままでハサミというものを見たことがない人が、生まれて初めてハサミを目にしたとしたらどうだろうか。なぜ、ふたつの刃が交叉するようになっていて、なぜ反対側に穴が空いているのか疑問に思うだろう。そこで、ハサミの機能を考えてみることが、その「しくみ」を理解するうえで大きなヒントになるに違いない。

同じことは、生物につてもいえる。人間だけでなく、すべての生物について、なぜその種がそんな「しくみ」をもっているのか、という問いかけをするとき、その「機能」を考えることが大きな助けになるのだ。

もちろん生物は誰かが設計して造ったものではない。その点は人工物と異なるところである。しかし、生物もメカニズムが働けば、あたかも誰かが設計したかのように非常に機能的なものになるのである。それが、「自然淘汰」だ。
文章は「自然淘汰と適応」に続きますが、本稿では割愛させていただきます。

参考文献:『利他学』(小田亮著/新潮社)

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2015年2月12日 (木)

4つの「なぜ」 続・ティンバーゲンの問い 利他学(1)

前回の「美しいセオリー(5)」は、少々難解だったかもしれません。しかし、あえて最終回で取り上げたのは、今回紹介する内容で「ティンバーゲンの問い」をある程度補足できると考えたからでした。京都大学霊長類研究所でおサルさんの研究をしていた小田亮氏の著書『利他学』が、「ディンバーゲンの問い」に触れています。

なぜ、私たちは他人に対して親切にするのだろうか
先日あるテレビ番組を見ていたら、大雪による列車の運行停止で高校の入試に遅れそうになった親子連れがヒッチハイクを試み、たまたま乗せてくれたトラック運転手が100キロほども遠回りをして、受験会場まで送り届けてくれた、というエピソードが紹介されていた。運転手は「ヨコヤマ」とだけ名乗って去って行ったそうだ。

なぜ彼は、そんなことをしたのだろう
人間に限らず、動物一般の行動について、「なぜ」そんなことをするのだろう、ということを考えるときには、4つの異なる考え方がある。これは、動物行動学の創始者の一人であり、1973年にノーベル医学・生理学賞を受賞したニコ・ティンバーゲンが提唱したものだ(前回記したものと文言は多少違いますがほぼ同内容です)。

4つの「なぜ」とは? ( )は専門家による要約
(1) その行動が起こる仕組みは何なのだろうか (至近距離)
(2) その行動にはどんな機能があるのだろうか (究極要因)
(3) その行動は個体の一生のうちに、どのように発達してくるのだろうか (発達要因)
(4) その行動は、進化の歴史においてどのような過程を経て今日に至っているのだろうか (系統的進化要因)

これらは、メカニズムかプロセスか、時間軸が長いか短いか、という分け方もできる。(1)(2)はメカニズムであり、(3)(4)はプロセスである。
これらの4つの問いは、それぞれ別々の視点から同じ行動を眺めているのであり、どれが正しいというものではないし、混同してはいけない。ところが、「なぜ」ということを考えるとき、「しくみ」についての答えで終わってしまうことがよくあるのだ。

心理学では利他行動は「援助行動」あるいは「向社会的行動」などと呼ばれることが多く、どのような場面でどういった感情が働いて、このような行動が発現するのか、という記述に終始している。しかし、それだけでは答えになっていない。なぜ、人間はそのような「しくみ」があるのだろうか。また、なぜその「しくみ」はそのような特徴を持っているのだろうか…。(後篇に続く)

参考文献:『利他学』(小田亮著/新潮社)

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