マーケティング・その他

2023年6月 5日 (月)

梨園に嫁した藤原紀香さんの相手に合わせた手紙術

藤原さんは2016年に歌舞伎役者の六代目片岡愛之助さんと結婚し、女優業をおこないながら夫を支える充実した日々を送っています。その梨園での奥様業のひとつに、後援者など日頃お世話になって方々からのお礼状や挨拶状へ、返信をしたためるお役目があるそうです。そのご様子が『趣味の文具箱Vol.45』に紹介されていました。

プロフィールの趣味の筆頭に「書」とあり、昔から書を習う藤原さんは、毛筆の使い手でもあるそうです。そして細やかな心くばりは、「手紙の返信を書くときは、相手からいただいた手紙の筆跡に近い筆記具を選びます。そして、墨でくださった方には毛筆で、インクでくださった方には万年筆で、という風に使い分けているとのこと。

さらに驚かされるのは、その筆記具に合った線を描ける紙を選ぶのだそうです。お礼状や挨拶状には、くださった方の思いがこもっているとの考え方から、お相手の選んだものに合わせて用紙にまで気くばりする。なかなかできない配慮ですが、ご返信をいただいた方々は、人気女優さんのそうした心のこもった返信を嬉しく思わないはずはありません。

兵庫で生まれ育った藤原さんは神戸への想いもひとしおで、神戸の印刷会社・大和出版印刷が展開するステーショナリーブランド・神戸派計画のダイアリーやノートを長年愛用しているとのこと。「グラフィーロの紙質が素晴らしくて。万年筆でぬらぬらと快適に書けますし、インクの色も綺麗に出るところが嬉しいです」と。

本稿の最後は、「SNSの時代にあえて『手紙』の話」のTwitterシリーズ②で書いたことを簡単に取り上げます。①は向田邦子さんの「どんなにみっともない悪筆悪文の手紙でも、書かないよりはいい」でした。向田さんは書かなくてはいけない時に書かないのは、目に見えない大きな借金を作っているのと同じなのである」と書かれています。

②はタピオ(店名は靴下屋)の創業者・越智直正氏が修行時代の苦難を訴えた手紙に、お兄様が返した不思議な手紙につてです。その手紙には、たった二行「山より大きな猪はいない 海より大きな鯨はいない」と。越智氏は、当初、兄は何か勘違いをしたのでは…と思いますが、それが兄から弟への、愛情のこもった戒め(いましめ)であることに気がつきます。

いくらガタガタ泣き言を書き連ねても、実際はお前が言うほどのことはない。黙って自分に与えられた職務をまっとうしなさい。そうすれば、いずれ自分の道を切り開くことができるだろう。それまで頑張りなさい、とお兄さんが諭してくれていることに気付いたのでした。この兄にしてこの弟ありですね。豊富な品揃え、リーズナブルな靴下にも感謝です。

参考文献:『趣味の文具箱Vol.45』(枻出版社刊)

11話 読めば心が熱くなる 365人の 仕事の教科書』(致知出版社刊)

『折れない言葉Ⅱ』(五木寛之著/毎日新聞社刊)『少しぐらいの嘘は大目に――向田邦子の言葉』より

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2023年5月21日 (日)

「変わりたいのに変われない」のジレンマに向き合う

「ニ―バーの祈り」は、アメリカの神学者「ラインホールド・ニーバー」が1943年にマサチューセッツ州西部の山村の小さな教会でのお説教したときの祈りとされています。「平静の祈り」、「静穏の祈り」とも呼ばれ、第二次世界大戦中に兵士たちに広まり、その後、世界中で広く知られるようになりました。その全貌(大木英夫氏訳)は以下の通りです。

 

神よ、変えることのできるものについて、それを変えるだけの勇気をわれらに与えたまえ。

変えることのできないものについては、それを受けいれるだけの冷静さを与えたまえ。

そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを、

識別する知恵を与えたまえ。

 

「変えることのできるものを変える勇気」とは

「他人と過去は変えられない」との考えに沿えば、「自分と未来」は変えられる可能性があるでしょう。しかし、アナトール・フランスによれば「変化はそれが周囲から祝福される性格のものであっても苦痛を伴う」ようですから、変えるのには勇気がいるのですね。 

                

「変えられないものを受けいれる冷静さ」とは

「風水盆に返らず」の故事もありますが、世の中には自分の力や努力だけでは変えられないものもあります。そうした事柄にいつまでも執着しない冷静さが大事なのでしょう。

 

「変えることのできるものとできないものを識別する知恵」とは

キルケゴールの著作に『あれかこれか』がありますが、単純な二者択一も哲学者のテーマになるのですね。識別する知恵を身につけるのが人生の目的のひとつなのかも。

 

さて、Twitterにシリーズで「変わりたいのに変われない」をツイートしましたが、その1回目に変える勇気の好事例として、数年前の世界的ベストセラー『嫌われる勇気』を取り上げました。この本は、企画書上では『なぜ、あなたは変わりたいのに変われないのか』がタイトル案だったそうです。それが出版直前で『嫌われる勇気』となりました。

「嫌われる」と「勇気」という普通、組み合わされることのない単語を組み合わせることで、化学反応が生み出されている素晴らしいタイトルですが、決定までには「嫌われる」が刺激的過ぎて曲折があったとのこと。候補に上がったのは、『無意味な人生に意味を与えよ』『自己を啓発せよ』『劇薬の人生論』『普通であることの勇気』などだったそうです。

最後はシリーズ2回目の「守破離」です。世阿弥の『風姿花伝』出典説もありますが、ここでは千利休『茶の湯の心得』を取り上げました。守(維持):教えを守り、基本を身につけるため「型」を手本とし反復模倣。破(小変化):基本を応用し、試行錯誤しながら個性や特性の発揮を目指す。離(大変化):新しい独自の「型づくり」に取組み「新境地」を拓く。

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2023年5月14日 (日)

「楽観」と「悲観」が人生に及ぼす影響について

心理学者のマーティン・セリグマンは、2年間にわたりメットライフ生命保険に採用された15千人以上の新人外交員の営業成績を追跡調査した。楽観度と実際の販売実績を比較したところ、楽観度の高い外交員の売上は、悲観的と判定された外交員の売上を37%上回っていた。さらに、楽観と悲観の上位10%の比較では楽観派が88%も上回った。

セリグマンの別の研究によると、説明スタンスを悲観的なものから楽観的なものに変えるだけで、気分が楽になり、グリッド(やり抜く力)が増すという。このことは個人ばかりでなく、集団にも当てはまる。彼はメジャーリーグの野球チームに関する新聞記事を分析し、ある年の監督の談話(楽観と悲観の比)から、翌年のチーム成績を予測できたと。

では、私たちが日常接する人がどちらのタイプかを見極めるにはどうすればよいでしょうか? 私が研修で実演するのは、水の入ったペットボトルとコップを用意し、演壇の上でコップに半分水を注ぎます。そして、受講生に尋ねるのです。このコップには「半分しか水が入っていない」と思うか、それとも「まだ半分残っている」と思いますかと。

実は、これは劇作家のバーナード・ショーの受け売りです。彼は、ある討論会で次のように発言しました。「さて、二人の前に、ウィスキーが半分入ったボトルを置くとしましょう。楽観主義者は『なんて嬉しいんだろう! まだ半分も入っている』と喜びの声をあげますが、悲観論者のほうは『残念だなあ! もう半分しか残っていないよ』とつぶやくと。

最後は京セラ創業者・稲盛和夫氏の言葉から。氏は「楽観的に構想し、悲観的に計画し、楽観的に実行する」という姿勢を示していらっしゃいます。新しいことを成し遂げるには、まず「こうありたい」という夢と希望をもって、超楽観的に目標を設定することが何より大切です。そして、「必ずできる」と自らに言い聞かせ、自らを奮い立たせるのです」と。

「しかし、計画の段階では、『何としてもやり遂げなければならない』という強い意志をもって悲観的に構想を見つめ直し、起こりうるすべての問題を想定して対応策を慎重に考え尽くさなければなりません。そうして実行段階においては、『必ずできる』という自信をもって、楽観的に明るく堂々と実行して行くのです」と。

「昨日よりは今日、今日よりは明日、と次から次へと新しいことを考えていく。つまり、常に創造的なことを考えるということが、私(稲盛和夫氏)の習い性になっています。そのおかげで、私は新しい技術を次々と生み出してこられたのだと思いますし、京セラも今日のような大企業に成長してこられたのだと信じています」と。

参考文献:『プレッシャーなんてこわくない』(ヘンリー・ウェイジンガー&J・P・ポーリウ=フライ共著/早川書房刊)

『あなたは人にどう見られているか』(松本聡子著/文藝春秋社刊)

『京セラフィロソフィ』(稲森和夫著/サンマーク出版刊)

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2023年2月13日 (月)

文学からネットまで誤植・誤字・誤変換の変遷

ツイート、ブログでの反省から図書館で手にした『誤植読本・増補版(筑摩書房)』に目を通すことで、修正のきかない出版物の著者並びに編集者・校正者のご苦労がよくわかりました。Twitterのツイートなど一部を除いて、発信情報の誤りを上書きできる時代では想像もできないご苦労の一端をご紹介し、最後にSNS上の誤変換について触れます。

『誤植読本・増補版』高橋輝次著/筑摩書房 Ⅰ 誤植打ち明け話 外山滋比古 「校正畏るべし」・・・書いた本人が校正をすれば誤植が根絶できるかというと、そうでもないからやっかいだ。むしろ当人の校正の方がミスが多い。意味をとって読むからだろうと言われている。校正というものは、よほどていねいに見たつもりでも誤植が残る。

電話で送信する新聞には面白い同音異字型の誤植があらわれる。「学校給食にお食事券」の正体は「学校給食に汚職事件」であった。仮名もよく誤植のタネになる。婦徳を説いた一文の中に、「ゆする心がけ」とあったらびっくりするだろう。これは「ゆずる心がけ」の誤りだった。

Ⅰ 誤植打ち明け話 林真理子 「誤植」(出典同上)ああ恥ずかしい。これほど恥ずかしいことがあってよいものだろうか。私が書いた散文の中で、ものすごい誤植が発見されたのである。誤植というのは、印刷のミスなどで、全く違う文字や言葉が入ってしまうことをいう。それに気づかないのは編集者のミスということになるが、まあすべての責任は私にかぶさってくる。

ミスはミスなりに、いかにもそれらしく支離滅裂になってくれればいいものを、その誤植は実に見事にきまっていた。「○○○○できまる」と書いたところ、「できまる」が「できる」になっていたのである。たった一文字違うだけなのに、たちまち未婚の女性が口にすべきではない表現になってしまう。ああ恥ずかしい。

Ⅳ 近代作家の誤植・校正 佐藤春夫 「誤植というもの」(出典同上)校正のむつかしさを、葉を掃くがごとしと言ったのは中国人である。一つ見つけて整理したと思うころにまた一つ見つかる。あとへあとへきりのないところを、校正者の側から落葉の庭を掃くと見立てたのであろう。人を悩ますこと最も多いものは、ミスプリントだと言ったのは、誤植本を読む側から言ったアメリカの駄じゃれであろう。

 自分で見ると自分の記憶で調子に乗って読んでしまうから、かえって間違いを気づかない場合もある。その点、散文は詩よりはいくらかよいが、落ち着きのないそそっかしい自分はいずれにせよ、校正者としては不適当な人間である。そのために校正しているのだとは思いながらも、あまりひんぴんと出る誤植を見ると、腹が立って来てしまうのである。

 VOW ニッポンの誤植(宝島編集部・編)』より。←の左側が誤変換例。

「人妻なんだね」←「一つ学んだね」 「杏と匂いの木」←「アントニオ猪木」

「これモアイの力です」「これも愛の力です」

❖「胃マドンナ状態」←「今どんな状態」 ❖「徳川マイ雑巾」←「徳川埋蔵金」

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2022年10月 1日 (土)

正しい順番があることを小笠原流礼法とミルクティーの淹れ方で学ぶ

源頼朝に仕え、武士の礼法を確立したとされる小笠原家。その33代目となる小笠原忠統(ただむね)氏によると、「かたち」が身につくと、かたちを追い求める人は、どこまでいってもかたちにばかり囚われがちとなる。しかし、「こころ」を大切にする人が、かたちを身につけると、自然で美しい立ち居振る舞いができるようになる、とのこと。自己の内面から発せられる真摯な心遣いが、美しい立ち居振る舞いとあいまって日常生活が満たされるときこそ、礼法はその究極に達するのである。

「こころ」とは、相手を思うこころである。「かたち」とは、その心を行動によって表すことである。つまり、「作法」は「かたち」である。「こころ」と「かたち」、どちらが先かといえば、もちろん「こころ」である。

次はミルクティーの淹れ方の順番です。ミルクティーを美味しく飲むには、ティーカップに先にそそぐのはミルクか紅茶かという議論が、100年前の英国ケンブリッジのある家庭の庭園でありました。発端は、大学教授などの集まりで、あるご婦人が、「紅茶にミルクを注ぐのとミルクを紅茶に注ぐのでは味が違う」と言ったからでした。

すると、科学知識に自信のある教授たちは、「それはまったくナンセンスだ」「何が違うと言うのだ?」などと言って、ご婦人の発言を一斉に嘲笑混じりに否定したそうです。彼らにしてみれば、紅茶とミルクが混じってしまえば科学的な違いなどあり得ない、との認識以外の判断基準が存在しうることに思いが至らなかったのでしょう。

そのうち、1人の男性が「じゃあ、ここで試してみようじゃないか」と提案し、ブラインド状態で順番を入れ替えながら複数のカップにミルクティーを用意し、ご婦人にテスティングを求めました。注目される中で、テスティングに応じたご婦人は、どちらが先かをすべて言い当て、その後のテストでも一度も間違えませんでした。そして、謎が残ったのでした。

この謎は2003年英国王立科学協会の「1杯の完璧な紅茶の淹れ方」というウィットに富んだプレリリースで解明されました。ミルクは紅茶の前に注がれるべきである。なぜなら牛乳のタンパクは、牛乳が摂氏75度になると変質してしまうから、というのがその理由。これほどミルクティーにこだわるのはまさにイギリス人らしいところですね。

参考文献:『誰も教えてくれない 男の礼法』/『統計を拓いた異才たち』/『統計学が最強の学問である』

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2022年8月22日 (月)

コーヒー初心者のための珈琲豆&ミニ知識

自宅で豆を挽くコーヒー愛飲家が増えているようです。ブログ筆者もご多分に漏れずその一人(初心者レベル)なのですが、『人生を豊かにしたい人のための珈琲』という本に図書館で出会って、コーヒーにまつわるさまざまな知識の一端に触れることができました。今回は私同様の「コーヒー初心者のための珈琲豆知識」です。

そもそも美味しいコーヒーの私なり(筆者の川島氏)の定義をひとことで言えば「冷めても美味しい」です。まずいコーヒーは冷めたらミルクと砂糖を入れないと飲めません。酸味が苦手という話もよく聞きます。コーヒーは甘味と酸味を楽しむものですが、コーヒー本来の酸味と、酸化した「酸っぱさ」は違います。ツンとした酸味は酸化です。

砂糖もミルクも要らない本当に美味しいコーヒーを飲もうと思うなら、焙煎豆を量るのに柄杓状の「メジャースプーン」を使うの合理的ではありません。なぜなら、重さではなく体積で量っているからです。これは抽出時の濃さ・薄さに影響を及ぼします。家庭では、面倒でも重さを量るスケールを使うことをお勧めします。

レシピについて著者のお勧めは、ザラメ程度のやや粗びきで1杯(150㏄)淹れるのに20グラムが適量だそうです。ですが、2杯(300㏄)抽出では40gではなく10%減らして36gを使います。このように増杯に応じて徐々に量を減らし、4杯(600㏄)なら80gではなく25%減らして60gで事足ります。

少しでもコーヒーをかじった方なら「コーヒーはフルーツである」と聞いたことがあるかもしれません。これは著者が言い始めた言葉だそうです。コーヒーはワインと同じようにフルーツからできた飲料です。だからこそ取り扱いもフルーツ同様でなければいけません。クオリティと同じく鮮度も重要とのことです。

寒暖差のある畑で収穫されたコーヒーは、花が咲いてから熟するまでの期間が長くなるので、密度が高くずっしり重たい豆になります。ゆっくり成長することで、油脂やショ糖の量が増えるのです。コーヒーの量り売りで、いつも通り200g買うと「今回はやけにかさばって量が多くて得をした」と感じたことはありませんか?これは得をしたのではなく、密度の低いコーヒーを買ったということです(ただし焙煎度合いによって体積は変わり、深煎りほど体積が増えます。ですから同じ焙煎度合いで比較しての話です)。

最後は誤解を招きそうな「ゲイシャ」という名が登場する珈琲豆のお話です。昨今ではゲイシャが世界中でもてはやされているそうですが、日本語の芸者とは無関係で、産地のひとつ、エチオピアのゲイシャ村がその由来です。ジャスミンの花にも例えられる独特の香りが特徴だそうです。是非一度楽しみたいです。

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2022年8月16日 (火)

セミ・ヘビの脱皮から、組織の脱皮に思いを馳せる

夏の風物詩の一つにセミ時雨がありますが、その足元には「脱皮」したセミの抜け殻があちこちに見受けられます。この夏、公園で両手いっぱいにそのセミの抜け殻を誇らしげに捧げ歩く九少年を見かけたとき、10年ほど前に読んだ本のある一節を思い出しました。そこには親子のさりげない会話が記されていたのですが、その内容が深かったのです。

本の著者は『サラダ記念日』などで有名な歌人の俵万智さんで書名は『小さな言葉』ですが、その親子の会話を俵万智さんは、コピーライターとして高名な糸井重里さんのサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の「いいまつがい」というコーナーで見たそうです。その回のテーマは言い間違いばかりを集めていました。

その中で、俵さんが今までに特に印象に残っているのが以次のフレーズでした。「あっ、セミのなきがらだ」と子どもが言い、親は「ぬけがら」の言い間違いだと思うのだが、よく見ると「脱皮の途中で干からびてしまったセミ」だった、というもの。つまり間違いではなかったというお話です。

私はセミ時雨を浴びながら、生命のたくましさを感じることが多かったのですが、この文章を読んでから「脱皮」が命がけの行為であることに思いが至りました。そして調べてみるとセミの幼虫が「脱皮」に成功するのは全体の40%にも満たない(なきがら60%強)ことを知りました。彼らにとって「脱皮」は命がけの戦いなのです。

デジタル大辞泉の「脱皮」の解説は以下の通りです。

1.昆虫類や爬虫類(はちゅうるい)などが、成長のため古くなった外皮を脱ぎ捨てること。

2.古い考え方や習慣から抜け出して新しい方向に進むこと。「旧弊からの脱皮を図る」

この解説1.2を包含したような内容が『ニーチェの言葉』に中にあります。

「脱皮しないヘビは破滅する。人間も全く同じだ。古い考えの皮をいつまでも被っていれば、やがて内側から腐っていき、成長することなどできないどころか、死んでしまう。」

『脱皮成長する経営』という本には、「脱皮には、ヘビのように脱皮を繰り返すことで単純に体を大きくしていくタイプと、セミやトンボ、カゲロウのように脱皮することで姿形だけでなく、活動空間や食べ物まで変えて変態を遂げるタイプの二種類の脱皮を思い浮かべることができる。本書でイメージして欲しい脱皮は後者である」と。

そして、この本の主人公ともいえる前川正雄氏(※)が用いる脱皮には、組織の文化を更新し、あらたな製品で新しい顧客を対象としたビジネスを展開して、成長を遂げていくといった意味を有しているそうです。同氏によると、「組織を同じ姿で成長させてきたのではない。過去の姿や取り組みを捨て去りながら成長させてきた」のだと。

参考文献:『小さな言葉』『ニーチェの言葉』『脱皮成長する経営』

※前川正雄氏(前川製作所・会長歴任後顧問に)

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2022年8月 4日 (木)

その曲が球場に鳴り響くと何かが起きる!

私は、研修の谷間に頭休めと気分転換を兼ねて気軽に読めそうな文庫本を中心に数冊買うことにしています。そして今年の春に購入した中に『20歳(はたち)のソウル』(幻冬舎文庫本)が入っていました。そしてこの本が、その後の2か月の間に、私の周りで大きなうねりを生じていたことについて書くことにします。

この7月に書名と同じタイトルでロードショーされましたので、本もしくは映画で内容をご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、簡単にストーリーを紹介すると・・・。この物語の主人公は、千葉県のスポーツ強豪校のひとつに船橋市立船橋高校(略称は市船)吹奏楽部に所属した浅野大義(たいぎ)さんです。

浅野さんは母校に「市船ソウル」という応援歌を残します。そして市船はスポーツ競技会場で吹奏楽部の後輩たちがこの「市船ソウル」を熱く演奏するのですが、不思議なことにこの曲が流れると野球ならその回に点が入るのだと。私は、そんな・・・と思い2022年7月27日の千葉県の決勝戦をテレビで観戦したところ、本当にその通りの展開となり感動したのでした。

主人公は卒業2年後、20歳の若さで肺がんでなくなっており、自分の作品が母校を鼓舞し続け春夏の甲子園の切符を手にしたことは知りません。ある意味悲しい物語ですが、ブログ筆者が2か月にわたり心を揺さぶられ続けたのはどうしてかと思いをめぐらしたところ、思い当たったのが「カドカワ」が一時期を風靡した「メディアミックス」の効果でした。

プレゼンテーション研修の際にメディアミックスについて触れることがあります。簡単に言えば、情報を介する手段として言葉という単独メディアだけよりは、画像などの別のメディアを併用した方がはるかに相手の記憶に残るので、たとえ紙の資料を用意している場合でも、新しい技術やサービスについてプレゼンする際にはメディアミックスが大事なのだと。

では、メディアミックスをするとどのくらい効果があるかを2例紹介しましょう。まず最初はアメリカ空軍(※1)から。彼らは説明の仕方(①ことばだけで説明したとき、②図表だけ見せたとき、③図表を見せながら、言葉で説明したとき)によって、3日後に記憶されている情報の量がどのくらい違うかを調べました。

それぞれを比較してみると、①ことばと②図表の組み合わせが最もよく、72時間後、ことばと図表(①と②)を併用した時の聞き手は、①ことばだけの聞き手の6.5倍以上、②図表だけの場合の3倍以上、記憶していたといいます。次は神経科学の研究(※2)から、情報を耳から聞いただけでは内容の役10%しか覚えられないが、耳から聞くのと同時にその画像を見ると内容の65%を覚えている可能性が高いと確認されたそうです。

メディアミックスを最大限活用したのは「カドカワ」でした。1970年当時に流されたキャッチフレーズ「見てから読むか」「読んでから見るか」を記憶している人も多いと思いますが、仕掛人の角川春樹さん、お見事ですね。これに『20歳(はたち)のソウル』は『聴いてら・・・』が加わりましたので、その効果に私は完全に取り込まれてしまったのでしょう。

※1:『発表する技術』、※2『ビジネスと人を動かす驚異のストーリープレゼン』

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2022年7月30日 (土)

アフター5に行くならどっち? 「大阪環状線総選挙」という“仕掛学”の試み

この2年ほど研修のほとんどはパソコンの画面を通してオンライン研修でしたが、先日久しぶりに以前からお付き合いのある会社さんのリアル研修のため3日間大阪に出張しました。移動日は大きなスーツケースを携えており、乗り換えのJR西日本大阪駅では通常昇る階段をパスしてエスカレーターを利用しました。

夕方の帰宅時間帯でもあり、広い階段のわきに設置されたこのエスカレーターには行列ができていると覚悟していきましたが、これが意外にスムーズでした。研修講師という仕事柄、常に先を予測しながら行動を心がけているのですが、この時も「どうして・・・」と頭を巡らせたところ、2か月ほど前に読んだある雑誌の記事を思い出しました。

『日経ビジネス』2022年5月23日号「大阪発のオモロイ仕掛学」には、人の行動を変える「仕掛学」を提唱する大阪大学大学院経済研究所の松村真宏教授の研究チームによる3年前(2019年7月末~8月初)の、「大阪環状線総選挙」という面白い実験(当日私が利用したそのエスカレーターのその横の階段でおこなわれた)のことが書かれていました。

「アフター5に行くならどっち?」と、実験では、エスカレーター横の広い階段左側部分を赤く塗り、白抜きで「福島派」、右側を青く塗り同じく「天満派」と大きく書きました。要するに、大阪環状線への乗り換え方向を示し、この会談を利用した人の数をリアルタイムで公表するという遊び感覚の仕掛です。

たまたま実験期間中は連日うだるような暑さで、階段を使ってもらえるか心配されたそうですが、実験の結果1週間の階段利用者のうち福島派は50,731票(人)、天満派は85,759票(人)となり、投票結果は天満派の勝利だったそうです。

研究チームによると、これがそのまま、それぞれの街の人気を表しているかは分からないとのことですが、階段利用者が1日あたり1,342人増加(全体の7.4%)したことが推計上ですが確認できたそうです。実験成功というか仕掛けがうまくいったのですね。

この大阪駅と同じような実験がアメリカの大学最寄りの地下鉄の駅で行われたことがあります。「学生は、階段を利用すること」というプラカードを立てたのです。すると、学生たちは階段を利用するようになりました。そして、これが間接的暗示法、簡単に言えば波及効果をもたらし、一般の利用者も階段を使うようになったそうです。

最後は前出の大阪大学・松村真宏教授の著書『仕掛学』に、教授がハリウッドで見かけた白い階段の間に一部黒い階段が混じることでピアノの鍵盤に見立て、実際に歩くと音が鳴るピアノ階段のお話です。2022年7月29日の毎日新聞のウエブ版によると、これと同様巨大階段ピアノ」が、福岡市中央区の西鉄福岡(天神)駅北口に登場しました。

44段ある大階段の中央の踊り場から下部分の4段目から18段目までを踏むと音が鳴るそうです。赤外線センサーが階段の端に設置されており、ステップを踏むことで赤外線が遮られ、それを感知して音が鳴る仕組みなのだとか。西日本鉄道と福岡市が街中のにぎわい創出と市民の健康増進を目的に、共同で9月11日までの期間限定で設置したそうです。

参考文献:『日経ビジネス』2022年5月23日号、『人は「暗示で」9割動く!』、『仕掛学』

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2022年7月23日 (土)

スポーツ競技と熱中症対策

今回は『医療者のための熱中症対策Q&A』という本の中から主にスポーツを取り上げます。特に熱中症のリスクが高い競技はありますか?  熱中症発症、死亡者は野球、サッカーに多いですが、重症の割合が高いのは陸上競技です。運動を行う環境や運動の強度、持続時間、特有のユニフォーム、ヘルメットなどの装備などが危険因子となります。

環境面でリスクが高い競技は?暑熱環境下ではいかなるスポーツも熱中症に陥るリスクがありますがが、特に日射を受ける野球やサッカーなどの野外運動やマラソンや競歩のように道路から輻射熱を受ける環境は危険度が高い。バドミントンや卓球のように、無風条件が要求されるスポーツは締め切った体育館で行うので、これも危険であります。また、登山のように身体を冷やして休ませる場所が得られにくい医療関係が身近にないような状況では、たとえ発症時は軽症で会っても重症化のリスクが高くなります。

インターバルトレーニングのような強度が高いものや、ランニング、競歩のような連続運動するもの、野球やサッカーの様に区切りの時間が長く思う通りに休憩や給水が取れないスポーツはリスクが高い。さらに剣道やアメリカンフットボール、フェンシングのようなヘルメットや防具、野球のような重ね着のユニフォームは高いリスク因子となります。

連続運動する場合には気楽に水分補給できる環境を整えることが必要であり、いつでもトイレに行ける環境を整えることで、選手や参加者たちが尿意を抑えるために水分を控えることが決してないように配慮する。ヘルメットや防具はできるだけこまめに外して熱の放散を促すように指導する。衣服も頻回に交換することを勧める。休憩時には日陰を確保し、症状出現の際は速やかに冷房の効いた部屋で休ませることができるようにしておく。

プールでも熱中症は起こるのでしょうか? 水の中でも運動をすれば、体内で熱を産生し汗をかきます。口渇を感じにくく、水分摂取量も怠りがちです。そのために水泳の練習中に熱中症を発症することがあります。また、プールの水温が高いと熱中症になる危険性が増します。

汗をかきにくい体質の人が気を付けることは? 特に気をつける必要があるのが室温と湿度です。冷房使用時は室温「28℃」を目安に、適切な温度となるように冷房を設定することが推奨されています。ただし、窓際など室内の場所によっては温度が高くなる場所がありますので、注意が必要です。また、湿度が高いと同じ室温でも汗が蒸発しにくくなるため、湿度は70%を目安にコントロールしましょう。なお、室温が24℃を下回り、外気との室温差が大きいと部屋に出入りする際に体の負担になるため、注意が必要です。

熱中症予防の食生活の基本は? アルコールや多量のカフェイン、糖分の摂取を避け、偏りのない食事を定期的に摂取し、十分な休息をとり規則正しい生活を送ることです。熱くなる前にはたんぱく質やビタミンCを中心に、暑くなってからはビタミンや水分、電解質を中心に摂取するとよいでしょう。

※:参考文献『医療者のための熱中症対策Q&A』

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