象集団のように賢ければリーダーは務まるらしい
『ドラッカー思考法大全』によると、「「データ」に意味を加えたものが「情報」であり、その情報を「成果をあげる能力」に転換したものが「知識」になると。象は年齢が一番高いメスがリーダーとなるのは、成熟オスが群れを離れることと無関係ではないにしろ、渇水期にどう進めば水源に到るかの知恵(経験)を最優先した合理的な判断なのでしょう。
またドラッカーは、「知っていることとできることは違う」として、こんな事例を挙げています。「ある地域を空爆するかどうかは司令官の判断である。しかし、その司令官も1気象予報官の判断を無視して飛行機を飛ばすことはできない」と。それは気象予報官だけでなく、市場調査担当者やマーケティング担当者などについても同じことがいえると。
ところで、一見理にかなった象の集団のような考え方が、はたして今日のビジネス社会で通用するでしょうか。これについては、「1匹の羊に率いられた100頭のライオンと、1頭のライオンに率いられた100匹の羊が戦ったら」という喩え話がよく語られますが、アレクサンダー大王もナポレオンも強者のパワフルリーダーシップの支持派です。
しかし、強者が率いれば弱卒も力を発揮するとの考え方に異を唱えた経営者がいました。それは、すでに過去の人との見方(最近は再評価されてきた感あり)もあるようですが、30年も前からスタートアップ企業家養成所のようだとして早くから注目を集め、そのトレンドが今日まで脈々と引き継がれているリクルート創業者・江副浩正氏がその人です。
江副さんのリーダーシップは年長のメス象のそれに似ているのではないでしょうか。
戦略の古典として知られる『孫子の兵法』の「計略(第一)」に「将とは、智・信・仁・勇・厳なり」があります。白川静博士の『字通』によると、「智」とは知恵のあること、「信」はまこと、「仁」はいつくしむこと、「勇」は勇ましいこと、「厳」はおごそかなこと。
孫子の「将とは、智・信・仁・勇・厳なり」を、白川博士の『字通』の解説に沿って理解を進めると、前段の「智・信・仁」と後段の「勇・厳」の意味するところは大きくわかれます。前者は年長のメス象の穏やかなサーバント・リーダーシップを思わせ、後者は1頭のライオンの100匹の羊の集団への支配型リーダーシップが当てはまりそうです。
なお、『孫子に経営を読む』の著者は、マキャベリの『君主論』から「君主は、たとえ愛されなくてもいいが、人から恨みを受けることがなく、しかも怖れられる存在でなければならない」を引用し、『孫子』の「信や仁という人から敬愛される徳目」よりも、「勇や厳という恐れられる特性」を重視するマキャベリの姿勢に疑問符を投げかけていらっしゃいます。
参考文献:『ドラッカー思考法大全』(藤屋伸二著/KADOKAWA刊)
『孫子に経営を読む』(伊丹敬之著/日経BP&日本経済新聞出版本部)
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